4332 鳩山政権は日本の防衛考えず 古森義久

まるで遊びのような軽薄な言葉の飛び交いが日米同盟を揺さぶっている。日本の首相や閣僚たちは「日本の対外政策の基軸は日米同盟」と明言する一方で「日米同盟を見直す」と述べ、「米国離れ」を示唆して、「アジアの集団安全保障」を強調する。
沖縄の普天間飛行場の扱いにいたっては、日替わり定食のメニューのように相反する多様な言葉が連日、飛び出す。 鳩山政権の日米安全保障関係への矛盾や背反や当事者能力の欠落にまで当初は反発せず、表面の円満を保とうとした米国のオバマ政権も、ついに不満や反対を率直に示すという方針へと切り替えたようだ。
それでもなおオバマ大統領は訪日での日米首脳会談では普天間問題の先延ばしを許容する構えをちらつかせている。国内での人気低下や医療保険改革の苦境に、日米関係まで悪化させたという非難を恐れるのだろう。
だが日米同盟に実際にかかわる米国側の官民の関係者たちがいま一様に不満を述べるのは、「鳩山政権からは日本の防衛を考えるという姿勢がまったく感じられない」という点である。
そうした点について日米同盟に30年も関与してきた米側の国防大学教授ジム・プリシュタップ氏とバンダービルト大学日米研究協力センター所長ジェームス・アワー氏とに見解を聞いてみた。
1970年代に下院外交委員会で日米安保問題に取り組み、歴代政権の国務省、国防総省でも日本を担当したプリシュタップ氏は「鳩山政権の日米同盟についての発言は体が一つでも頭が多数ある古代インドの多頭神を思わせ、どの発言を信じてよいか、わからない」と評する。
「日本の新政権に当初、自由になにを述べても構わないという誤解を与えた点はオバマ政権の非もあるが、こんな混乱は日米同盟の歴史でも初めてだ」とも語るのだった。
そのうえでプリシュタップ氏はとくに重要な点として「鳩山政権は日米同盟を環境問題、あるいは最大限、政治問題としてしかみず、安全保障、軍事という核心を無視しているようだ」と述べた。
日米同盟には確かに政治、外交さらには環境という要素もあるが、主体はあくまで軍事であり、鳩山政権はその軍事という中心の要素が存在しないかのように振る舞っている、というのだ。
つまりは日本の防衛という主眼の無視だろう。
1970年代から80年代にかけて国防総省日本部長を務め、その後も日本側の防衛関係者との交流を続けてきたアワー氏も「鳩山政権には政府の責務である自国の安全を守ることの意識が感じられない」と指摘した。
普天間についてはとくに「細部の議論ばかりで、日本になぜ米軍基地があるかの基本を考えず、まさに『木をみて、森をみず』となっている」と強調する。
アワー氏は日本の民主党がよく唱える「日本は米国に追従してきた」という表現に対しても、「日本がもし本当に追従してきたのなら今ごろ自衛隊も防衛費も規模が倍以上となり、集団的自衛権を行使して、アフガニスタンにも戦闘部隊が駐留していたはずだ」と皮肉をこめて反論する。
両氏とももちろん米国の国益という観点からの日米同盟堅持論者だが、日本に対しては前向きに、よいところに注視するという友好的なスタンスで一貫してきた。
その2人がここまで日本側に批判の矛先を向けるのは初めてだといえる。
しかしそんな状態の日本側で在日米軍の基地問題でワシントンを訪れ、5日に講演をした神奈川県の松沢成文知事が語った言葉は心強かった。
松沢知事は民主党寄りにもかかわらず、「日米同盟は日本の安全保障だけでなく、アジア・太平洋全体の安定のために不可欠であり、とくに北朝鮮の核やミサイルの脅威や中国の海洋進出を考えると、沖縄の基地の重要性がわかる」と述べたのだった。
そのうえで同知事は沖縄の負担軽減を説きながら、日本の安全にとって日米同盟は唯一の選択肢と強調した。
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