4550 中国指導部にとってやっかいなマオイスト 宮崎正弘

富の偏在を痛烈に批判する毛沢東主義に国民が喝采する面妖さ。現実にネパールでは、マオイストが政権を掌握し、国王レジュームを倒壊させた。北京はネパールのマオイストに武器支援をしたことはない、と言い張ってきた。
バングラデシュ(旧東パキスタン)では、首都のダッカ大学を中心に過激なマオイストが猖獗を究め、しかも中国の経済進出に反対している。バングラは日本よりも人口が多く、国土の三分の一が湿地帯。かつてはもっとも親日的な国だった。
インドの東部はベンガル地方、コルコタ(カルカッタ)から西にかけた地方でも、マオイストが猖獗し、武力闘争の最中、インド軍はゲリラ戦争討伐に動くが、相手は神出鬼没。しかもベンガルとバングラは隣同士、もし「ベンガルスタン」としての独立へ傾斜すると、国際政治はややこしくなるだろう。
そして毛沢東の本場=中国で「マオイスト」が政治勢力として再胎動、知識人と庶民の注目を集めるうえ、共産党としても、正面から彼らを論詰出来ず、思想状況的に、いまの中国は面妖を深めつつある。
先日、来日した中国人コラムニストの林保華氏と黄文雄氏を交えて懇談する機会があったが、林氏によれば「いまの中国の改革派も保守派もいない。いるのは『利権集団』だけで、したがって利権と無縁のひとたちに毛沢東思想への復帰が顕著」と分析され印象深いものがあった。同様なことを石平氏も指摘している。
 
▲精神汚染、腐敗不正を弾劾するマオイストは倫理的だ
第一は富の偏在への不満である。権力がマフィアと組んで国有企業を私物化し、不動産を恣意的に売買し、許認可権を独占し、つまりは利権を握りしめて栄耀栄華を極め、庶民が路頭に迷って餓死しようがしまいが関係がない。
中国のマオイストは、この矛盾を突いた。利権に走り資本主義市場経済を呪い、毛沢東のいった社会の公正、冨の分配の公平を訴えれば、権力側としては、このマオイストこそ獅子身中の虫。
 
第二は共産党支配の矛盾を突く論理性である。権力者らは国益より党益、そのまえに自己の利益。孫文が「天下為公」と嘯いたが、かれらの標語は「天下為私」しかない。この矛盾を原理原則から批判すれば、マオイストの側に論理の正当性がある。
げんに中国共産党高層部からみれば、腐敗分子、マフィアら1500名を一挙に逮捕した重慶書記の薄き来は、国民の人気沸騰。薄本人は太子党で権力亡者だが、いまの中国では「毛派」の筆頭に祭り上げる向きもある。
じっさいに薄き来は、習近平なぞ問題にしないほど高いポピュラリティが庶民レベルにはあり、高層にいる人々が眉をひそめる。人気の理由は共産党の腐敗を間接的に批判し、大岡越前的英断をしめしたからだ。
第三にものいわぬ被支配者らがネットを武器に世論を形成していることに大きな要因がある。小誌でも七月に二回ほど報じたが『現代中国版「通化事件」』という衝撃的な事件がおきた。通化鋼鉄集団で共産党から派遣された大幹部の経営者を従業員らが殴り殺した事件である。
これも経営者が従業員全員の退職金よりも多い月給を取りながら、合併方針に反対する従業員には雀の涙ていどの退職金さえ支払わないと発言し、激昂を買って、その場で殴り殺された。
これまでの中国では普通なら組合員、集会参加者全員を逮捕し、指導者数名をたちまちにして処刑するだろうが、共産党中央は、いまも誰一人逮捕できず、うやむやの裡に、この事件を闇に葬ろうとしている。
湖南省でスナック従業員女性を暴行した共産党幹部が、反対に女性からナイフで刺され、一人が死んだ事件でも、彼女は『殺人犯』ながら「無罪」となった。
インターネットで彼女は「ジャンヌダルク」と賞賛された。ネットに書き込む人々は『公平』と「正義」を論理の根拠としており、まさに彼らも『ネット・マオイスト』ではないか!
ことほど左様にマオイストら精神汚染、腐敗不正にひた走る『勝ち組』からオチこぼれた知識人、労働者、学生らが毛沢東思想に帰れと「正当」な主張をする限り、権力者は弾圧も出来ないと矛盾に陥った。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト

コメント

タイトルとURLをコピーしました