アメリカでの日本の存在が縮小していることは広く指摘されています。しかしその日本のプレゼンスの縮小がアメリカの教育や学術の場にも及ぶことを露骨な形で知らされました。
アメリカの大学や大学院での日本についての研究や講座は近年、減少が著しいのですが、その原因の一つは中国パワーだというのです。
その中国パワーとは実際には「孔子学院」という中国機関なのです。この「孔子学院」は日本でも活動の輪を広げています。そのことを書いた記事を紹介します。本日の産経新聞朝刊の一面に載った記事です。
■中国パワーにかすむ日本研究
秋田の国際教養大学が主催した国際会議に招かれた。11月20日からの3日間、「アメリカの日本政治研究、日本のアメリカ政治研究」という主題の会議だった。
5年前に開学した国際教養大学は中嶋嶺雄学長の下で全講義が英語という異色の教育方針が評価され、全国から入学希望者が急速に増えている。秋田市内とはいえ山奥のような杉林に囲まれたキャンパスの図書館や校舎はハリー・ポッターの映画の魔法学校に似ていると評されると聞いていたが、なるほどと感じる景観だった。
さて会議では日本での米国政治研究とともに、米国での日本政治の研究から日本研究全体までの状況が日米両国の学者、研究者により発表され、一般参加者も加わって熱っぽく議論された。そのなかではユタ大学のロナルド・レベナー教授が米国内での日本研究の衰退を報告したのが印象的だった。
1970年代から日本の政治を専門に研究してきたレベナー教授が伝える米国の大学や大学院での日本研究の現況は危機という言葉を連想させた。
レベナー教授によれば、米国での日本研究の最盛期は95年で、全米合計3600ほどの大学、大学院で247校に日本研究講座が存在した。だが2005年に184校、今年は約100校へと減った。日本政治に関する本格的な講座を大学と大学院の両方で設けているのはいま20校に満たない。
日本研究縮小の理由は日本経済の米国へのインパクトの減少、日本側の米国エリート校集中支援の誤算、在米の日本人の学生や学者の減少など多々あるが、全米各地の大学でアジア研究では中国研究が日本研究を圧してきたことも大きいという。
レベナー教授は米国の教育界や学界に最近、強力な影響を及ぼす中国パワーについて強調した。
「中国は積極果敢な対米活動の一環として『孔子学院』という組織をつくり、全米各地の大学に数百万ドルの巨額の資金を投入しています。主眼は中国語普及だと主張していますが、中国研究の多様な分野にも資金援助をしています」
この「孔子学院」は、いまや中国がグローバルな規模で各国の教育や学術の場にものすごい影響力を広げている対外組織である。中国政府の主導で04年に創設され、北京に本部を置き、各国での中国の言語や文化の普及を活動の目標としてうたう。外国の大学などの内部に「孔子学院」としての講座やオフィスを設けていくのが特徴で、今年春現在では全世界82カ国に328カ所の事務所または講座を開いたという。
レベナー教授は米国では「孔子学院」が合計40大学に進出したことを明らかにし、日本研究への影響をも語った。
「私が教えるユタ大学でも日本の環境問題についての講座の継続が大学自体の資金不足で危ぶまれて、日本政府系の国際交流基金に1万ドルほどの援助を頼んでも、得られない。ところが孔子学院は中国関連の講座であれば、10万ドルでも簡単に出すから、いつでも要請してくださいというのです。この差の結果は明らかです」
もっとも「孔子学院」は中国の共産党政権の対外プロパガンダ機関だから警戒するという国や機関も多い。オーストラリア、インド、スウェーデン、カナダなどではその種の懸念や反発が表面化した。だが米国ではこの組織が日本についての学習や研究を減らし、中国研究を増す重要なパワーとなった現実は揺るぎないようだ。
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4511 中国がアメリカでの日本の研究や学習を圧する 古森義久

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