<鳩山由紀夫首相>が視界に入ってきた、とだれもが思っている。終戦3年目の建国記念の日(47・2・11)生まれだから62歳、団塊の世代だ。
戦後、鳩山より若くして首相の座についたのは、東久邇稔彦、片山哲、芦田均、岸信介、池田勇人、田中角栄、海部俊樹、細川護熙、羽田孜、橋本龍太郎、小渕恵三、小泉純一郎、安倍晋三と13人、50代が9人もいる。鳩山が就任しても、決して若くはない。適齢期だ。
運命の日まであと1週間、民主大勝、自民半減の予測がしきりだが、この風向きのままゴールまで走るのか。民主党中心の政権は安産といくのか。
自民党の機関紙「自由民主」の最新号(18日付)には、<実戦・連呼術>と称して、選挙運動での連呼用フレーズを七つ載せている。その一つに、
<まだまだ厳しい経済状況。《お試し政権》で回り道をしているゆとりはありません>とあって、苦笑させられた。
かりに政権交代があっても、それは本格政権と違って、試験的、一時的な政権でしかない、と言いたいのだろうか。<お試し政権>とはうまい表現をしたものだ。
たしかに、<お試し>の感じもある。塩川正十郎元財務相は、<国民の皆さんは、こんなご馳走(ちそう)だらけのマニフェスト(政権公約)にうんざりしているのではないか。具体的な財源案もなく甘い口約束をしても、国民は信用しない>(20日付「産経新聞」)
と批判した。政党の名指しはないが、主として民主党を指したものだろう。
民主党が訴えている<五つの約束>をみると、子ども手当、最低保障年金、農家の戸別所得補償制度、高速道路の無料化、手当つき職業訓練制度、すべて塩川が言う金額付きの<甘いご馳走>だ。
バラマキ的政策で自民党との違いを際立たせ、有権者の歓心を買おうとしている、と勘ぐられかねない。政権交代が成就したとして、先々うまくいくのか。
そこで思い出すのは、いまから34年前、社会党の名物委員長だった佐々木更三、愛称ササコーが書いた「社会主義的・的政権」(毎日新聞社刊)という題の本だ。
政権に肉迫していくためには、<的>をいくつもつけて社会主義色を薄めなければならないが、その時が政党にとっては最大の危機、という政権交代綱渡り論である。
「自民党に政権を投げだされた時、交代して引き継ぐ政権は<的・的>のことしかできない。いや、<的・的>にさらに三つぐらい<的>をつけなければならないかもしれない。
社会主義の理念とか目標を捨てるわけじゃないが、きのうときょうがまったく別のものになるということは、暴力革命を否定する以上はありえないのだ」
と左派の旗頭のササコーが言い、交代がいかにむずかしく、ステップ・バイ・ステップの段階主義を取るしかないことを力説した。
ササコーの主張は多分正しい。鳩山が生まれて4カ月後の47年6月に成立した片山社会党連立内閣、93年8月誕生の細川非自民連立内閣、この戦後2度の劇的な交代による政権がともに短命で瓦解した一つの理由は、<的・的>に着眼した用心深さに欠けたからだった。
鳩山は、「歴史的な瞬間に立っている。チェンジで日本をよみがえらせようではないか」と張り切るが、チェンジの中身と速度が肝心だ。功をあせる拙速は失敗につながる。民主党に練達の仕切り役がいるか。(敬称略)
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3845 ササコーの「的・的」政権論 岩見隆夫

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