自民党の総裁に谷垣禎一氏が就任、党3役も決まった。総選挙惨敗を受けて、党の立て直しに向けての布陣が固まったわけだが、どうにも迫力不足は否めない。派手な話題を提供し続けている民主党鳩山政権に比べ、なんとも地味で「ハナ」がない。
「ポスト麻生」として、当初、舛添要一氏の名前が浮上したが、舛添氏が固辞したため、たちどころに消えた。石原伸晃、小池百合子両氏ら、そういってはなんだが、「世間受け」する顔触れも引き下がってしまった。
いずれもそれぞれの事情があり、「使い捨て」にされることを恐れたのだろうが、結党以来の危機的状況にあって、あえて火中のクリを拾う構えが政治家には必要な場合もある。
いま、自民党に求められているのは、「ブランド力」の復活だ。総選挙後の各種世論調査にあらわれているように、民主党が圧勝して政権奪取に成功したのは、その政策が全面的に評価されてのことではない。
民主308、自民119という歴史的結果は、民主圧勝に違いはないが、むしろ自民党のふがいなさによる自滅的敗北の側面のほうが強いように思える。自民党に対する「嫌悪感」ともいえるほどの国民感情をもたらしてしまったことへの自覚、自省がまず必要だろう。
*派閥とは違う次元での結束が働いた
筆者などは55年体制下の自民党を見てきた感覚から、こういう危機的状況のときには内向きの論理が働いて、後継総裁は高村正彦氏あたりに落ち着くのではないかと思っていた。小なりといえども派閥の領袖であり、党内結束が優先されるのではないかと直感したのである。
谷垣氏の場合、古賀、麻生、谷垣の3派に分かれていた旧宏池会のうち、古賀派と谷垣派が合併した経緯がある。3派が大同団結すれば「大宏池会」といわれたが、2派にとどまったことで「中宏池会」となった。そのさい、名称を古賀派とすること、谷垣氏をただちに派の総裁候補とはしないことが合併の条件となった。そうした経緯から古賀派の全面的推挙はあり得ないと見られたのだ。
だが、もはやそういう派閥次元の動きは通用しないことも、総裁選の経緯からよく分かった。それならそれでいい。かつての中選挙区制時代とは違って、派閥の存在感、意味合いもずいぶん薄れてきた。派閥とは違う次元での結束力が作用するのであれば、そこを注視していきたい。
考えてみれば、谷垣氏に決まったのは、自民党の世代交代の流れに沿ったものでもある。「ポスト小泉」をめぐり「麻垣康三」の争いとなったことを思い出そう。この4氏のうち、麻生太郎、福田康夫、安倍晋三の3氏は総理総裁を経験した。残るは谷垣氏だけであり、いわば順当な、おさまるところにおさまったということにもなる。
かつては「三角大福中」の自民党黄金時代があり、そのあと「安竹宮」「YKK」「麻垣康三」と続いた。「安竹宮」のうち、安倍晋太郎氏は病に倒れたが、竹下登、宮沢喜一両氏は政権の座を手中にした。「YKK」では、小泉純一郎氏だけが政権を手にし、加藤紘一、山崎拓両氏はその機会を逸した。
「次」をめぐる候補群として、そうした呼称がつけられるのは、世代交代のイメージをつくり出そうとする自民党的な「知恵」でもある。谷垣氏の総裁就任で「麻垣康三」の時代もクリア-したことになる。問題はそのあとが固まらないことだ。
*一定のガス抜き効果はあった
総裁選には河野太郎、西村康稔の両氏も出馬、3氏の争いとなった。河野氏は森喜朗元首相ら党長老に対して名指しで引退を迫るなど過激な言動を繰り返したが、総数499票(議員票199、地方票300)のうち144票を獲得して2位となった。100票を超えたことで河野氏が離党するような事態は回避された。
西村氏は一般にはほとんど知られていない議員だが、中堅・若手票が河野氏に集中するのを避けようとする思惑から、最大派閥の町村派を中心に擁立されたともいわれた。結果的には、西村氏は54票。河野氏の得票と合わせても、全体の6割、300票を得た谷垣氏には及ばなかった。
