4113 古老・塚本三郎が「吼える」 岩見隆夫

塚本三郎、旧民社党委員長を退いて20年が過ぎたが、健在である。82歳、師匠だったかつての政界名物男、春日一幸とともに政治活動の拠点にした名古屋をいまも動かない。
時折上京して後輩の尻をたたく。鳩山新政権には川端達夫文部科学相、中井洽国家公安委員長、直嶋正行経済産業相ら本籍・旧民社の面々が入閣した。
今週、東京で塚本に会った。舌鋒(ぜっぽう)衰えていない。
「邦夫君(鳩山由紀夫首相の実弟、元総務相)が『文芸春秋』8月号で『大いに吼(ほ)える』をやってるでしょ。『兄は努力家です。しかし、信念の人ではまったくない。自分の出世欲を満たすためには信念など簡単に犠牲にできる人です』と。そのとおりだな。権力のためなら、どんなことでもやる」
だからといって、鳩山首相に期待していないわけではない。塚本は月2回発行する<五分で読める・塚本三郎FAXレポート>(約5000字)の執筆に情熱を注いできた。政治情勢を分析し、各方面に配る。
「これが目下の生きがい。20回ぐらい手直ししますかなあ」
と言う。最新リポートのタイトルは<鳩山一郎と吉田茂、その孫達の因縁>。2人の祖父の政争を振り返り、吉田官僚派と鳩山党人派の対立が孫の代にまで引き継がれた<不思議な争い>が今回の衆院選、という位置付けだ。勝利者の鳩山について、塚本は、
<耳触りの良い話しかしない善人なのか、あるいはありきたりの政治屋なのか。いまはただ耳触りの良い話でも大胆に実行してほしいと願うのみだ。かりに思いつきの発言が多くあったのなら、潔く前言を改める勇気を出すことである>と注文した。並の期待とも違う。
ところで、塚本の話は、吉田、鳩山のあとに現れた異質の政治家、田中角栄元首相に及んだ。
「角さんが生きていたら、『このばかめ』と言うだろうな。角さんを師とする小沢(一郎・民主党幹事長)と鳩山(首相)は逆をやってるんだから」と声を荒らげる。何の逆なのか。塚本に言わせると--。
田中は日本列島改造論を実現させるため、<受益者負担>の税源を確立、全国の道路網を整備し、世の喝采(かっさい)を浴びた。
それまでの政治家は税を使うことには熱心だったが、税を生み出すことは考えない。田中は官僚群もなし得なかった手法を編み出したのだ。ところが、小沢・鳩山一派には国家観がなく、せっかくの角栄方式を捨てようとしている--。
「師匠のおれが政治生命を懸けた受益者負担の制度を帳消しにするとは何事だ、と角さんは怒ってるね」
マニフェスト(政権公約)どおり、政府はガソリンなどの暫定税率を10年度から廃止する方針を決めている。ガソリン代は1リットル当たり25円下がるが、2・5兆円の財源が消えてしまう。田中の着想で35年前に導入された道路特定財源だ。
廃止に、車・物流業界は歓迎だが、歳入減になる地方自治体は猛反発、議論が尽きない。
民主党には、暫定税率廃止だけでなく、子ども手当、高速道路無料化などの政策で消費を拡大し、日本経済を内需主導型に転換する、というシナリオがある。しかし、塚本にはそれが大衆迎合政治と映り、国家経営の破綻(はたん)につながると憂えるのだ。
事実上の実力ナンバーワンと言われる小沢について、塚本は、
「勘はいい。努力はする。しかし、国家はゼロ」ときわどい批評をした。国家観論争が活発になりそうだ。(敬称略)
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