英国のイーストアングリア大学は、地球環境研究の最前線を行く大学の一つである。権威あるこの大学の気候変動研究所のコンピュータがハッキングされ、eメールの記録が流出、十数年間にわたるメールの往来が一挙に世界中に暴露された。そこに登場するのは、気候変動の分野で刮目されている学者・研究者らである。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の有力メンバーである彼らは、人間が排出するCO2(二酸化炭素)によって地球の温暖化が進んでいるというIPCC報告を科学的に理論づけた人びとだ。
ところが、そうした表向きの発表とは裏腹に、私的なメールのやりとりでは、「事実は、われわれは現在、温暖化現象の欠落について(lack of warming)説明出来ないということだ。まるでパロディだよ」(ケビン・トレンバース氏、国立大気圏研究所)などと会話していた。温暖化を警告した彼らが、地球は温暖化していないと、私的会話で認め合っているのだ。
このニュースは、「ニューヨークタイムズ(NYT)」紙、「ワシントンポスト(WP)」紙なども報じ、現在ネットに情報が飛び交っている。
膨大な量の流出メールには次のようなくだりもあった。イーストアングリア大学で長年、地球気候を研究してきたフィル・ジョーンズ氏が、過去200年間の気候変動を示す図を作成するに当たって送ったメールである。
「作業を完了したばかりだ。(地球気温の)降下を隠すために、1961年以降の記録についてはケイスのトリックを、81年以降の記録についてはマイクのトリックを使って、それぞれ本当の(real)気温に上乗せした」
メールの送り先は、ペンシルベニア州立大学のマイク・マン教授らである。マン教授は、NYT紙の取材を受けて、メールが本物だと認めた。そのうえで、ジョーンズ氏の語彙の選択はまずかったが、科学者はトリックという言葉を問題解決の妙案を示す言葉として用いることがよくあると弁明した。
流出メールからは、IPCCのそうそうたる研究者らが、温暖化に疑問を抱く研究者らに「悪意に満ちた感情」(WP紙)を抱き、彼らの研究論文を専門学術誌に掲載させないように圧力を加え、学界やメディアから排除すべく画策したことも明らかになった。温暖化問題は、科学の本質から遠く離れてしまっていると疑問を提起する科学者の声はこうして封じ込められてきた。
省エネやCO2削減自体には諸手を挙げて賛成しても、CO2削減をめぐる欧州、とりわけ英国、そして米国や中国などの動きに十分に警戒しなければならないゆえんである。諸国の思惑は、いかにして自国に有利なCO2削減の枠組みをつくり、省エネ先進国日本から技術も資金も吸い上げようかという点にあることを忘れてはならない。
こんな折、鳩山内閣はCO2削減が経済に与える影響の試算について、専門家会合(タスクフォース)のメンバーを「鳩山政権のやりたいことを本当に応援してくれる」人びとに置き換える方針だと、11月25日付の「朝日新聞」が一面トップで伝えた。
麻生太郎前政権下の試算では、(鳩山氏の)25%案の家計負担は1年間22万~77万円の範囲となった。鳩山内閣はこの数字を不満とし、タスクフォースをつくり、民主党独自の試算をさせた。11月19日の中間報告で、結果は13万~76.5万円の家計負担とされたと、「朝日」は報じている。ほとんど変わらない負担額だったわけだ。そこで民主党は、メンバーを選び直して、再試算をする方針だというのだ。これではあまりにも恣意的ではないか。なにがなんでも自分たちの掲げた25%案を正当化するということか。流出メールとともに、現在の温暖化対策に疑問を抱かざるを得ないのである。(週刊ダイヤモンド)
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4625 CO2地球温暖化説を推進するIPCCや鳩山政権の活動への疑問 桜井よしこ

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