アフガニスタンの“輝ける闇”。ノーベル平和賞はアフがニスタンでの米英敗北への道。
▲皮肉、皮肉、皮肉
米軍とNATOがアフガニスタンへ出兵して早や八年、いったいどれほどの戦果が挙がったのか。01年十月7日から開始された空爆はとりわけアル・カィーダの軍事拠点とタリバンの首魁=オマル師が隠れ住むとされたトラボラ、カンダハル周辺に加えられた。カンダハルはタリバン運動の嚆矢となった地方である。
山岳地帯には米軍特殊部隊が落下傘で降下し、そこで展開された作戦は秘密にされた。同時に米欧軍は反タリバンの北部同盟に肩入れし、タジク人、ウズベク人の管轄拠点をタリバンから奪回させた。
米軍はかつての英国軍、ソ連軍の大敗を教訓化し、同じ軍事作戦を採用しなかった。北部同盟を主力としてタリバン勢力に猛攻を加えながら南下、カブールを治めた。
首都圏からタリバンが去って、部族連合を掲げるカルザイが大統領に就任した。カルザイはパシュトン族の有力な酋長の後継者でもあるが、独特のスタイル、つまり人為的な部族融合の服装で国際社会に登場した。
すなわち「青と緑の縞のマントを着ている。彼はアフガニスタン全土を象徴するような服装をしている。子羊の革の帽子は南部カンダハールのものだし、マントは北部、シャツはイランと国境を接する西部の州の産だ」(アスネ・セイルスタッド『カブールの本屋』、江川紹子訳)という具合だった。
オサマ・ビンラディンは「行方不明」とされ、アル・カィーダの複数の幹部を拘束もしくは殺害したが、細胞の壊滅には至らず、いやそればかりかイエーメンにアル・カィーダは軍事組織を再構築した。
▲オマル師の復活、武装暴動の激化
オマル師も復活し、つぎつぎとアフガニスタンとパキスタンで暴動、一揆を扇動し、欧米軍をふたたび混乱に陥れた。タリバンは区別が付かず、シナ軍の便衣隊のごとし。
タリバンと「タリバン」を名乗る武装勢力が地方軍閥と組んだり、地区の支配権を確立するために偽装の反政府軍を僭称したり、ともかく反カルザイ政府を掲げる反乱軍がカブールを除く南西部に復活し、アフガニスタン政府軍と対峙する。外人部隊も夥しくパキスタン国境から潜入している。以前よりも激しく自爆テロも続行され、被害は甚大である。
複雑な問題は入り組んだアフガニスタンの地形だ。砂漠と高原、渓谷と草原と山岳地帯。熱砂から雪山まで。あまつさえ要所要所を繋ぐ道路が各地で寸断され、兵力の移動が容易ではなく、ゲリラ側に有利なことが筆頭にあげられる。
つぎに軍資金だが、密輸とりわけ罌粟栽培による収入が武器購入を容易にしており、さらにアラブ諸国からの献金がある。イスラムの連帯というよりアラブの金持ちらが保険を掛けているからで、表向き米欧路線支持、裏面ではアル・カィーダにみかじめ料を支払っているわけだ。
くわえてアフガニスタンは部族連合の人工的国家であり、国家を守る大儀を理解することは難しく部族相互のいがみ合いを基礎にタリバンにくっついたり離れたり。カルザイを支持したり排撃したり、カメレオンの如く立場を変える。
ある日はカルザイ軍兵士として闘い、翌日はタリバン兵士に突如変身することにかれらは矛盾を感じない。
あまつさえタリバンはパシュトン族が基軸の集合体であって、パキスタン情報部が陰に陽に支援するため英米軍の情報が漏れている。米軍やNATOの作戦が有効に終わらず、ときに部族同士の諍いに巻き込まれ、意図的な誤爆を余儀なくされる。
▲女性差別、女性蔑視はタリバン憲法の中核
タリバンは女性にブルカの着用を義務付け、学校教育を禁止し、反対にブルカの着用をしなくなったカブールの「近代化」を呪い、女性の通う学校を襲撃する。女性看護師のいる病院も攻撃の的になる。
