4196 新「小沢劇場」が幕を開けるのか 岩見隆夫

小沢一郎さんが大変気になる。二十年前、小沢さんが若くして自民党の幹事長になったころからずーっと気になってきたが、今回、政権与党・民主党の幹事長に就任して一段と。
何が気になるかと言えば、小沢さんが善玉か悪玉かといった単純な仕分けではなく、善悪どちらでも国と国民のためになる政治をやってくれればいいのだが、何をやろうとしているのかわかりにくい不安、不快がいちばん大きいだろう。
小沢さんにつけられたもっともポピュラーなニックネームは〈壊し屋〉である。過去、いくつかの政権、政党を作ってはつぶし、多くの政治家をほんろうしてきたから、そう呼ばれても仕方ないのだが、いま、世間では、「また小沢さんの悪い癖がでて、せっかく誕生した民主党の政権をつぶすのではないですか」
と口に出して問いかけてくる人が少なくない。それほど〈壊し屋〉は人口に膾炙しているのだ。気になるもう一つの点である。
先日、企業経営者らの会合で、政治談議のすえに、ひとしきり小沢論になった。
「小沢プーチン、鳩山メドベージェフじゃないの」と一人が言う。
「力関係はそうかもしれないけど、プーチンは一度大統領をやってるからなあ」「息の長さでは不倒翁といわれたトウ小平だろう。彼もトップに座ったことがないが、最高実力者と言われた」
「しかし、トウ小平は開放政策を進めたじゃないか。イメージが違う。小沢は開放的じゃない」「やっぱり師匠にならって闇将軍か。だけど、田中角栄は金脈批判で政権を去り、ロッキード事件で逮捕されたあとも権勢を振るったから〈闇〉と言われたんで、小沢は失脚も逮捕の経験もない」
要するに誰に似ているかという話である。最後にコメントを求められたから、私は、「数と金力で押さえ込もうとするのは角栄とそっくり。しかし、角栄は人情政治家の一面もあって陽気だったから、人に愛された。小沢はわがままで陰気、非情にもなれるから愛されない。それだけ角栄よりしぶといのかもしれないが」
と答えた。的確な批評とは思っていない。小沢さんは誰とも違う小沢さんなのである。しかし、実像がつかみにくいから、世間はじれる。
小沢さんと長年行動をともにしてきた民主党最高顧問の渡部恒三さんが、先日、「国民はちゃんと見ているなと思う。私も全国を歩いているが、小沢は絶対だというファンと、小沢ではダメだという声と半々だな」
とテレビ番組で語っていたが、これも同じだ。半々の反応がちゃんと見ていることになるとは思えないが、世間の目に映る小沢像は明らかに分裂している。危なっかしい。
◇自・民ガラガラポンで高純度の二大政党制!?
わがまま、という点でこれだけは言っておかなければならない。鳩山由紀夫さんが国会で首相に選ばれたのが九月十六日、四日後の二十日、小沢さんはイギリスに旅立ち一週間滞在した。〈英国議会など調査のため〉とされたが、同行した側近の数人以外、だれも本当の訪英目的がわからない。
私は新閣僚の一人に、目的は何か、と聞いた。「ああ、心臓病の定期検診でしょ。党の役員人事を放ったらかしのままだから、みんな困ってるんです」と言う。定期検診は本当か。
「みんなそう言ってますよ。しかし、本当かと言われると、本人に直接聞いたわけじゃないから……」外務省幹部にも尋ねてみた。ロンドンの日本大使館は小沢さんの面倒をみたのか。
「少しはみました。しかし、イギリスで何をされたかは把握していない。人には会っていないみたいです」という返事だった。要するにわからない。政権発足直後の大切な時期に、与党の最高責任者がきちんとした説明もないまま国を留守にする、などということが許されるだろうか。小沢さんは、
〈全力投球で政権を作ってやったのだから、一週間ぐらい自由にして何が悪い〉と言いたいのかもしれないが、とにかく、政権をコントロールする人物のこのわがまま、秘密主義は限度を超えている。
かつて、細川政権で官房長官をつとめ、小沢さんとバトルを演じたこともある武村正義さんは、「彼も六十七歳でしょ。丸くなり、枯れていってほしいと願っている」(九月二十二日付『産経新聞』インタビュー)
と注文しているが、いまのところそんな気配はみじんもない。武村さんが繰り返さないでほしいと訴えている〈政府と与党の二重構造〉が、今回も早くも進行しつつあるようにみえるのだ。小沢さんの悪い癖がでてきた、と警戒する声が民主党内で次第に目立つ。
冒頭に、小沢さんは何をやろうとしているのかわかりにくい、と書いた。一つ、気になる発言がある。二〇〇三年夏、民主党と自由党が合併した場面だが、自由党代表の小沢さんは、民主党が政権を取れば政界地図はどう変わるか、という問いかけに、次のように答えた。
「自民党がバラバラになり、もう一度再編が起こる。われわれの側でも議論の対立がでてくるかもしれない。いまの姿を固定した勢力だとは思わない。二大政党制が定着し議会政治がレールに乗るには、再編がもう一度必要だろう。とにかく、ガラガラポンにいずれなる。そのためには、いったん自民党をつぶすしかない」
政権奪取が最終目標ではない。そこから新〈小沢劇場〉を開幕させる。まず自民党の息の根を止め、同時にガラガラポン(再編)、民主党も割れる。民主・自民のいまの二党体制を望ましい二大政党制とはみていない。もっと純度の高い政党政治を-という小沢さんの野望らしきものがおぼろげに浮かんでくる。
しかし、それは新たな混乱の始まりか、政治システムの前進か、判然としない。(サンデー毎日)
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