予測の範囲内とは言え、遂に出た。インフルエンザの国内初の死者である。
厚労省は腎臓、心臓に基礎疾患があり、透析中の57歳の沖縄の男性が15日、新型インフルエンザに感染したことから肺炎を併発し死亡したと発表した。これに追従するように、18日、神戸市でも男性高齢者に死亡が確認された。2人目である。
その報道と相前後して、イラクで21歳の女性、韓国では中年男性が初めて亡くなったと報じられている。また、インドでの最初の死亡ケースは今月3日の14歳の女子学生で、その後15日までに24人が死亡したとニューデリーの産経特派員が伝えている。
WHO(世界保健機関)は、今月6日現在の感染者は170以上の国・地域で17万7.457人が確認された。死者は1.432人に達したとしているが、前述したケースなどを考え併せると、死者数はすでに現時点で1.500人に達していると見てもいいだろう。これらの動向を見ると、日本では最初の感染者が確認されて3ヶ月、よくここまで持ちこたえたというべきかも知れない。だからといって、日本の被害がここでとどまるとはとても思えない。
そう予測する理由はいくつかある。まず季節的な要因である。
インフルエンザは「寒い地域で流行る」とうのがこれまでの“常識”であったが、今回は、真夏の北半球でもじりじりと患者が増え続けている。疫学上、なにか“異変”が起きているのではないかと疑わせる現象だ。
罹患患者が増えるということはそれだけ重傷者が多くなる、なかには死に至る患者が出てきてもおかしくない。
そこへオランダ・ユトレヒト大の西浦博研究員(理論疫学)らの研究成果である。
それによると、国内でも死者が出た新型インフルエンザの致死率は、季節性インフルエンザよりも高く、1957年にアジアで流行した当時の新型インフルエンザ「アジア風邪」並みの0.5%程度と推計している(8/15 各紙)。推定死亡率0.45%という日本国内での別の研究もある。
不確定な未来を予測する有効な方法は、過去をつぶさに検証することである。過去の統計によると、今回の新型インフルエンザの毒性は弱い、つまり弱毒性のインフルエンザだとされているが、同じ程度の毒性で、致死率0.1%とされる季節性インフルエンザでさえ、日本では毎年1万人が死んでいる。アメリカでは季節性インフルエンザによる死者は36.000人にのぼっている。
ということは、新型インフルエンザでは致死率0.5%とすると、日本では5万人が死に至る危険性があるということになる。
また政府の想定によると、新型インフルエンザの第2波が発生した場合、「人口の25パーセント(つまり4人に1人)が罹患し、ひとつの波が2ヶ月間続き、その後流行の波が2~3回ある」。
http://www.melma.com/backnumber_108241_4573804/
この数字から算定すると、少なくとも15万人が最悪の事態に瀕する可能性があることになる。史上最悪のインフルエンザ「スペイン風邪」が日本を襲ったのは大正7(1918)年の春だった。ウイルスの構造は今回の新型インフルエンザと同じで弱毒性。それなのに、世界で2.500万~4,500万人もの死者を出した。
当時、罹患情報が把握できなかったアフリカなど未開発国の人口から推定した死者数を含めると1億人に達したのではないかという研究数字もある。
「インフルエンザの嵐を免れたのは、アフリカ西南海岸から2.800キロ離れた絶海の孤島であったため流刑地として使われたセントヘレナとニューギニアのみであった」という話もある(『新型インフルエンザ』山本太郎)。そのスペイン風邪で日本では大正18年11月だけで13万人以上が死亡。20年までに45万3.000人が亡くなったとされる。
WHOの担当官は「人口比でみると、どの国も似たような割合で死者が出ている。今回、患者が多いのに死者が出ていない日本は非常に珍しいケースだ。タミフルを積極的に使っていることと関連があるのかもしれない」
世界がスペイン風邪で震撼した90年前、大正時代に比べ、衛生環境や医療技術が格段と進化したとはいえ、ネットでぶちまける医療現場からの不安・不満をみると、日本だけが例外であると言う確信は持てない。
1918年、米マサチューセッツ州の記録(ハーバード大学公衆衛生レビュー 2005年10月)
・9月12日 風邪のような患者1例が発生
・9月18日 患者数6.000人に達す
・9月24日 患者数12.000人、死者700人
・6ヵ月後 人口の25%が感染、人口の2%が死亡
・世界で4.000~5.000万人が死亡
この時期を日本に当てはめて想定する。
選挙後、2週間目だ。冷夏、事実上の政治的な空白のなか、新学期が始まったばかりで蔓延に拍車がかかる。そうなると、医療現場だけでなく、社会機能の混乱は避けられない。
最悪の事態を想定すると、選挙どころではないはずだ。国民にその事態を迎える覚悟はあるか。かみさんは、密かに、米、味噌、醤油の買いだめ備蓄に走っている。それにしても、隣国の中国と北朝鮮。死者はゼロとされている。本当だろうか。不気味である。
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3822 インフルエンザの致死率 石岡荘十

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