天下分け目の一大政治決戦が展開中だ。日本政治初の本格的な政権選択選挙である。それにしては、高揚感が予想したほどには伝わってこない。民主党の圧勝が確実とされる情勢のためか。
もし、国民の間にある種の「シラケ」が相当に広まっているのだとすれば、これは自公与党に有利、ということになる。投票率が上がらなければ、無党派層に狙いをつけた民主党の戦術が空回りに終わるからだ。
週刊現代(8月22・29日合併号)は「週刊誌初の」全国世論調査を行い、その結果を大々的に掲載している。それによれば、獲得予想議席は自民がなんと44、民主党が390という。
比例代表で投票する政党は、というメディアの世論調査に対する回答では、民主党がダブルスコアで自民党を上回っているところもあるのだから、そういう驚くべき数字になる可能性もまったくないわけではない。
大学の政治学の講義のようで恐縮だが、小選挙区制は得票数と獲得議席に乖離が生じる特性を持つ。仮に300小選挙区でA党とB党が争い、全選挙区でA党が51%、B党が49%の得票になったとしよう。現実にはあり得ないが、理論的には想定できる構図だ。
51%と49%だから、得票数にあまり差はない。しかし、獲得議席はA党300、B党ゼロとなる。これが小選挙区制の「恐ろしさ」であり、B党への投票は「死票」と呼ばれる。だから民意を反映しない結果が生じるのが小選挙区制であり、これが欠陥だという主張もある。
筆者はそうは思わない。小選挙区制はそういうメリハリのある結果を生む。したがって、強力な安定政権ができる。これが政権運営に失敗すると、次の選挙で有権者の厳しい審判を受け、政権交代が容易に行われる。したがって、「死票」というのは、ムダに捨てられてしまう票なのではなくて、次につながる有効な可能性を秘めた票ということになる。
*社民党がキャスティングボートを握る公算が強い
比例代表制は「民意を鏡のように反映する」システムとして、より民主的とされてきたが、これだと、とくに利害が錯綜する現代では多党化現象を生む。政権は連立の形態を取らざるを得ず、不安定な構造となる。
いくつかの政党が寄り集まって連立政権をつくるわけだが、最後に加わる政党が一番強くなる。議席数は少なくてもそこが加われば過半数を得るというキャスティングボートを握るわけで、この政党に鼻面をつかまれ、かき回されることになる。かつてイタリアではそういう立場の少数党の党首が首相になったこともあった。
したがって筆者は完全小選挙区制が望ましいと思う立場である。しかし、いまの衆院選挙制度は小選挙区と比例代表の並立制を採用した。小選挙区制に軍配をあげながらも、激変緩和、少数党擁護のための措置であった。小選挙区で負けた候補でも惜敗率によって比例代表で当選できるという復活システムも付けくわえた。
今回はこうしたシステム上の弊害とともに、いまの政治状況によって、少数党がその勢力以上の主導権を握りかねないという恐れが生じている。言うまでもなく社民党の存在である。解散前勢力は一ケタの少数党であるのだが、民主党がたとえ過半数を得たとしても必ず社民党との連立政権になると見られている。
参院で民主党は単独では過半数を得ていないからだ。国会運営をスムーズに進めたいがために、選挙前から、民主党政権誕生の際は、社民党、国民新党との連立になることがほぼ確定している。
日本記者クラブでの党首討論会を見ても、社民党の福島瑞穂党首の断定的な発言ぶりが目立った。インド洋への自衛隊派遣についてなど、民主党の鳩山由紀夫代表はこれまで憲法違反だとして派遣に反対してきたのだが、ただちに帰国命令を出すことは現実的ではないなどと逃げている。これに対し、社民党は「海外派遣反対」の立場を崩さない。
*選挙後にすさまじい再編劇が始まる
筆者は「政権交代可能な2大政党時代」を、政党政治と議会制民主主義を踏まえれば理想的形態と思いたい立場だ。だが、いまの民主党には政権獲得時に「あやうさ」が付きまとう。社民党の影響力が、その政治基盤以上に強まると思われることが、あやうさの大きな要因だ。
完全な2大政党になれば、政党内部での調整が行われるが、別の党だと、その主張をもろにぶつけることになる。そこが比例代表を残した現行制度の欠陥と言っていい。それが如実に示されることになるのかどうか、そこを見極めたい。
