3869 総選挙、深刻にならずに楽しもう 岩見隆夫

いよいよ、である。半世紀以上も連綿と続いた自民党時代に幕が下りるかどうかの歴史的な意味合いを持つ衆院選だから、選択する一億人有権者の関心が高まるのは当然というものだ。
老政治ジャーナリストとしても、ペンを片手に、この大きな変わり目にめぐりあうことができた感慨は深いのである。政治が変わるだけでなく、日本が変わる。しかし、どんな変わり方をするかはまだ見えてこない。長いトンネルの出口がやっと視界に入ってきたところだろうか。ペンが躍るまでは、まだ起伏がありそうだ。
とりあえずは各政党の勝敗である。民主党が強気、自民党が防戦に回っている構図はだれの目にも明らかだ。しかし、三十日の投開票日までに、流れがさらに加速するか、揺り戻しがくるか。勝敗の幅によって、選挙後の政治の仕組みが変わってくる。有権者の選択眼がかつてなく試される場面だが、ここは目をこらして結果を待つことにしよう。
1374人(以後、人数は算用数字)の候補者は、政党の浮沈もさることながら、自身の当選を目指して最後の最後まで骨身を削る。衆院の定数は480人だから、候補者の六五%にあたる894人が落選の憂き目をみる勘定だ。
いかにして生き残るか。ご承知のように、定数480人の内訳は、小選挙区が300人、比例代表が180人、今回の競争率はそれぞれ三・八倍、四・九倍の激戦だ。小選挙区の場合はただただ勝ち抜くしかないが、比例代表は各党の名簿順位によって当落が左右される。だから、公示日の十八日ぎりぎりまで、ことに自民、民主両党はもめたのだ。
十八日付の新聞各紙では、猪口邦子元少子化担当相の悲運がクローズアップされた。猪口さんは四年前の前回、自民党の比例東京ブロックで単独一位、当選してそのまま入閣まで果たしている。小泉純一郎首相の裁断による特別扱いだった。
ところが、今回は与謝野馨さん(東京一区)ら小選挙区出馬の22人が重複立候補で一位集団となり、猪口さんはそのあとの二十四位を打診されたという。辞退し不出馬を決めた。
なぜか。猪口さんが、「希望としては二期目の代議士として戻りたかった」
と言っているように、自民衰退のなか、二十四位では希望かなわず落選とみたからだ。前回、自民党は東京ブロックに30人立て(うち単独6人)、三十位も当選し、名簿登録数が足りずに当選分1人を社民党に譲る異例事態まで発生した。想定を超えるほど自民党は圧勝したのだ。
猪口さんと同様、前回単独一位だった長島忠美さん(山古志村元村長・北陸信越ブロック)、近藤三津枝さん(元キャスター・近畿ブロック)の2人は今回もそのまま一位に残り、当選が約束されている。この明暗の理由は想像はできても、名簿作成の権限を持つ執行部の説明がないかぎりわからない。
◇比例並立は落選者救済同じバッジも三ランク
さて、変則比例代表によって選挙は複雑になった。議員のランクにかかわるからだ。重複立候補を認めた小選挙区比例代表並立制は日本独特の落選者救済策で、廃止したほうがいいが、現状では仕方ない。この制度によって、同じバッジをつけていても、次の三つのランクに分かれるという。
Aランクは小選挙区だけに出馬して当選したもの。Bランクは比例代表に単独で出馬して当選したもの。そして、Cランクは小選挙区では落選したが、政党別の惜敗率(当選者に対する得票比率)が高い順に、重複立候補した比例代表で復活当選したもの。
従って、Cランクの復活組はA・B両ランクに対し一種のひけ目を感じているが、今回も、公明党を除く各党が、保険をかけるためほとんど重複立候補している。しかし、メンツにかけて、あるいは立場上、重複を避けAランクを目指すものが何人かいるのだ。
まず党首の麻生太郎自民党総裁(福岡八区)、鳩山由紀夫民主党代表(北海道九区)、太田昭宏公明党代表(東京十二区)の3人。落選して復活では党首の権威が保てないということだろう。なお、志位和夫共産党委員長(南関東ブロック)と綿貫民輔国民新党代表(北陸信越ブロック)はともに比例単独一位、つまりBランクだ。
次は選挙責任者、古賀誠自民党選挙対策本部長代理(福岡七区)、小沢一郎民主党代表代行・選挙担当(岩手四区)とも重複を避けた。古賀さんは厳しい選挙区情勢だが、突っ張っている。
首相経験者はどうか。立場上、Aランクにこだわりそうだが、自民党の森喜朗(石川二区)、安倍晋三(山口四区)と民主党の羽田孜(長野三区)は重複にノミネートしている。楽観できないからだろうか。自民党の海部俊樹(愛知九区・七十八歳)、福田康夫(群馬四区・七十三歳)は比例代表の七十三歳定年制にひっかかる。落選すればそれまでだ。
海部さん、福田さんのほかにも、重複に登載したくてもできない小選挙区の高齢候補者が、自民党には中山太郎元外相(大阪十八区・八十五歳)を最高齢に13人もいる。特に群馬は五小選挙区のうち重複は小渕優子少子化担当相(五区)1人だけ、あとの4人は七十三歳以上ばかりの高齢県だ。
候補者の平均年齢も、自民党五十五・五歳に対して民主党は四十九・三歳、若さを売りに民主党は有利な戦いを展開している印象もある。だが、若ければいいというものでもなく、最後に何が味方するか。
三十三歳の女性民主党候補に悩まされている森喜朗元首相は、「得体の知れない風や雲が、自民党と私を追い込んでくる」
と選挙演説でぼやいたそうだ。四年前、あれほど大勝した自民党が、一転して強烈な逆風にさらされているのだから、ぼやきが出るのも無理はない。
風と雲の分析は結果がでてからじっくり取り組むとして、まあ、選挙はお祭りでもある。重複立候補制度にまつわる一面を記してみたが、各候補が抱える運・不運、ジレンマなどを念頭に置きながら、深刻にならずに選挙を楽しむのも悪くない。(サンデー時評)
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