自民党総裁選がこれほど盛り上がらなかったのも初めてのことだが、結果を見れば、リベラル派の谷垣、河野両氏、保守派の西村氏が争う構図をつくり出し、谷垣氏完勝に終わったことで、それなりの「ガス抜き効果」が生まれたとはいえる。今後の自民党を見ていくうえで、総裁選結果の効用はそれなりにあったと見ていい。
党3役は、大島理森幹事長(高村派)、田野瀬良太郎総務会長(山崎派)、石破茂政調会長(額賀派)、国会対策委員長は川崎二郎氏(古賀派)といった布陣となった。国対経験の長い大島氏、政策通の石破氏の起用は分かるとしても、田野瀬氏は閣僚経験もない地味な存在で、総裁選で谷垣陣営の選対本部長を務めたことの論功行賞ともいわれた。
党中枢に最大派閥の町村派からの起用がなかったことが、今後、どう響いていくか。そこが谷垣新体制のネックではある。町村派の前身である福田派が昭和54年に結成されて以来、総裁・党3役にこの派閥が不在というのは、初めての事態だ。
「派閥次元の人事は考えなかった」という谷垣氏だが、総務会長に町村派の幹部を起用していたら、党内の雰囲気は、もうひとつ変わっていたはずだ。
そのあたりに谷垣氏の「練達度の薄さ」が透けて見えるのだが、ともあれ、この新体制で鳩山政権に対抗していくことになる。最初の関門は10月25日投開票の参院補選(神奈川、静岡)、10月末に召集される予定の臨時国会だ。
*「社民党を加えた鳩山政権」が攻めどころ
鳩山政権は政治主導、脱官僚を旗印に、続々とさまざまな課題を打ち上げている。官僚の天下り禁止、八ツ場ダムの建設中止、中小企業向け融資や住宅ローンの返済を一時猶予させる金融モラトリアム、月2万6000円の子ども手当、インド洋での自衛隊の給油支援停止・・・などなど、枚挙にいとまがない。来年度予算の概算要求もやり直しを指示した。
民主党にとってはマニフェストで公約したことを実行しようとしているにすぎないということなのだろうが、自民党にしてみれば、追及材料にはこと欠かないともいえる。
政策課題のほかに、小沢一郎幹事長の「西松献金」、鳩山首相の「故人献金」という政治献金をめぐる2大スキャンダルもある。自民党としては、政策論争よりも、こちらのほうが攻めやすいことになる。
参院補選はもし民主党が2勝すると、政治構造をがらりと変えかねない重みを持つ。民主党は現在、国民新党などを含めた参院会派の勢力が118議席。過半数122議席に4議席足りず、社民党5議席を加えて過半数を超える。
神奈川、静岡の両補選で民主党が勝つと、無所属で民主党とほぼ同一歩調を取る議員が2人いるから、合計122議席と過半数に達する。となれば、社民党の「ありがたみ」がぐんと薄くなる。衆参両院で社民党の助けを借りなくても過半数に達するとなれば、ことの次第によっては、社民党との連立政権も必要なくなるのである。
自民党にしてみれば、「社民党を加えた鳩山政権」が攻めどころのポイントでもある。外交・安全保障を中心に社民党の基本政策は民主党とは開きがある。「閣内不一致」が自民党にとっては、常に鳩山政権攻撃の軸となるはずなのだが、民主党側に「社民党への配慮」が不要になれば、様相が異なってくる。
そうした意味からも参院補選が重要になる。自民党としては、2勝ならいうことなしだが、せめて1勝1敗に持ち込みたいところだ。
それもこれも、すべては自民党がこの大敗北をどう認識し、党再生に向けての方向性を打ち出せるかどうかにかかっている。谷垣新総裁は「政権構想会議」や「影の内閣」をつくる方針だ。そうしたことによって「生まれ変わった自民党」を印象づけたいところだが、集票マシーンの崩壊や有権者の自民離れ意識を払拭していくのは容易なことではなさそうだ。
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4122 これで自民党の「再生」はできるのか 花岡信昭

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