4272 小沢一郎氏の「次の一手」は何か 花岡信昭

*事実上の「最高権力者」となった小沢一郎氏
鳩山政権は「政治主導」「脱官僚」を旗印に連日のように、メディアをにぎわす派手な動きを示している。308議席という歴史的圧勝によって実現した政権交代であるだけに、これまでのしがらみにとらわれず自在な政策発信が可能になった。あやうい面も多々あるのは事実で、臨時国会乗り切り、来年度予算の年内編成が当面の課題だが、名実ともに「最高権力者」の座を占めた小沢一郎幹事長は何を考えているのか。そこを占って見よう。
鳩山新体制のスタートに当たって、小沢氏は党役員人事を決めないまま英国を訪問してしまった。このため、党側の新たな体制づくりは大幅に遅れた。そこににじむのは、鳩山首相と小沢氏の微妙な関係だ。
鳩山首相は当初、小沢氏を幹事長には想定していなかった。岡田幹事長体制のまま、内閣と党を鳩山―岡田で分散統治することでバランスをはかろうとしたフシがある。小沢氏がそれに不快感を示し、鳩山首相はあわてて深夜のトップ会談を設定、小沢氏に幹事長就任を要請するはめになったのは周知の通りだ。
したがって、岡田氏の外相起用はいわば「閣内封じ込め」の意味合いが濃い。その岡田氏は、日米同盟の関係強化とインド洋の給油支援停止という難問に直面している。だが、さすがというべきか、アフガニスタンへの電撃訪問など、行動する外相として存在感を示しつつある。
野田佳彦氏は財務副大臣という、その党内的立場から見れば軽量ポストに甘んじることになったが、高齢の藤井裕久財務相を支えて、これまた存在感を示している。
岡田、野田両氏に触れたのは、「ポスト鳩山」が現実のものとなった場合の最有力候補であるからだ。現段階では鳩山政権が短命であると言い切れるだけの材料はない。厄介なのは、「故人献金」問題で、おそらく臨時国会では小沢氏の「西松献金」とともに、「野党・自民党」の集中攻撃を浴びるだろう。
鳩山政権誕生の後、小沢氏は何を考えているのか
臨時国会を乗り切れば、予算の年内編成ができるかどうかが焦点だ。政治主導、脱官僚の2枚看板ではたして予算編成がスムーズに進むのかどうか。未知の領域であるだけに、こればかりは分からない。
本来は予算の大方針を決める場となるはずの国家戦略局(室)は実質スタートが遅れている。菅直人担当相のイライラも相当に募っているようだ。臨時国会で自民党は献金問題とともに、政権内部の不統一を徹底して追及し揺さぶるだろう。これにどこまで耐えられるか。
そこで、早くも永田町でささやかれているのは、小沢氏はいったい何を考えているのか、ということだ。あの小沢氏のことだから、鳩山政権誕生ですべてよし、とは思っていない。むしろ、これからが「本番」と踏んでいるはずだ。
この政権があやういのは、小沢氏の政局至上主義と左派の結合にある、とこのコラムでも指摘してきた。小沢氏は民主党を完全掌握するために、旧社会党出身グループとあえて緊密な関係を築いてきた。
そのことは、横路孝弘氏の衆院議長就任、輿石東氏の幹事長職務代行への起用にあらわれている。衆院議長は渡部恒三氏が有力視されていたが、小沢氏はこれを退けた。西松献金問題が浮上したさい、渡部氏が代表辞任を迫ったことで小沢氏が嫌った、といった解説が流れている。[渡部氏は党の最高顧問も外れた]
輿石氏はいうまでもなく日教組の大ボスである。地元の山梨県教組を舞台に教育界を総動員した選挙態勢を展開したことも批判されてきた。そうした一面はあるにせよ、輿石氏の政治的手腕は半端なものではない。だからこそ、自民党の参院を牛耳る青木幹雄氏とも太いパイプを築くことができた。小沢氏はそこを買ったのである。輿石氏は参院議員会長兼務のまま幹事長職務代行というポストを得た。党にあって、小沢幹事長に次ぐナンバー2の座を確実にしたといえる。
*「壊し屋」だけでなく、次々と新たな組織をつくってきた
民主党と自由党の「民由合併」以後、小沢氏は「ヒサシを借りて母屋を乗っ取る」を地で行く行動を取り、民主党全体を掌中にした。その党内操縦術のカギは旧社会党グループとの関係強化にある。
「放っておいても近い連中は黙っていてもついてくる。厄介なのは、最も遠くにいる連中だ。ここと手を握る。そうすれば全体をごそっと引き寄せることが可能になる」。小沢氏は組織掌握の戦略をそう述べたものだ。
