4227 防衛省首脳との会食と歓迎栄誉礼を辞退 古森義久

10月20日から日本を訪れたオバマ政権のロバート・ゲーツ国防長官が日本側の防衛省首脳との会食を辞退し、さらに自衛隊の歓迎の栄誉礼をも辞退したことは、もうちょっと真剣な関心を向ける必要があるでしょう。
ワシントンの日米関係政策コミュニティーでは「ゲーツ氏の辞退」が少なくとも重大な出来事として論議の対象となっています。その論議の背後にあるのは「日米同盟は危機を迎えつつあるのか?」という疑問です。
ワシントンでゲーツ長官の外交儀礼を欠いたかのような態度が最初に話題となったのは、ワシントン・ポスト10月22日の記事が契機でした。この記事はジョン・パンフレット記者とブレイン・ハーデン記者との共同執筆です。
ハーデン記者は東京駐在のようですが、パンフレット記者は元来は中国報道で名声を確立したベテランです。いまはワシントン駐在で、部長級のエディターとして取材も執筆もするという感じです。ちょうど私の北京駐在時代にパンフレット記者も北京にいて、知己を得ました。
その両記者の長文の記事はゲーツ長官の訪日にからめて鳩山新政権のアメリカや日米同盟に対する態度にオバマ政権がいらだちを深めているという趣旨でした。見出しは「アメリカは軍事パッケージに関して日本に圧力をかける」「ワシントンは東京の新リーダーたちが同盟を再定義しようとすることに懸念を抱いている」でした。
その記事でとくに興味深い部分は以下の記述でした。
「外交儀礼が重要性をにじませることの多い(日米同盟)関係で、ゲーツ長官は自分自身のスケジュールに(米側の受け止め方を)語らせた。長官は防衛省高官たちとの夕食会と防衛省での歓迎の儀式への招待をともに辞退したのだ」
このことは日本側では少なくとも読売新聞が報じていました。しかしごく小さな扱い、しかも他の解説記事のなかの短い言及という感じでした。産経新聞もワシントン・ポストの報道を受ける形で25日付で報じています。「ゲーツ長官はいったんはセットされていた北澤防衛相との夕食を断った」というのでした。
ゲーツ長官は明らかに鳩山新政権への不満のために、あえて会食も栄誉礼歓迎式もボイコットしたのです。こんなことは日米安保関係の長い歴史でもまず例がありません。アメリカ側はそれだけ現状を重大だと認識し、不満や抗議の念を強めているのでしょう。
オバマ政権がこのように強硬に、しかも臆するところなく不満を表明するという現実は、日本の安全保障にとっても深刻です。米側の硬化は今回は夕食と歓迎式の辞退、あるいは拒否だけに留まったようですが、安全保障でのこうした負の変化は必ず経済面にまで波及します。そうなると安保面での悪影響を認めたがらない日本側の特定勢力も、さすがに経済面での悪影響は認めざるを得ないことになるでしょう。そういう流れが少なくとも過去のパターンでした。
オバマ政権がこうして強硬な姿勢を打ち出してきたことの理由や経緯はまた回を改めて報告しましょう。
今回、強調したいことは、たかが夕食会とか歓迎式といって、軽視をすると、全体図の不吉な変化の予兆をまったく見逃すことになるだろうという点です。日米同盟は破棄したほうがよい、という立場を取るのなら、またアプローチはまったく別になりますが。
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