4021 「ミスター年金」から脱皮せよ 石岡荘十

新内閣の顔ぶれが決まった。内閣全体を評価する能力や知見は私にはないが、新・厚労省スタッフ人事について私見を披瀝する。
トップは、ご存知「ミスター年金」長妻昭氏だ。野党時代の彼の調査能力については大方の国民が評価するところだろう。彼は年金問題の専門家としてだけではなく、自民党を追い詰めた“風“を起こす起爆剤のひとつとなった。
厚労相人事をめぐっては、医療業界では仙谷由人氏の登場を望む声が早くから聞かれ、正直言って、私も厚労省所管の業務全般を見渡すと、「年金問題を除けば、仙谷氏のほうが適任」と考えていたのだが—。
当初、鳩山代表の頭の中でも有力だった。ところが長妻氏が厚労相ポストを強く希望したことから、これを無視できず、仙谷氏とポストが入れ替わった、と各紙が伝えている。
経緯の真偽はともかく、長妻氏は念願のポストを射止めた。各紙は概ねこれを歓迎し、新大臣紹介・解説のコラムでも、年金問題をフレームアップして抱負を語らせ、「よかった、よかった」と手放しであった。
その気持ちは、まあわかるが、気になったのは緊急の課題である新型インフルエンザ対策、医師、特に産科、小児科医の不足問題、無能呼ばわりされている医系技官を中心とする医療行政体制などなど、厚労省が引きずっている旧厚生省マターがすっ飛んでしまっていることである。
いうまでもなく、雇用などの労働政策、医療から年金問題に至るまで幅広い所管業務の全てに精通していることを、1人の大臣に期待するのは無理である。となると、不得意分野の知見を誰かが補わなくてはならない。そのためのスタッフ、大臣が指名する副大臣(2人)と政務官(2人)の人選が重要である。そこで、選ばれた4人を点検する。
副大臣:
・細川律夫(66)。明大卒。衆院当選7回。弁護士。専門は労働関係の法律。
・長浜博行(50)。早大政経部卒。参院当選1回、衆院当選4回。松下政経塾出身。伊藤忠商事勤務経験あり。ネクスト環境大臣だった。
この2人では、医療の制度と財源の運用を思いのままに差配する医系技官には対抗できそうもない。
政務官:
・山井和則(47)。京大工学部卒。衆院当選4回。松下政経塾出身。党内では、長妻氏に次ぐ年金問題のエキスパートとされる。社会保障に関する著書がある。長妻氏は著書の中で「一生の友」と言っている。マスコミには知られた顔だが、外人選挙権には賛成している。
・足立信也(52)。大分出身、筑波大医学部卒。医師、(消化器系外科)、医学博士。参院。
こうして並べてみると、医療問題について専門的な判断をし、大臣にアドバイス出来そうなスタッフは唯一人、足立氏だけだろう。政治的な経験は充分ではないが、臨床医の経験で医療の現場を知っているだけでなく、母校での教官も勤めた経歴がある。
自身のホームページで政界に転じた理由をこう述べている。「医療現場で感じた問題を政治の場で解決したい」「小医は病気を治し、中医は人も治し、大医は国をも治す」。
そうは言っても、緊急の課題である新型インフルエンザ対策。判断が必要な疫学や公衆衛生学については、門外漢である。
前大臣・舛添氏は勤めた2年間の後半は、医系技官の言うことを信用せず、自身で「大臣政策室」を立ち上げ、内外から本当のプロをかき集めた。そのスタッフは「近衛兵」とか「親衛隊」とか呼ばれ、その助言で医師の増員、インフルエンザ対策を打ち出した。新しい執行部はこの手法を学ぶ必要がある。
http://www.melma.com/backnumber_108241_4602609/
(なお、3人目の女性「重村直子さん」は「村重直子さん」の間違いでした。お詫びして訂正します)。
誤解を恐れずにあえて言えば、旧労働省マターはいわば常識の範囲内で判断できる問題が大半だが、旧厚生省所管に関わる諸問題は、医療というきわめて専門的な分野についての専門知識がない者にとっては、まるで“違う星の出来事“だ。
だから、特にこの分野の制度設計については、医師免許を持った”スペシャリスト“とされる医系技官250人が一手に引き受け、数十兆円にのぼる予算配分に采配を振るう仕組みになっている。しかし、その医系技官は大学卒業後、研修医を経て5年以内に厚労省に入省.以来、一度も医療現場に出ることもなく、定年まで、ひたすら机上で法律を作り、予算の配分を行っている。
欧米で公衆衛生の専門教育を受けた経験のある身内であるはずの仲間のプロからは、「文系の事務官と代わらない素人だ」と批判される有様である。
舛添氏が新型インフルエンザ騒動の最中、呼び寄せた政策官のなかには、例えば、直接の上司である局長に対しも、「辞めるべきだ」と批判している若手の女性専門官(村重直子政策官)もいる。
政権交代の日、舛添前代人は職員の盛大な拍手と花束の中去った。舛添VS医系技官の対立はよく知られている。厚労省官僚からすると、やっとうるさいのがいなくなったという安堵の気持ちを素直に表した風景であった。ところが一難去ってまた一難。またまたうるさ型の登場である。職員の拍手も花束もなく、数人の幹部が、不安を秘めて品定めするように、上目遣いで長妻氏を迎えた。厚労省の職員はまことに素直な方々ばかりである。
舛添時代の副大臣、政務官は誰一人思い出せないが、望んでなったからには長妻氏は最早「ミスター年金」であってはなるまい。政治主導をいうなら、前任者の大臣政策室のプロをそっくり活用し、長妻氏が「ミスター厚労相」へと脱皮、大化けされることを期待する。     
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