3872 ウイルス副作用被害無過失補償制度 石岡荘十

国内での生産では足りないワクチンの輸入を検討する中で、明らかになったことがひとつある。それは、海外のワクチンメーカーにとって、日本がいかにワクチンを売りにくい国であるかということ、日本での販売は他の国で販売するのに比べてリスクが大きすぎるということである。
ワクチンを打って副作用が起きても「過失がなければメーカーの責任を問わない」これを「無過失補償」という。これがいわば“世界の常識”なのだが、日本の場合、副作用が起きたときはメーカーが裁判で訴えられて青天井の賠償をされる恐れがある。
これでは、海外のメーカーは危なくて日本にワクチンは売れないというわけである。副作用の責任が誰にあるのかを問題にするのではなく、被害が出たら公的に救済される仕組みがあって、その救済を受けたら、それ以上の賠償を請求する権利は失われる。
このような欧米諸国の考え方の背景には、被害を受けた患者の個人的な利害だけではなく、ワクチンは社会全体の利益のために接種するものという認識が一般に浸透しているため、被害が出たとしても、メーカーや病院などの関係者に不当に責任を負わせることはできないし、社会全体のために犠牲になった人は社会全体で支えるのが当然という考え方がある
たとえばアメリカでは、88年からワクチン1本あたり75セント上乗せされていて、これを補償の原資に充てる制度になっている。フランスの場合は、ワクチンにとどまらず、02年に医療全体への無過失補償が導入されている。ワクチンや公衆衛生上の危機に関することはわずかな障害でも補償される。ただ、補償金を受け取る際には裁判をしないという契約書にサインする必要がある。
一方、日本の副作用に対する救済策は、以前はワクチンと輸血によるエイズだけは国が補償する仕組みだった。普通は、補償を受けるには患者側が訴訟をするしかないが、6月15日、新型インフルエンザが追加して指定されている。
しかも日本では、公的な救済を受けた後でもメーカーを相手取って損害賠償訴訟を受けることが出来ることになっている。そのどちらも給付の原資はメーカーの拠出金なので、メーカーからすると二重に負担を強いられることになり、他の国のメーカーに比べて突出してリスクが高いことになってしまう。ここに日本のメーカーがワクチン製造に、二の足を踏んできた背景にある。
欧米並みの制度を日本に持ち込むためには予防接種法と感染症法の改正が必要である。アメリカやフランスでは、ほぼワクチンの必要量を確保したと伝えられているが、長年、法の整備をないがしろにしてきたつけが今日本に回ってきたことになる。
厚労省の役人は、「歴史上、薬害で国が訴えられたら必ず負けると思っているので、副作用と救済の問題は恐ろしくて議論すらできなかったということだと思います」(村重直子厚労省現役医系技官)。              
そこで、26日開かれた2回目の「新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会」のなかで舛添厚労相は「必要な法改正をしなければならない」と、初めてこの問題について積極的な認識を示した。仮に、ワクチンを輸入するということになったときの障害は他にもある。                 
ワクチンの安全性をどう担保するか。   
通常なら安全性を確認する臨床試験(治験)には5年程度の時間が必要だが、これでは間に合わない。舛添厚労相は「特例承認になると思う」と記者会見で述べている。特例承認は、緊急時に限って最小限の治験で輸入などを承認する制度だが、交渉中の海外メーカーは、副作用が出たときの責任を免除するよう求めているという。舛添厚労相は「最終的には総理が判断することになるだろう」としている(8/26 産経新聞)。
それにしても時間がない。そんななかで、法の改正やワクチンの特例輸入(筆者は異議あり)についての政治判断を示した舛添厚労相の発言は、評価されていい。        
前例のない、大臣のこのような認識・発言の仕掛け人は「厚労省大臣政策室」の村重直子政務官だというのが衆目の一致するところだ。彼女は98年東大医学部卒の医師で、日米で予防医療の臨床を経験した後、入省。現役の医系技官の1人だが、厚労省の医系技官主導の新型インフルエンザ政策に終始批判的で、予防医学の専門家として大臣に意見を具申し、アドバイスをつづけている。
大臣政策室には彼女のほかにも各省庁の若手官僚が集められ,舛添大臣の教え子も少なくないという。  村重政務官は、医療専門誌「ロハスメディカル」(8/27)電子版で、インタビューに答えてこう医系技官を批判している。                 
「医系技官や薬系技官にきちんと調べた方がよいとアドバイスしても、やっつけ仕事しかしてこないんです。ちょっと訳して、大臣にちょっとだけレクチャーしてお終いでした。サイトのURLまで教えたのに、見向きもされませんでした。部外からアドバイスされること、外国の事情を調べなさいと言われるのを、ものすごく嫌がります。
おそらく忙しいのと英語が読めないのと重要性がわからないのと、理由は色々だと思います。技官の存在意義って何なんだろうと悲しくなります」
「多くの医系技官が、大卒後すぐ、または見学程度の研修後に厚生労働省に就職し終身雇用を前提に2年毎に部署をローテーションするという人事制度なので、どの分野に関しても素人で、そのうえ法律のことも分からない、憲法感覚すらないから平気で人権侵害の政策を立案する、
そういう状態になってしまっています。誰でもこのような人事制度に組み込まれたらそうなってしまうので、彼らもかわいそうなのです」。「こんな集団が、国の公衆衛生をリードしている、リードしているとも言えない状態ですが、これでは国民が非常に不幸だと思います」。
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