オバマ大統領のアジア歴訪に米国マスコミは辛辣、冷淡。クルーグマン「人民元切り上げを勝ち取らなければ世界経済は深刻な危機に直面」。
▲「日米同盟の新時代」は本当に来るの?
オバマ大統領のアジア歴訪の本当の狙いを米国紙の漫画が一コマで揶揄している。アジアの楽団が一緒になって違う方向へ行進を始めたら、オバマが「旗」をもって駆け足で追いつき、先頭に立とうとしている図。
初めは日本に立ち寄り、抹茶アイスクリームの話をして日本人を褒めそやし、それにしても鳩山首相とは「口舌の徒」同士、成果はなにひとつ期待してもいなかったが、国際情勢も現実政治も理解できない日本のトップの反応ぶりが、あまりの軽挙妄動のため、日米関係に鋭角的な亀裂が入った。結果的に北京が喜んだことは事実だろう。
ワシントンは日本の非現実的政権をはじめは嗤い、そのうち愕然とし、茫然となり、いまや怒りにかわってきた。
米国をおこらせるほどの政治実力を日本が持っているのなら慶祝すべき事態だが、いやはや鳩山の命脈は尽きかけて、次はカンとかの名前が永田町筋では挙がっている。
鳩山首相は「対等な日米関係。新しい日米同盟」と発言したが、どうも深い熟慮あってのことではなく、口から出任せの結果と取れる。
もし万が一、日米が「対等」なら自前の防衛力の構築が第一ではないのか。つまり米軍との共同作戦が主ではなく、従となり、自衛隊は国軍と生まれ変わる用意があるのか?
そうした上で満を持して「対等」を米国に迫るのなら、頼もしき政治家と言えるが、空手形に虚勢、パフォーマンスだけの反米だから危険なのである。
そして威勢の良い啖呵カを切ったあとで、アフガニスタンへの50億ドル援助と引き替えにインド洋上の給油協力をカネで逃げた。日本は怯懦として今後も世界中の笑い物にされるだろう。
オバマ離日後も、日米は沖縄の基地のあり方で深刻に揉めているが、普天間基地移設などは同盟関係の戦略的文脈からすれば枝葉の問題でしかない。
日本がもし主権国家であるとすれば、外国の軍隊は一日も早く日本から出て行って貰うのが筋であり、安保条約が対等というのなら、そうした上で、日本が敵に襲われたときは、まずは自力で守り、その後、救援にきて貰う。或いは米国が襲われたら、日本が救援に軍隊を派遣する。これが「同盟」の名に値する安保条約の基本である。
現在の条約は主権国家同士のものではなく徹底的に米国の「庇護国」としての日本との約束事でしかないのだ。そういう現実を飲み込めないで対等を唱えるなど、万年野党だった所為か、民主党の多くが、現実の政治感覚に乏しく、というより正真正銘の愚鈍である。
▲オバマもまた現実離れの口舌の徒
「日米首脳会談」はお互いに心理的な亀裂を肥大化させてしまった。そもそも外務省の90%が親米、防衛省の現場も95%が親米(数字は小生の直感で根拠はないが、ま、こんなあたり)。
だから名前を挙げないが、外務省バックの「評論家」や防衛専門家が鳩山を批判するのは当然といえば、あまりにも当然、霞ヶ関と永田町の感覚が天地の開きがある。
オバマの米国が狙うアジア新時代とは?わざわざ東京を選んで行った「アジア向け演説」の中味はと言えば、「中国とは敵対せず、日本との同盟が基軸」というの主軸だった。
オバマは中国に国際ルールを理解させ、プレーヤーとして強い役割を期待する。オバマは言った。米国は「中国を封じ込めない」。日米同盟は「アジア太平洋の礎石」とも言ったが、同時に「外交はゼロサムゲームではない」と現実離れしたことも言っている。
米国でオバマへの風当たりがつよいのは「彼の演説好き」。中味の空疎。ところが日本の読者界、とくにヤングのあいだでも彼の演説集、とくに和英対訳の本が売り切れというから、なにをか況や。
第一にJFKばりの名演説を世界各地ですることがオバマの趣味らしい。
第二にチェコでの「核廃絶」演説でノーベル賞となるが、米国外交は、これで縛られる恐れが強い。
第三にケニヤ、エジプト、チェコと続けてきた名演説の結果、まさに皮肉にも各地に紛争が激化し、安全保障的には「真空」を招いた。イスラエル問題は泥沼にグルジアもウクライナは米国との連携が断絶に近い。とくにポーランドなどMD計画を白紙に戻されて東欧の国々では米国への失望が急拡大している。
▲日米が対等なら、日本は自前の戦力を保持しなければならないだろう
日米安保条約は改訂から五十周年を迎えるが、鳩山政権は「東アジア共同体」という幻想にまだしがみついていて米中ばかりかシンガポールからも冷笑された。
これから日米が話し合うのは普天間基地のことではなく、「日米安保条約」を如何に改訂すべきかである。もし「対等」な立場を言うのならば、核兵器、戦略爆撃機、長距離ミサイル保有など日本の戦略的防衛体制の構築から始まるのに、鳩山提案の中味が空っぽ、具体的な防衛力整備のグランドデザインがない。だから米国は苛立ち、日本は改訂を標榜せず、対等だけを獅子吼する矛盾を犯している。
とどのつまり、日本は過去半世紀に亘ってアメリカに守られた。日米安保条約のお陰で防衛努力を適当に誤魔化してきた。
この「平和の代償」は日本人から自立独立の精神を奪った。経済繁栄は日本人を幸福にしたか? GDP神話が崩れたあと、日本の未来を薔薇色に描くエコノミストも未来学者もいなくなった。マスコミと日教組と自民党政治が民主主義を根底から誤解した。
日本人は魂を奪われ、歴史と伝統とモラルを失った。あまりにも高い代償を支払ってきた結果、安全保障のイロハも知らない首相、外相が日本丸を操舵しようとし、世界の現実に正面から激突し、立ち往生しているというのが、いまのポンチ絵だろう。
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