厚労省の新型インフルエンザ対策本部が8/31、「ワクチン接種に関する基本方針」(案)をまとめ、専門家諮問委員会のオーソライズを経たうえで、今月末に最終決定することとなった。
入手した資料(A4 11枚)によると、基本方針案は次の3点から成っている。(【 】は筆者コメント)
1. 予防接種の位置づけ
2. ワクチンの接種
3. ワクチンの確保
まず接種の目的については「死亡者や重傷者の発生を出来る限り減らすこと」としている。その上で、案によると優先接種の順位はこうなっている。
・最優先接種者:医療従事者(救急隊員を含む)、基礎疾患を有する者、及び妊婦、六か月~就学前の小児、6ヶ月未満の小児の両親
・その他の優先接種者:小・中・高校生、高齢者(基礎疾患のある小・中・高校生は最優先)【厚労省が先に中央省庁の担当者に示した資料では、「新型インフルエンザ対策に従事する職員(官僚)は優先的に接種する、省庁内の診療所に医薬品(抗インフルエンザ剤)の備蓄を確認する」となっているので、ワクチンも当然、優先的に自分たちの分を確保するに違いない。が、ここではさすがにそのことには触れていない】
この場合の基礎疾患は次ぎのとおり。
喘息を含む呼吸器疾患、高血圧を除く心疾患、腎疾患、肝疾患、神経疾患、血液疾患、糖尿病を含む代謝性疾患、HIV・悪性腫瘍を含む免疫抑制状態など、としている。
それでは、この「最優先接種者」と「その他の優先接種者」の数をどのくらいと見積もっているのか。
合計5,400万人。その内訳は、
・医療従事者 約100万人
・妊婦 約100万人
・基礎疾患のあるもの 約1,000万人
・小児(6ヶ月~就学前) 約600万人
・6ヶ月未満の小児の両親 約100万人
・小中高学生 約1,400万人
・高齢者(65歳以上) 約2,100万人
となっており、この順で優先的に接種するとしている。6ヶ月未満の小児は予防接種によって免疫をつけることが難しいとされているため、次善の策として保護者に接種することにしたと説明している。
ところが、ワクチンが足りない。年度内の製造可能な量は多く見積もっても1,800万人分しかない。この量では人口の10%程度であり、全く足りない。
そこで、厚労省案では急遽、海外からの緊急輸入することになった。【ドロ縄対応である。欧米諸国の中には、新型インフルエンザが発生するずっと前から、新型インフルエンザが発生したら自分の国に優先的に供給するようあらかじめワクチン製造企業と契約を結んでいるところもあっというが、日本は完全に出遅れた】
しかも、ワクチンの輸入については、問題点が二つある。
一つは、全世界的にワクチンの量が限られる中で、日本が率先して輸入してよいのかという点だ。発展途上国の配分を奪うことにならないか。
この点について厚労省の担当者は会議の席上、「現在交渉している分量は先進国分としてメーカーが割り当てているものであり、もし日本が買わなかったら他の先進国に行くことになる」と答えている。 【メーカーの名前は明らかに出来ないという】
もう一つの問題は、海外のメーカーが副反応などに関する免責を求めてきている点だ。
http://www.melma.com/backnumber_108241_4591985/
この問題について、森兼啓太・東北大大学院の講師(感染制御・検査診断)は「ワクチンのように、ある程度の副反応を覚悟の上でそれでも公衆衛生的ないしは個人防護の観点からメリットがあると判断されるもの、しかも新型インフルエンザワクチンは十分な臨床試験も出来ず、なかば緊急接種的に使用されるものは、メーカーにその使用に関連する副反応などの責任を負わせるべきでない」と言う。
「輸入ワクチンに関しても免責制度にはできないと厚労省は考えているようであり、その点で交渉が難航しているとのこと。難航するのは当たり前の話であり、そもそも交渉にならないのではないか」とも言っている。
また輸入ワクチンの安全性について、この資料では、「輸入承認申請の際に添付される「海外臨床試験成績の資料で確認するが、万一、輸入後に安全性に問題がある場合には、「使用しないこともあり得る」と逃げ道は作ってある。
同時に、「ワクチンの効果や限界、リスクについて充分に説明・理解を得たうえで実施すること。個人の意思を軽視し、強制的に接種しないように」と最後にいざというときの責任回避の文言を付け加えることも忘れない。【「何かあっても知りませんよ」ということだ】
この基本方針(案)は、今月中旬、専門家諮問委員会で「いいですね」とダメ押しをした後、下旬に決定・発表するスケジュールとなっている。が16日に首班指名が行われ、組閣という段取りだ。舛添厚労相の後任がど素人だと丸め込まれ、精々ベタ記事で、衆目を集めるニュースとはならないかもしれない。
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3892 ワクチン接種の政府基本方針 石岡荘十

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