21世紀の残りの90年間、日本人の運命は台頭した中国の脅威をどうかわすかによって決まる。大事なことは、日本がその脅威を認識し、備えることである。
明らかに鳩山政権には、中国の脅威への認識が欠けている。そこから生まれてきたのが「東シナ海を友好の海にする」「東アジア共同体をつくる」などの発想だ。理想のなかで現実を見失っている鳩山由紀夫首相の対中外交は、米国のオバマ大統領の、これまた理想外交と重なって、負の相乗効果を生み出していきかねない。
たとえば、オバマ大統領が提唱した「核のない世界」への道である。大統領は、(1)戦略核兵器の配備数をこれまでの千単位から百単位に削減、(2)戦略核の予想使用範囲を狭め、(3)将来の核の信頼性確保のための実験や新たな開発を行わない、を打ち出した。
核の力による抑止効果を担保するという従来の戦略から、超大国の米国が率先垂範して大胆な軍縮を断行することで、地球上の核拡散を阻止する戦略への転換である。
ミリバンド英国外相が語ったように、オバマ戦略がうまくいけば、「地球社会の安全性は高まり、核のない世界が実現し、地球温暖化の前に、人類は(原子力発電という)安全かつ信頼性の高いエネルギー源を確保しやすくなる」。しかし、失敗すれば、「人類は核拡散と、テロリストが核兵器を手にするという背筋の寒くなる現実に向き合わなければならなくなる」。
事実、米国もロシアもヨーロッパ諸国も、イランの核開発を止めることはいまだ、できていない。また、オバマ大統領はロシアには核軍縮を呼びかけたが、中国の核については取り立てて発言していない。
米国大統領もまた、日本の首相同様、中国に対しては現実よりも理想を見がちだと言わざるをえない。核軍縮はしかし、現実の国際政治のなかでどのように進展するのかは、見通しが立っていないのであるから、今、中国の核兵器に言及しないからといって、ただちに影響が出るわけではない。大統領自身、核軍縮も核のない世界の実現も、遠い遠い目標だと認めている。それだけに、中国の核について言及しないことは、中国の経済協力を死活的に必要とする米国の、不必要な摩擦を避けるという意味での戦略でもあろう。
だが、次世代戦闘機F22ラプターの生産中止と対日輸出の拒否は、あと10年、15年のうちに深刻な影響を及ぼしかねないきわめて現実的な問題だ。
第五世代の戦闘機F22は、中国が開発中の彼らの第五世代の戦闘機に対処出来る唯一の現存する戦闘機である。米国は日本に、いつ開発が終わり実戦配備出来るのか未定のF35を薦めるが、その間に、中国は第五世代の戦闘機とともに、現在保有している第四世代の戦闘機の改良型を作りつつある。第四世代と第五世代の中間タイプである。
中間タイプが完成すれば、日本は完全に中国に制空権を握られ、日本の安全保障は危機に直面する。日本が自らの安全のために取りうる措置として、米国の核抑止力をより確かなものにするか、究極的に日本自身の顕著な軍事力の整備に踏み込むことが考えられる。この点は、国内議論を重ねなければならないが、懸念すべきは、なぜ、オバマ大統領がF22の生産中止、対日輸出拒否という結論を出したかである。
ゲーツ国防長官は今年7月、こう述べている。
「2020年までに米国空軍は約1,100機のF22およびF35を備え、最強の空軍であり続ける。対照的に中国は20年にはいまだ第五世代戦闘機の開発に至らず、米中の軍事力の差は現在よりも拡大すると予測される」
こうした見通しが大統領の軍縮およびF22生産中止を後押ししたと見られる。私には、日米両国が中国の脅威を過小評価している気がしてならない。(週刊ダイヤモンド)
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