日本の民主党が4日、すでに公約していた日米自由貿易協定(FTA)の締結という政策を引っ込めたそうです。産経新聞はじめ各紙が報じています。
この変わり身の簡単さには驚きました。つい数日前にマニフェストで堂々と日米自由貿易協定の締結をうたい、「貿易・投資の自由化を進める」と発表したばかりだったのです。しかもこの種のすばやい変身はFTAだけに限りません。
ワシントンを拠点に日米関係の変遷を長年、観察してきた私としては、民主党の日米FTA締結という当初の公約発表には驚き、感心しました。日米自由貿易協定というのは日米関係の緊密化や日本の市場開放促進を求める日米両国の一部の識者や政治家たちが長年、やや遠慮がちに唱えてきた構想です。
遠慮がちなのは、日本の農業市場を「自由貿易」化すると、競争力の高いアメリカの農業に押されて、瀕死の状態を招きかねないため、日本農業保護の立場に立つ人たちは猛烈な反対をしているからです。こと農業となると、日本の国土、社会、さらには伝統や文化にからむ案件なので、FTA反対論は勢いが激しく、ときには感情的な過激さで噴出してきました。
しかし日米経済関係を緊密にするという点や日本の市場開放を聖域を設けずに進めるという点で、日米FTAには大きな利点もあります。だから民主党の最初の公約には、その大胆さや、長期の叡智に驚嘆し、感嘆したのです。
ところがあっという間に事実上の撤回です。農家からの反対や反発は十二分にわかっていたことです。それを承知であえて日米FTA締結という公約を打ち出したのかと思っていたら、どうもそうではないようでした。農家から反対されたので、あわてて引っ込めたという感じなのです。
公党の公約がこんな調子で変えられてしまう。その頻度やあっけなさは街の食堂の定食日替わりメニューを連想させました。同時にいまこの瞬間に日本の民主党が「公約」として掲げている諸項目をまじめに受け取ることもできないと感じさせられます。だって、いつ変わってしまうかわからないからです。
自民党の政策や公約についても批判したい点は山ほどあります。しかしまず目前の民主党のこの「日米自由貿易協定締結」からの撤退には、びっくりした次第です。
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3793 日本の民主党の「公約」は日替わり定食メニューなのか 古森義久

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