これから何が始まるのか? 欧米軍事力の相対的低下をほくそ笑む中・露。
12月1日、オバマ大統領はウエストポイント(陸軍士官学校)に出向いて演説し、アフガニスタンへの三万名の兵力増派を決めた。
六月に前現地司令官を更迭し、新しく任命したマクリスタル現地司令官が作成した報告に基づいた四万人派遣プランは、じつに三ヶ月もかけて、九回の幹部会議を開催した末の決定(四万を三万に減員し、不足分をNATOに要請)だった。
この間、オバマ大統領には「優柔不断」のレッテルが貼られ、しかも途中にノーベル平和賞の珍事がふってわいたため、「もはや増派はないだろう」とする楽観的な推測もあった。
米議会の多数は増派に反対、とくにバイデン副大統領が反対して閣内不一致となったことにくわえ、前現地司令官で、現駐アフガニスタン米大使エイカンベリーが猛烈に反対してきた。
そういう経緯をふまえての増派ゆえに、しかもまったく皮肉なことに増派には共和党が賛成するという、じつに奇妙なアメリカ政治の局面においてのオバマの出遅れた決断だったから、当然ながら苦渋に満ちたものである。
むろん増派には、幾つかの条件がついた。
最大の付帯条件はアフガニスタンのカルザイ政権に対しての汚職追放要求である。バイデン副大統領もエイカンベリー米大使も、カルザイを個人的に嫌っている。
その根深い汚職構造に。
オバマ演説は二つの特徴を持つ。
第一は四万増派を三万人に削ったうえ、重点をアフガニスタンの治安部隊の育成と訓練に置いていること。
第二は2011年からの撤退も同時に謳い、兵力の派遣計画にしては異様な内容であること。
▲中央軍司令官は特大の疑問符を打った
はやくも疑念が唱えられた。
米中央軍司令官ディビッド・ペトラウスは議会証言にたって、オバマの増派計画と治安部隊の育成に関して財政的見地から極めつきの疑問符を投げかけたのである。
ペトラウス中央軍司令官とはイラク、アフガニスタン、パキスタンへの米兵派遣を統括するトップ。嘗ての湾岸戦争の英雄シュワルツコフの地位。つまりクリスタル現地司令官より上のポストの軍人である。
「欧米軍は合計15万人規模となり、アフガン現地の治安部隊と警察を併せると合計40万人になる。このコストだけでも(戦費を除く)年間100億ドルでまかなえるとは考えられない(げんにアフガニスタン南部ヘルマンド地区では、補充するアフガニスタン治安部隊の募集にあたり、給料を180ドルから240ドルにあげたが、タリバンの補充兵士には250ドルから300ドル)。
カブールを突如訪問したゲーツ国防長官と12月9日に記者会見したカルザイ大統領は「アフガニスタンが自己負担で治安部隊の給与を支払えるようになるのは2024年になるでしょう」としゃあしゃあと言ってのけた。
この唐突な発言は横に立っていたゲーツ長官を驚かせた(ヘラルドトリビューン、09年12月11日付け)。たとえ増派は決まったとはいえ、アフガニスタンが第二のベトナムとなることは明白である。
ベトナムの敗北と共産主義政権の樹立も、カンボジアの大虐殺も、米議会が厭戦気分によって予算を認めず、敗退せざるを得なかったのが米国の歴史であり、今度のアフガニスタンとパキスタンという両戦域での戦争の継続は、リベラルとハト派が多い米議会の出方による。
鳩山宇宙人と同程度か、それ以下のレベルの政治家が多い米議会で、戦争の理想が通じるのは、おそらくあと一年であろう。
いずれ米国は自ら国力を弱め、アジア太平洋における中国の覇権確立は、もった迅速になるだろう。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
4569 アフガンへ米国三万,NATO5-7000増派 宮崎正弘

コメント