さて、何度も書いてきたが、選挙全体の構図を見れば、こういうことになる。総定数が480(小選挙区300、比例代表180)。このうち、自民、民主以外の政党、無所属などが50-60議席取るだろう。残りの420議席程度を自民、民主が争う構図ということになる。
両党が拮抗すれば、210-210だ。ここから民主党がどこまで伸ばすか、ゼロサムゲームとなる。民主が10議席増えれば自民は10議席減る。220-200、230-190、240-180、250-170・・・といった具合だ。これを続けていけば、週刊現代の数字に近い組み合わせも出てくることになる。
直感的にいえば、自民党はいわれているほどには負けないような気もする。民主党は「ばらまき公約」だの「日の丸を切り刻んだ行為」だのマイナス要因をどこまで克服できるか。バブル気味のブランド人気が圧倒しているのは事実で、一方、自民党も司令塔不在の迫力のない選挙戦になっているのは否めない。そういってはなんだが、ここまで「へたり込んでしまった」自民党を、これまでの政治取材の経験で見たことはない。
もっとも、自民党が3ケタを割り込むような事態になれば、双方入り乱れた大再編劇が展開されるだろう。双方が拮抗し、ともに過半数を得られなかった場合でも、民主党が爆発的な勝利を得た場合でも、互いに相手に手を突っ込んですさまじい再編劇が演じられるはずだ。自民党がそのバイタリティーも喪失させるほどの惨敗に終われば別だが。
*民主党はポピュリズムを克服できるか
あらゆる調査データを見ても、民主優位は動かない。メディアは民主政権誕生を前提にして報道しているように見える。政権交代可能な2大政党時代には、「野党になることを恐れるな」という意識が必要になる。アメリカでもイギリスでも、民主主義先進国では政権交代が当たり前に行われるのだから、ようやく日本もその域に達しつつある、ぐらいに見ていたほうがよさそうだ。
とはいえ、民主党を実質的に仕切る小沢一郎前代表(現代表代行)の「政局至上主義」が、現在の状況をもたらしたことを見逃すわけにはいかない。小沢氏にとって政局をダイナミックに動かすためには、「なんでもあり」なのだ。長年の悲願であった政権交代を目前にして、その「小沢流」はいよいよ加速度を増している。
小沢氏が率いていた自由党が民主党に吸収合併された時点から、天下取り戦略がスタートしたわけだが、まさにひさしを借りて母屋を乗っ取ったことになる。政治資金問題で代表を辞任したことは痛手だったろうが、これが逆に鳩山人気を生んだ。逆境を次の日には大転換させるというのが小沢氏の得意技でもある。
小沢氏は民主党内の最左派に位置する旧社会党グループと手を握った。いまでも横路孝弘氏や輿石東氏らとの関係が最も強固だとされる。加えて、政権奪取の暁には、社民党を迎え入れることになる。
民主党マニフェストに外交、安全保障、憲法といった分野の記述が乏しいのはそのためだ。「年額31万2000円の子ども手当」では党内は一致するが、安保や憲法感覚では水と油の違いを残している。これを議論しはじめたら収拾がつかなくなるのは目に見えている。外交、安保、憲法にさわらないというのでは、どういう国家を目指そうとしているのか、国家観が希薄といわれるのも当然だ。
日本経済新聞8月19日付で、客員コラムニストの田勢康弘氏は、民主党マニフェストの「政権交代。」の「。」は何なのか、と問いかけている。
<「モーニング娘。」というのがあるが、それと同じ発想なのか、つまり人目に留まればいいというだけのことなのか>
筆者は<「モーニング娘。」の「。」は日本語表記としては誤用だ>とブログで書いて、「炎上」するという得難い体験をしたことがあるが、田勢氏の指摘はわが意を得たりという思いで読んだ。「政権交代。」の「。」に民主党の覚悟を見て取るか、とかく「風任せ、敵失頼み」といわれてきたポピュリズム的な体質がそこにあらわれているのか。そこをじっくりと見ていきたい。
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3838 民主党圧勝ムードで広まる「しらけ」 花岡信昭
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