4059 どうする? 日本医師会 石岡荘十

あの武見太郎(1904~83)以来だろうか、日本医師会は、「金と票も出すが口も出す」。与党の有力な応援団として無視できない存在感を誇示してきた。あらゆる医療制度設計や医療費(診療報酬)決定の過程で、会員(医師16万余)の半数を超える開業医の利益を代弁してきた。ところが今、政権交代で、半世紀続いたその仕掛けが機能不能に陥りつつある。
医師会の組織内の不協和音は、選挙前からあった。茨城県医師連盟は、昨年9月、民主党支持を打ち出していた。約7万人の会員を抱える日本医師連盟(日本医師会の政治団体)は従来通り、自民・公明の両党支持という姿勢を崩さなかった。保守王国として知られ、自民党支持を続けてきた同県医師会にとっては大きな決断だった。
それでも自公政権への世論の反発を受け、民主党支持に切り替えたり、両党の候補だけでなく民主党候補にも推薦を出したりする動きは、青森、栃木、愛知などに広がった。そしてふたを開けてみれば、いずれの選挙区でも民主党候補の圧勝であった。4年前の選挙では民主党議員は1人しかいなかった茨城では小選挙区だけで5人が当選した。
会員を医師に限定したメールマガジン(MRIC by 医療ガバナンス学会 9/15)による選挙後のアンケート調査では、小選挙区で医師の61.1%が、比例区では50.6%が民主党候補に投票した。一方、自民党への投票は、小選挙区27.1%、比例区21.8%に過ぎなかった。
茨城県医師連盟の原中勝征委員長は「日本医師連盟、日本医師会の幹部には、会員の声が伝わっていない。これでは自民党政権の体質と同じ」だと言う。
日本医師連盟は票とカネの両面で長年、自民党を支えてきた。2007年の政治資金収支報告書などによると、同連盟が自民党の政治資金団体「国民政治協会」に行った寄付は2億円だったのに対し、民主党の「国民改革協議会」は500万円。これも含め、同年の寄付総額約8億円のうち、自民党の政党支部や国会議員の資金管理団体向けの寄付が9割を占めている。
しかし、野党に転落した自民党にもう用はない。政権交代を機に、政治献金の配分を見直すことを決めた。与党への発言権を確保するため、民主党に軸足を移すことも検討するという。日本医師連盟も選挙の翌日、いち早く日本医師会長を務める唐沢祥人委員長名で「国民の医療を守るため、与党に対し、こちらの考えを理解してもらえるよう努めていく」という声明を出した。
この変わり身の早さ、医者にしておくのはもったいない。笑止というほかはない。医師会としての選挙総括はまだ行われていない。にもかかわらず、唐沢氏は来年4月の医師会長選挙で再選を目指すという意思を表明している。また羽生田常俊常任理事は、9月2日の記者会見で「与党の民主党に理解を求めていくことは、国民の利益のためにも当然。献金を含めた活動方針を見直していく」と変節した。  
この発言を民主党はどう受け止めるか。
仙谷由人衆議院議員はフリーペーパー「ロハスメディカル」のインタビューにこう切って捨てた。「民主党に持っていけばどうにかなるのではないかという程度の話。情けない」と。鈴木寛参議院議員(文科省副大臣)は、「民主党は『企業献金を廃止する』とマニフェストでうたわせて頂いているので、それを読んで頂きたい」と素っ気無い。
民主党は、自公政権が決めた補正予算や概算要求は見直しに取り掛かっている。医療分野で注目すべきは、補正予算の中の「地域医療再生基金」、3100億円だ。
これは、「地域の医療崩壊対策」として、自公政権が補正予算に組み込んだものだが、1年限りの究極の典型的なばら撒き、選挙対策そのものだという批判が、当時の野党(民主党)から噴出した。開業医を含む日本医師会や病院団体は「地域医療再生基金」のお裾分けに預かる可能性がまだある今、浅ましいことに地方組織の間で激しい分捕り合戦を展開している。
しかし、民主党は、マニフェストの中で、がん・新型インフルエンザ対策に3,000億円の予算を準備すると明言している。この金額は地域医療再生基金とぴったり一致する。民主党が見逃すだろうか。
大きな病院の勤務医に較べ開業医は「仕事半分、収入2倍」、開業医の三分の一は「欲張り村の村長さんだ」と言われたことがある。これは誇張された言い方だろうが、よく聞かれる開業医の高収入を確保する仕組みのひとつが、医療行為の単価となる診療報酬を決める中央社会保険医療協議会(中医協)である。
協議会は医療関係者など診療側、健康保険組合関係者など支払い側各7人、中立的立場の公益委員6人で構成されているが、日本医師会など医療側代表と官僚が見事なタッグマッチを組んで開業医の利益を確保していると思われて久しい。選挙前、<岡田克也幹事長は「診療側」代表の日本医師会について、「医師会は開業医中心だ。利害関係者が自分たちの取り分を決めた政府の制度は他にはない」と指摘している>(二木 立・日本福祉大学教授、日経メディカルオンライン 8/21)。
民主党は、ここにもメスを入れるという。中医協の委員に患者代表を増やしたり、医師・病院代表以外の医療職を新たに加えたりする委員構成の改革を行う構想が検討されている。
新政権は、日本医師会にとっては手ごわい政権となる。日本医師会等の医療団体と政党の関係は間違いなく劇的に変化するだろう。日本医師会はどこへ行くのか。
八ツ場ダム工事中止に関連して、地元民がかわいそう、約束違反だと謗る記事をあちこちで見かけるが、計画中の140余のダム計画を約束だからといって作り続けるわけにはいくまい。群馬の出身者である私が地元の友人に最近聞いた話では、工事中止に一番反対しているのは、地元民ではなく、この40年間に3000億円を食い散らかしてきた土建屋だそうだ。
医療分野では、コペルニクスもびっくりするような自・公の約束に違反する政策を、私は期待している。それが政権交代を選択した選挙民の期待だと思うからである。
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コメント

  1. 医師 転職 より:

    今回の選挙結果にはほんと驚きました。

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