タリバンが治める地域では女性が町へでることさえ滅多になく、家の中でひっそりと暮らしている。文字を読めず、教養を身につけることを拒否され、結婚相手は親が決める。家族では父親が絶対の存在であり部族社会にあっては部族長の決定が絶対的価値観を持つ。結婚は花婿側の用意するカネと贈り物の多寡で決まり、女性は要するに子供をつくる機械であり、第二夫人も第三夫人もカネさえあれば調達でき、花嫁はカネで売買されるという中世の伝統をそのまま引き継いでいる。
女性の職場進出もあり得ないことである。欧米社会から見れば、タリバンの強制する規則は想像を絶する「反近代」であり、蒙昧な社会を開放し女性の地位を向上させ、教育と差別からの自由化こそが近代化であるという歴史認識からミッション意識が生まれる。
しかし率直に言って西側の進歩史観がアフガニスタンの社会で受け入れられることは向こう一世紀はないであろう。オマル師が表舞台から忽然と去って八年の歳月が流れた。
タリバンの軍事反撃がアフガニスタン全土で頻発し、いつしかオマル師は復権していた。かれはパキスタンとの国境地帯クエッタ周辺にいると推測される。
オマル師は、ソ連の侵略時代の爆弾で負傷して片眼を失い頭脳も負傷したため正常な判断は下せないと言われるが、側近がオマル師と諮って物事を決めているようだ。
謎はオマル師はパキスタン情報部にたぐられているのか、或いはタリバンを組織的に一元化して束ねているのか、単に反政府武装勢力の象徴的存在として崇められているだけなのか。
いずれにしても米英を軍事的にきりきり舞いさせている事実は動かない。オバマ政権を揺さぶっているわけだからオマル師は”第二のホーチミン”足りうるだろう。
かれはカセット・テープにムジャヒデン精神を鼓舞するメッセージを吹き込み、「われわれは八十年闘って英国軍を撃退した。欧米軍は八年間、アフガニスタンでなんの成果をもあげていない」と総括している。
オマル師を崇拝する狂信的若者らを「聖なる戦士」と呼び、自爆テロを崇高なムジャヒデンの使命と教唆し、みごとにイスラムの指導者という神話を復活させ、米国を苛立たせた。
2001年以前に何回もオマル師にインタビューしたパキスタンの記者は「国際情勢にまったく知識がない」というオマル師の実像を語っている。
カンダハル在住のオランダ人記者アレック・ストリック・バン・リンスクーテンは「オマル師の側近が四人か五人。これ以外とは接触しない。その四人か五人の側近にアクセスするルートしか残っていない」という(ヘラルド・トリビューン、10月12日付け)。
▲タリバンをなのる無法者と強盗の類いも混入
「最近の軍事衝突は地方の軍閥、ギャング団、無法者たちが整合性なく惹起させているものだが、この戦闘の重要な部分にタリバンがいることは事実」とマクリスタル司令官は報告している。
彼は続けて、「かれらに共通するのは米英軍とアフガニスタン政府を敵視している点であり、タリバンは中央集権的組織とは言えず、作戦をフランチャイズ化させている」と報告している。
オマルにおけるボー・グエン・ザップ(参謀格)は側近ナンバーワンと推定されるアブドル・ガニ・バラダル師で、ゲリラを全土に分散させてNATO軍の配置をさらに分散させ、外国軍隊の小部隊を奇襲する作戦が多く、兵力分散が危険としてマクリスタル司令官はオバマ大統領に四万人の増派を要請した。
タリバンは爆弾の破壊力を増強させ、アル・カィーダとパキスタン情報部の支援により作戦が向上し巧妙化し、さらには各地の行政府にスパイが潜り込んでいる。オマル周辺は共産党政治局に喩えられるという。
ノーベル平和賞のオバマ政権は派手な戦争も増派も選択肢としては難しくなった。アフガニスタンで英米が敗北する事態となれば、誰が得するのか? 北京の高笑いが、すぐそこで聞こえる。
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