4177 ワクチン接種は1回か2回か 石岡荘十

新型インフルエンザワクチンの接種が始まったが、その効果をめぐる議論が専門家の間で続いている。議論のひとつは接種回数の問題である。
ワクチンはこれまで1人につき2回接種しなければ、免疫効果が出ないとされていたが、厚労省は16日、20歳から59歳までの200名の健常成人を対象に行なわれた臨床試験の中間報告を根拠に、「1回の接種で十分な免疫が得られた。13歳以上は原則1回」とする方針を示した。
マスコミのなかにはこれが最終決定だという印象を与えかねない報道をしたところも少なくない。
接種回数にこのように厚労省がこだわるのは、ワクチンの絶対量が不足していることについて、厚労省の責任を問う世論が起きているためだ。2回接種を1回にすれば、倍の国民に接種することが出来る計算となり、予定されている海外からの輸入分をあわせれば、全国民に新型インフルエンザに対する免疫を実現できるというのが厚労省の目論見である。1回接種が実現すれば責任を問われなくて済む。
ところがこの報道を受けて、感染症専門家の間から「原則1回は拙速」という批判が続出したことから、足立信也厚生労働政務官は19日夜、厚労省の意見交換会で新型インフルエンザ用ワクチンの「接種回数を原則1回としたのは拙速だった」として、同省内に専門家を集めて議論のやり直しを行った。
この席で足立政務官は国立病院機構による臨床試験は「健康な成人200人弱で行われながら、結論がほかの接種対象者に拡大解釈された。20~50代の健康成人について、1回の接種で一定の効果があるとしか言えない。2回接種の効果とも比べたわけでもない」」と指摘。
つまり、健康な限られた年代の人を対象にした試験結果を、科学的、医学的な根拠も示さないで他の年代や妊婦、基礎疾患のある人にまで拡大評価した医系技官の“暴走”を批判したものだった。
会議に出席した東北大学大学院感染制御・検査診断学分野講師・森兼啓太氏は翌日(10/20)、厚労省方針を疑問だとする理由を、会員を医師に限定したメールマガジン「MRIC by 医療ガバナンス学会 」でおおむねこう述べている。
<20歳から59歳までの200名の健常成人を対象とした試験では、1 回接種した96人中、75 人(78.1%)が)HI 抗体価(免疫効果)が40倍となっている。従って、健常成人では国産ワクチンの1回接種で十分な効果を得ることが期待できる>
しかし<これ以外のことに関しては、本試験の報告からは一切導き出すことができない。基礎疾患を有するもの、妊婦、19歳以下の児童・生徒・学生などについては、別途臨床試験を行なった上で、接種回数を決定する必要がある>
<若年者において複数回の接種が必要なことは今更述べるまでもない。季節性ワクチンでも小児に対する適切な接種回数は2回であり、今回の新型インフルエンザワクチンでも多くの国で小児を2回接種としている。
19歳以下については何も言えない。若年者を対象としたスタディは、採血への同意が得られにくいなどの理由で行ないにくいという可能性はあり、実施は困難かもしれない。そうであれば、その旨を公表すべきである>
<いずれにせよ16日の会議での結論は拙速で非科学的だと考える。専門家が出す結論としては理解できない。基礎疾患のある者や妊婦への接種回数が不十分だったために、十分な免疫がつけられないことになっては、本末転倒である。さらに、児童・生徒・学生に接種が始まるのは1月ごろになると予想されている。なぜ今、これらの人への接種回数を性急に決定する必要があるのだろうか>
長妻厚労相は20日、最終結論を明らかにすると報道されている。本稿がアップされる時点では決着しているだろうが、いずれにしても、感染症についてど素人の厚労省医系技官が机上で対策・制度を作文していることがまたまた明らかになった。
今後も眉につばをつけて、かからねばひどい目にあうことになる。
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