重慶の汚職摘発、ギャングへの挑戦は、なぜ中国全土へ拡がらない?正義の味方、「現代の包公」(薄書記)へは中央からの逆風が強い。
重慶は十数年前に四川省から「分離独立」し、行政上の特別市に格上げされた。人口は3000万人。歴史的にも蒋介石政府最後の拠点であり、毛沢東と蒋介石の会談場所でもあり、紅拠点と言われ、共産党の本拠地にもなった。
朱容基首相時代に、重慶は「西部開発」の目玉とされ、開発予算が300億ドルもついた。このため経済成長の熱狂が始まり、高速道路、中国で唯一と言われる五交差インターチェンジ、モノレール、トンネルに橋梁工事と、重慶は土木プロジェクトによる繁栄が顕著となった。
重慶で黒社会と共産党幹部との癒着がおこり、ここへ三峡ダムで立ち退かされた十数万が流れ込み、秩序は乱れ、暴動も頻発する。
胡錦涛政権は、この地のトップに前商工大臣の薄き来を据えた。薄は遼寧省省長、その前は大連市長。知日派としても知られるが、共産党長老の薄一波の息子、ねっからの太子党でもあり、党エリートである。
したがって、彼が、共産党の特権を許さずに、腐敗と不正がまかりとおる重慶の無法状態に正面から挑戦し、1500名余を逮捕、起訴した「重大事件」は世界の注目となったが、以後、不思議なことに全土へ拡がらない。共産党中央は「汚職追放」キャンペーンを続けているのではないのか?
「黒道」(ギャング)と「貧官汚吏」(汚職官僚)の癒着にメスを入れ、片っ端から逮捕へ踏み切った重慶市書記の薄き来は、庶民の「英雄」であり、現代の包公(中国の大岡絵越前と言われる公平な裁判官だった)とまで言われた。
ところが北京では、「やつの政治的野心。これで一気に北京へ二段階特進を勝ちえ、次は首相を狙う」という分析から「いやいや、もっと薄の政治的野心は大きく、習近平をだしぬいて、次は総書記、国家主席を狙うための布石ですよ」という解説がまかり通る。だから北京中央は重慶での汚職摘発を眺めているだけのようだ。
毛沢東は革命前、幇組織(マフィア)や軍閥を利用して抗日戦線の前衛に巻き込み、革命成立後、かれらを巧妙にひねり潰した。言うなれば、暴力団は共産党いがい必要がないからである。組織的な活動を許すと共産党の地盤が浸食される。
▲誰もマフィアと党幹部汚職が止むとは考えていない
改革開放の前進と共に各地に幇組織(マフィア)や地元やくざ(地頭蛇)が復活し、大規模なギャング団は「新義安」「14K」など住吉連合や山口組よりも大きくなった。地下の経済活動は、かれらが牛耳る。麻薬、密輸、武器取引、売春そのほか。準構成員を含めると中国のやくざは1000万から2000万と推測されている。
裁判はすでに連続して開かれており、六人に死刑判決。共産党始まって以来、「これほど大がかりな裁判も珍しく、ほかに9000名の容疑者、50人の共産党幹部、くわえて104の地元のギャングの胴元だった財閥などが裁かれている」(ヘラルドトリビューン、11月4日付け)。
今週、地元の「運輸王」とも言われる李の裁判が開かれた。かれは1000台のタクシーと100台の公共バス会社を経営し、重慶市共産党幹部三人に合計30万ドルの賄賂を贈ったとされる。
しかし、中央政界は重慶における動きを知りながらも、コメントをせず、薄き来への評価を控えている。「理由は貧富拡大、汚職拡大という風潮の中で、新左派と呼ばれる毛沢東礼賛理論派の台頭と繋がっており、薄き来の反汚職キャンペーンが、この新左派に利用されることを極力恐れているからではないのか」(多維新聞網、11月1日)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
4302 重慶の「黒道」(ギャング)退治 宮崎正弘

コメント