4140 鳩山首相の危うい政治哲学 古森義久

渡辺利夫氏といえば、アジア研究では日本でも屈指の権威です。アジアの経済から入って、政治、安保と学究の対象を広げ、いまでは国際情勢全体についても冷徹な研究を発表されています。現在は拓殖大学の学長です。もちろん著書も多数あります。


その渡辺氏が鳩山首相の唱える東アジア共同体構想について「『東アジア共同体』の幻想に惑わされるな」というタイトルで意見を発表しています。副題は「鳩山首相の危うい政治哲学」でした。この意見はインタビュー記事として日本政策センター刊の情報誌『明日への選択』10月号に掲載されました。


渡辺氏の意見にはこれまでの長年の研究の成果としての重みがあります。教示の多い内容です。その要点を以下にいくつか紹介させていただきます。


「鳩山論文を読んでみると、東アジアは『わが国が生きていく基本的な生活空間』などというすごいことも書いてある。かなりピントが狂っているな、というのが私の感想です」


「鳩山さんはEUを想定して東アジア共同体を考えているようですが、東アジアにはEUのような共同体となるための条件はすべて欠けています」


「第一には共同体には共通の価値観や社会理念が不可欠ですが、東アジアにはこれが存在しません。EUの場合、自由や平等や人権や市場経済といった共通の価値を持っていて、持っていない国はEUには入れません」
「二番目ばそういう価値や理念を反映した政治制度に共通性がありません。EUは27カ国すべてが議会制民主主義の制度がありますが、アジアは相互に政治体制が違います。中国のように共産党が全てを決める国もあるし、わが国のような民主主義の国もある」


「三番目の条件は、これが今後ますます重要性を持つと思うのですが、共通の安全保障体系です。EUの場合はNATOという『悪の帝国』ロシアに対抗するための強い結び付きがあり、これをベースにした安全保障体系を共有しています。しかしアジアには共通の安全保障体系がありません。永久にできないと思います。しかもないだけではなくて、例えば、中朝友好同盟条約などというものがまだ存在し、中国と北朝鮮は軍事同盟の関係にある」


「四番目の問題をあげれば、アジアには貧乏国と超富裕国が併存し、一人当たりの所得水準の差が極めて大きい。EUでは所得水準がある程度の幅で収斂しています」


「こうした違いを無視して共同体として一緒になれば、まさに強大国と弱小国の力の差が明瞭に出てくるはずです。その非対称性のゆえに強大国による弱小国の支配が一層、容易になってしまうのです」


「東シナ海の制海権を握ろうというのが中国の本当の目的です。もし南シナ海に続いて、東シナ海も中国の内海になってしまえば、アジアの帰趨は決まってしまいます」


「そういう事態を想像することさえ、日本の指導者にはできなくなっているようです。だから東アジア共同体などという脳天気な発想が出てくることにもなるわけです」


渡辺氏の論理と事実に裏打ちされた鋭い主張はまだまだあります。今回はとりあえず以上を紹介させてもらいました


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