新型インフルエンザのワクチン接種が月内にも始まるが、万が一、副作用で患者に被害が出た場合の補償やメーカーなどの責任をどうするか、すっきりした政府の対応は示されていない。
この問題について政府は、輸入ワクチンによる被害で訴訟が起きた場合、製薬会社の訴訟費用や賠償金を国が肩代わりするという方向で検討をしていると報道されている(9/26共同)。ところが、この考え方にはいくつかの疑問がある。
まず、
1.製薬会社の訴訟費用や賠償金は国が肩代わりするというが、ワクチンを打った医療機関や医師が訴えられた場合はどうするのか。
つぎに、
2.輸入ワクチンではなく国内産のワクチンでの被害が出た場合、国内のワクチンメーカーは保護されないのか。
マスコミ(記者クラブ)がこの2つの疑問を問い詰めたかどうかは知らないが、少なくともこれらに応える報道には私は接していない。
訴訟費用や賠償金は国が肩代わりする政策の背景には、海外メーカーが「何かあったときに面倒を見てくれないような国(日本)には危なくて輸出できない」とびびって、輸入交渉が進まないためだ。大流行期を間近に、背に腹は変えられない、「万が一の時には面倒を見ますからワクチンを売ってください」というのが、政策に現れているのである。
通常、医療事故でまず訴えられるのは病院や医師である。ワクチンによる健康被害は輸入ワクチンに限らず、国内生産ワクチンでも生じる。しかしこの二つの問題については、「文句があるなら勝手に訴えなさい」と言わんばかりだ。
訴訟は、「誰に責任があるか」を明確にし、損害賠償の対象となるかどうかを判断するものであり、結論が出るまでには、場合によっては何年もの時間と労力がかかる。しかし他の薬害訴訟がそうであったように、「好きなように、おやんなさい」と何の解決策も示されていないのである。
こんな場合、海外先進国(米、仏)では、国産か輸入であるかを問わず、何らかの健康被害は生じた場合、国が一定額、といっても数千万円の高額な補償を直接患者に支払う。その代り被害を受けた側は、国、製薬企業、医療機関などを「訴えません」という約束をさせる(無過失補償)。またワクチンメーカーの責任は問わない(無過失免責)というのが一般的であり。このような仕組みがいわば国際的なスタンダードとなっている。
このような仕組みは、1人でも多くの国民にワクチンを打ってもらい、感染を食い止めることが社会にとってのベネフィットだという考え方が根底にあるためで、訴訟を起こして誰が悪いと犯人捜しをしても、社会全体としてのメリットはないという考え方にもとづいている。
政府の施策にはここのところが欠落している。所詮、小役人の作文する対策の限界といえるかもしれない。ここはひとつ高度な政治主導の判断、それの必要な法の改正が急がれねばなるまい。
じつは舛添前厚労相のころ、国内生産か輸入かを問わない、「補償・免責」制度の創設が検討されていた。何らかの健康被害が生じた場合に、それを社会全体で受け止め、補償するというのが「補償・免責」制度の趣旨だったという。
この“世界の常識“を大臣に吹き込んだのは、厚労省の前大臣政策室政策官・村重直子氏。彼女は,医師限定のメールマガジン「m3.com」のインタビュー(9/4)で、
「誰か悪い人を仕立て上げないと賠償金をもらえなかった歴史が、“恨みの連鎖”を生み出している。これは、ワクチンの副作用以外でも、当てはまる」。
こう語って、補償・免責制度の必要性を主張している。
いまさら、舛添前厚労相本人を長妻大臣の「大臣政策室」引っ張り込むわけにいくまいから、せめて村重政策官以下、感染症の専門家グループの知見を引き続き活用する発想を期待するのは無理か。あすにでも出来そうなものだが。
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