興味深いデータがある。私が現役の政治記者だった時代は中選挙区制度だったが、任期満了選挙なんて考えられなかった。二年足らずで解散・総選挙があったから、新人の衆院議員は「常在戦場」の心構えを先輩議員から仕込まれたものだ。
半数改選で三年に一度の選挙がある参院は、一度当選してしまえば六年間は安泰である。「常在戦場」の衆院議員からみれば、ぬるま湯の世界といえる。選挙区の田の草取り(選挙運動)が手抜きとなるから、選挙となれば衆院議員や県会議員の応援頼みとなる。
この構図が小選挙区制度の導入で大きく変わった気がする。小選挙区の制度は勝ち負けが極端に振れる特徴がある。2005年の郵政選挙で小泉自民党が300議席に近い圧勝をして”歴史的な勝利”といわれた。その歴史的な勝利は四年間しか持たなかったことになる。
83人の小泉チルドレンが、今度の選挙で生き残ったのは僅か10人。比例当選が多いから、田の草取りをする選挙区を持たない。頼みは人気のある首相の下で追い風選挙をするしかない。
小泉旋風をもろに受けた民主党は二年後の2007年の第21回参院選挙で与野党逆転を果たした。自民党は安倍首相、民主党は小沢代表であった。
この時の民主党の候補者の立て方に特徴があった。二年前の総選挙で惜敗した候補者を立てている。その前衆院議員から11人の当選者を出した。藤田幸久、長浜博行、一川保夫 中村哲治、川上義博、佐藤公治、松野信夫、青木愛、石井一、今野東、室井邦彦の面々である。半端な数ではない。ぬるま湯の参院議員よりも常在戦場の前・元衆院議員を重視した選挙戦術といえる。
この中から青木愛参院議員は、さらに辞職して東京12区から出馬、太田公明党代表を破るという金星を射止めた。衆院から参院、参院から再度、衆院と四年間に三度も選挙を経験している。まさに常在戦場の手本といえる。これが小沢選挙なのであろう。
枕を並べて討死した小泉チルドレンが、次の参院選挙で出てこれるかというと心許ない。負けっぷりを見ると惜敗を探すのに苦労する。選挙区の田の草取りをしてこなかったからである。
まったく違う観点だが、小選挙区制度になると衆院議員も参院議員化するのではないか。突飛な様だが根拠はある。つまり任期満了型になるという見方である。
郵政選挙でも政権交代選挙でも、一方が300議席前後を取る傾向が顕著となった。その300議席を出来るだけ長く保ちたいというのは、政権担当者としては当然のことかもしれない。つまり限りなく四年間の任期満了型の選挙になるから、六年間の参院議員と似た傾向が生まれる。
常在戦場ではなくて、細く長い延命の方に流れる。安倍内閣が2007年参院選をダブル選挙で戦ったら、300議席を大きく減らしたのだろうが、参院の惨敗は防げたという声を聞く。福田内閣も麻生内閣も発足後間もなくに解散・総選挙をしていたら、今度の様な惨敗にはならなかったという。
だが、当事者にしてみれば、小泉首相の遺産を食いつぶす冒険はしたくない。ズルズルと安全運転をしている中に任期満了に限りなく近づくことになる。政権交代選挙で圧勝した民主党も同じであろう。
厄介なのは任期満了までの四年間に必ず三年に一度の参院選があることだ。政権党が参院選で敗北すると”衆参ねじれ”現象が生じる。政権運営が停滞すると、国民の政治不信を招きかねない。その意味で来年の参院選は民主党にとっては、負けられない大きなハードルになる。
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