世界的規模で金鉱山の再編がすすみ、ゴールドスタンダードの足音が聞こえる。中国、カナダ、豪州は「新ゴールド三角同盟」。従来の「英米・南ア連合」が劣勢。
フィナンシャルタイムズ(8月26日)が大きく伝えている。「エルドラド社がサイノ・ゴールド社(sino gold)を買収の動き」と。
澳華黄金有限公司(以後、サイノ・ゴールドと企業英文名を表示)は、中国の貴州省や吉林省で金などの採掘を行っている大手鉱山企業。すでに2007年3月に香港証券取引所に上場、貴州省の金鉱山など11カ所の探査権を持ち、将来有望とされる。
同社は96年に瑞富集団と中国有色金属工業が合併した会社で、2002年にオーストラリアに上場し、メリルリンチやジャーデン・フレミング・キャピタルなど錚々たる国際資本グループが出資した。換言すれば中国籍のイメージをオブラートで包み込んだのだ。
豪州上場では一億ドルを集め、その資金は吉林省の金鉱開発に回された。07年には香港で上場し、株式投資家の人気を集めたのは、同社が中国最大といわれる貴州省の燗泥溝金鉱を所有し、また中国第貳位の金産出を誇るジンフェン金鉱の最大株主でもあるからだ。
貴州省の金鉱には鉄鉱石など460万オンスを埋蔵、金の実績だけでも年間18万オンス。「向こう十五年、最大年間22万オンスの生産が可能と計測されている」(サーチナ、06年3月6日)。
じつは中国はすでに豪州、南ア、カナダをぬいて世界一の金産出国である。07年に南アアングロアメリカを抜き去った。業界の再編がおきた。英米+南アという従来のアングロ系列が新興の金産出国家群の前に劣勢に立った。
▲将来のレアメタル確保に日本の憂鬱
ところが不思議なことが幾つかある。第一は明らかに中国籍と思われるサイノ・ゴールド社は、本社を豪シドニーに設立していること。
第二にこれまでの強気、強気の投資により、上場しても資金が追いつかず「中国建設銀行から一億四千万ドルを借金している」(ブルームバーグ、09年2月23日)。
第三にカナダのエルドラド社からサイノ・ゴールドは14億ドルの出資を仰いでいるが、これは今回の買収オファーの額面と切り離しての金額である。
両社がもし計画通りに「提携・合同すれば、金の算出は年間55万オンス、2013年には85万オンスになる」(同フィナンシャルタイムズ)。世界のゴールド価格の値決め操作も可能になるポジションを得る。
さてエルドラド社(バンクーバーに本社登記)はカナダ籍企業で、トロント市場に上場しているが、中国で金鉱経営のほかカナダのライバル企業からトルコ、ギリシア、コンゴ、南アなどの金鉱企業を買収して肥ってきた企業だ。
中国でも独自の鉱山を採掘している。青海省のチベット居住区では学校建設などのチャリティ事業もおこなっているが、これは青海省に眠る金鉱開発採掘権獲得のための布石だろう。
エルドラド社は18億ドルでサイノ・ゴールドを買収すると発表し、サイノ・ゴールド側も賛意をあらわした(8月26日)。
さて具体的な買収プロセスをどうこう論じたのもほかでもない、目に見えない動きは世界的な規模での金山、金鉱企業の再編、新しいゴールド企業のコングロマリット化が最終的に狙うのは何かということである。
政治的動きと表裏を併せ、いずれ金本位制復帰へ向けての投機行為か、それともドル下落に備えての金暴騰が目的か。野心満々の中国系多国籍企業の動きは注目しておいた方が良いだろう。
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3862 世界一の金産出国となった中国 宮崎正弘
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