鳩山内閣の支持率で共同通信社、読売新聞社、NHKが相次いで第二回目の全国世論調査を実施した。安倍内閣の末期には毎週の様に内閣支持率を発表した朝日新聞社は不思議と沈黙を守っている。識者の中には朝日は民主党贔屓だから、民主党に不利となる世論調査は行わないと物知り顔に批判する向きもある。
11月10日朝日は「情報源の世代間ギャップ」という萩原雅之氏の意見を掲載している。萩原氏は東京大学教育学部卒。日経リサーチなどを経て、99年から約10年間ネットレイティングス代表取締役社長を務め、2009年8月からトランスコスモス株式会社エグゼクティブリサーチャーの若手論客。
この所論は賛成である。
世論調査の草創期からみてきた私も対面調査から電話調査が主流となった調査方法に幾度か疑問を呈してきた。相手の顔が見えない応答に信頼度が低くなることもあるが、若者に圧倒的に普及している携帯電話の応答処理がスッポリ抜け落ちている。
萩原氏は電話世論調査(RDD調査)という手法はどうしても高齢者やテレビ・新聞接触率が高い層の構成比が高くなると指摘している。論点は違うが、若年層の傾向が反映されない点では同じである。今の若者は新聞もテレビも見ないで、ネット情報に関心を持っている。
だが大手マスコミが実施している世論調査に代わる手法があるだろうか。世論調査には膨大なカネがかかる。通信社育ちの私は、大手マスコミが個別に世論調査をやるのではなくて、米国のギャラップ社のような権威ある調査機関を設立し、各社が出資して調査を行うことを唱えたことがある。
しかし過当競争に奔走している各社からは賛意が得られなかった。
大手マスコミが実施している世論調査は、すでに半世紀に近い積み重ねがある。ナマのデータを傾向値によって修正し、調査結果と実際の結果を近づける手法の練度も、ある程度は確立されている。直近でいえば麻生内閣の凋落と鳩山民主党の躍進を正確に当てている。
とはいえ、高齢者やテレビ・新聞接触率が高い層の構成比が高く、若年層の傾向が反映されない構造上に欠点は残ったままである。その克服方法がまだ確立されていない。
朝日新聞が二度目の世論調査をまだ行わないことを詮索するつもりはない。新しい調査方法を模索していると素直に受け止めている。
<鳩山内閣発足を受けた新聞社・テレビ局の世論調査では、内閣支持率が軒並み70%を超えた。小泉内閣に次ぐ「歴代2位」という見出しがあふれ、その報道をみて多くの国民や政治家も圧倒的な期待と支持があるように感じたことだろう。
一方、前回(2009年8月号)のコラムでもとりあげたニコニコ動画上で実施されたアンケートでは、支持25%、不支持36%と、全く異なる結果になっている。
新内閣が発足した翌日夜11時にすべての動画をストップして回答協力を要請するという方法で、約3分間に約6万人が回答した。マスメディアで結果が報道されることはなかったが、ブログやツイッターなどで一気に広がった。特徴的だったのは支持・不支持について「どちらともいえない」が約4割を占めたことだ。新聞・テレビの熱狂的な報道の中で冷静な対応をみせるネットユーザーの姿が浮かぶ。9割が支持・不支持の態度を明確にしている大手メディアの世論調査の方がむしろ不自然に思えてくる。
この調査で注目されたのは、「政治に関する情報をどの媒体から多く入手しているか」という設問への回答別支持状況に無視できない違いがあるという分析だ。結果は次の通り。
・「新聞報道」から入手 →支持37%〉不支持25%
・「TV報道」から入手 →支持38%〉不支持14%
・「インターネット」から入手 →支持14%〈不支持56%
深夜にニコニコ動画を見ているようなネットユーザーでも、政治に関する情報源として新聞・テレビの報道を主にする人と、ネットを主にする人になぜこれほどの大きな違いが出るのかを考えることは価値があろう。
例えば内閣発足の翌日、ブログ論壇では、鳩山首相が以前から、政権をとったら首相記者会見をフリージャーナリストやネットメディアにも開放すると言っていた約束が実現されなかったことに対して、「最初の公約破り」であるとの批判があふれた。私も当日、ツイッターで「民主党」のリアルタイム検索を行ったが、膨大なエントリーがこの問題に言及していた。個別の閣僚に関しても、期待も失望も、絶賛も酷評も、ごった煮のように流通していた。
ネットの政治情報も新聞記事が元になっているケースは多い。同時に、ネットでは新聞などの報道内容に対する他人の反応も判断材料になる。それはアルファブロガーとよばれるネット論壇の著名人たちの投稿だったり、ミクシィやツイッターに流れる友人の日記だったりする。ネットのコミュニケーション空間では、新聞やテレビの情報をそのまま信じるのではなく、批判的にみるというフレームが自然に形成されており、それが態度保留という反応をもたらしているのではないだろうか。
多くの新聞愛読者は購読している1紙しか読まないだろうし、そこに書いてあることが本当と思っている人は多い。新聞は信頼性の高いメディアであるとよくいわれるが、それが批評的に読む力を削いでいるとしたら皮肉である。
テレビ報道もまた時代の主流に沿った情緒的なムードを増幅する機能がある。読売新聞の継続的な研究では、テレビ視聴時間が長い人ほど、郵政民営化を争点に自民党が大勝した前回の総選挙では自民を支持し、政権交代が争点の今回の総選挙では民主を支持する傾向がみられたそうだ。
◆若年層と高齢層との情報ギャップの顕在化
情報源の変化についてはさまざまな調査で検証されている。カタカナ言葉の浸透や慣用句の意味の取り違いなどを毎年調査している文化庁「国語に関する世論調査」では、メディアの影響も継続的に測定している。9月に発表された最新の調査レポートでは、「毎日の生活に必要な情報を何から得ているか」という設問について、01年と08年のデータが比較されていた。掲載した図は、01年と08年の比較を年齢別にみたもので、ネットが上昇するのは当然としても、新聞の減少ボリュームがネットの増加分のボリュームと同じくらい大きい。若年層ではその変動がより大きいため、結果的に01年時点よりも情報源に関する世代間ギャップが拡大している。
新聞記者出身のジャーナリスト佐々木俊尚氏は近著『2011年 新聞・テレビ消滅』(文春新書)のなかで、新聞の抱える問題を「どんどん読者が高齢化し、紙面もそれにあわせて高齢者向けになり、それがさらに若い読者の離反を招くという縮小再生産のスパイラル」と指摘した。文化庁の調査結果をみても、新聞読者は急速に高齢化しているのが現実だろう。若年層は新聞に何が書かれているかわからず、高齢層はネットで何が議論になっているかがわからないというケースが、今後さらに顕在化するだろう。
電話世論調査(RDD調査)という手法はどうしても高齢者やテレビ・新聞接触率が高い層の構成比が高くなる。鳩山内閣の高支持率は、情報を批評的に読めるネット上のリテラシーの高いグループを把握できていないためではないだろうか。ネットアンケートに表れたような、民主党政権に対して厳しくチェックする人たちの動向も継続的に把握していくべきだろう。(「ジャーナリズム」09年11月号掲載)>
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4361 内閣支持率で沈黙する朝日新聞 古沢襄

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