小沢氏の政治行動を見ると、大胆な政局転換を果たしたいときには、政治信条などは抜きにして「なんでもあり」の対応を取ってきたことが分かる。細川政権をつくったときには、当時の社会党も含め8党派をまとめあげた。新進党瓦解のあと、小渕自民党との「自民・自由連立」を果たしたかと思うと、連立離脱、そして民主党との合併とめまぐるしい政治行動を取ってきた。
「壊し屋」の異名をとる小沢氏だが、壊した後に別のものを構築してもきたのである。そこを見据える必要がある。
*失敗するごとに政治的地位を増してきた不屈の生命力
小沢氏はまた、ことに失敗して「政治生命は終わった」などといわれるような局面に遭遇しても、あっという間によみがえり、再浮上したときには以前よりも強い政治的パワーを備えている、という芸当のできる政治家でもある。
2年前の大連立騒動を思い起こそう。当時の福田康夫首相との間で大連立の枠組みが完全に出来上がっていた。大連立は安倍政権下では無理だった。安倍氏の保守的傾向に対して民主党側にアレルギーがあったためである。それが思わぬ安倍氏退陣によってリベラル色の強い福田氏が首相となり、小沢氏はただちに大連立工作を開始する。福田首相が安倍内閣の閣僚をほとんど「居抜き」で引き継いだのは、実は大連立に備えてのことであった。
小沢氏は民主党側の了解を取り付けようとするが、失敗する。民主党幹部で大連立工作を知らされていた人はほとんどいなかったようだ。まさに寝耳に水だったのである。党側の猛烈な抵抗で小沢氏は大連立を断念、代表辞任を表明する。それからが、小沢氏の真骨頂であった。
党側はこぞって小沢氏を慰留、最後には小沢氏が「東北出身のため口下手で説明不足だった」などと涙を流して、代表の座にとどまる。大連立工作の失敗という政治的ダメージにもかかわらず、続投した小沢氏は代表としてのパワーを倍加させてしまった。党をあげての慰留の結果なのだから、それも当然だ。
西松献金問題で代表を辞任したときも同じである。小沢氏は鳩山―岡田両氏による代表選挙を演出、鳩山氏側に立って代表選を勝ち抜く。その結果、選挙担当の代表代行におさまる。公認、資金を含め選挙全体を仕切るのだから、これは考えようによっては、動きが制約される代表の座よりも政治的には強いことになる。
なんのことはない。政治献金問題で代表を辞任し、すぐさま、代表の座にあったときよりもパワーアップしたのである。その結果が308議席だ。これはもう最高実力者の位置を天下に示したことにほかならない。
鳩山氏は表舞台で飛んだりはねたりする首相としては、当たりはやわらかいし、国民受けもいい。小沢氏にとって、これ以上、操縦しやすい首相はいないといえる。そこで間違えてはならないのは、小沢氏は民主党を軸にした政権をつくったのであって、鳩山政権をつくったのではないという非情な事実だ。鳩山氏がなんらかの事情で窮地に追い込まれれば、「カオのすげ替え」は容易に行われるだろう。
*狙っているのは「左派切り」、保守大連立か
小沢氏は党内の旧社会党グループとともに、社民党とも良好な関係を築いてきた。国民新党、社民党との連立政権となったが、これは参院で民主党が単独過半数を得ていないためだ。
現在、参院の民主党会派には国民新党、新党日本などが含まれており、118議席となっている。過半数122議席に4議席足りない。だから、神奈川、静岡の参院補選が重要になる。ここで2連勝すれば、無所属で民主党とほぼ同一歩調を取る議員が2人(糸数慶子、川田龍平両氏)いるから、全部合わせるとちょうど過半数に達することになる。[2補選は民主党が勝利した]
補選2連勝がかなわなかった場合は来年夏の参院選が勝負となるのだが、いずれにしろ、参院で社民党に頼らなくてもいい状況が生まれた場合、小沢氏の「次の一手」が発動される可能性がある。それが大連立の再燃である。
自民党、公明党を含めた大連立となれば、党内左派も社民党もその「重み」はぐんと軽くなる。308議席を背景に、自民党に対しても優位な立場で大連立の工作を展開できる。「左派切り」への大転換によって、外交・安保政策や消費税問題などを中心に思いきった政治決断が可能になる。
大連立によってそうした重要課題に決着をつけ、次の総選挙を迎えるときには、小選挙区選挙だから必然的に2大政治ブロックに分かれていくことになる。これによって、小沢氏が政治改革の到達点として狙ってきた「保守2党時代」が現出する。小沢氏の現在の言動はそこへ向かっての第一歩と見たいのだが、どうか。
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