さて、鳩山由紀夫首相の偽装献金問題をめぐり、首相の87歳の母はすでに、東京地検特捜部に「利息もないし、返済もないので、贈与と言われてもしょうがない」などと記した上申書を提出しています。この問題では、首相の実姉も参考人聴取を受けており、元公設第一秘書と元政策秘書は政治資金規正法違反の罪で立件される見込みです。こんな首相は憲政史上、前代未聞だと思うのですが、鳩山政権の危機感は薄そうですね。鳩山首相自身も「国民はきっと理解してくれる」と信じているのでしょう。
それはさておき、今回はこの「公人の中の公人」であるはずの鳩山首相の「政治とカネ」の問題をめぐる政府答弁書を紹介します。木で鼻をくくったような、という表現がありますが、その典型を見るようで興味深いからです。まあ、具体的に回答すると墓穴を掘ることになるので、こういう風にしか答えられないのかもしれませんが。まずは、自民党の鴨下一郎氏の質問主意書に対する答えからです。
鴨下氏 鳩山総理は母親から月額1500万円、6年間で総額9億円を受け取りながら、秘書が行ったことであり、自分は全く知らなかったと無責任な発言をしている。そもそも親子間の金銭のやりとりについては贈与とみなされる場合が多いため貸し付けについては厳しい要件が求められているが、このことについては一切触れていない。そこで以下の質問をする。
①通常これは脱税にあたると思うが見解如何
②脱税とみなされない場合は、今後、鳩山総理と同じケースが生じた場合も同様に脱税にあたらないと判断するのか
③親子間の金銭の貸し付けにあたっては。金銭貸借契約書、返済計画書及び銀行通帳などの添付書類が必要と思われるが、これらを含め何が必要か
④右の要件を満たさない金銭の貸し付けは通常贈与とみなされるが本当か
⑤修正申告で、贈与税を支払うことになった場合の時効はあるのか、延滞税は発生するのか、贈与の金額と贈与税額の表、及び延滞税を含めた納税額について、明らかにされたい
答弁書 お尋ねの課税上の問題については、個別・具体的な事柄であるので答弁を差し控えたい。
…見事にはぐらかしています。というか、最初から答えるつもりはないという強い拒否を感じますね。続いて、やはり自民党の森まさこ氏の一連の質問主意書に対する答弁書の回答をいっきに掲載します。開き直った感があり、また、他人事のようでもあります。
森氏 鳩山総理はブルネイ国王と会談した際に、ブルネイには所得税が無いことから日本国民はブルネイへの移住を望むであろうという趣旨の発言をしている。この発言は、日本国の行政府の長として誠に見識を欠くものと思われるが、鳩山総理は納税の義務とはどのようなものであると考えているのか。(後略)
答弁書 納税義務については、日本国憲法第30条に「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と規定されていると認識している。
森氏 鳩山総理の資金管理団体「友愛政経懇話会」の収支報告書において、寄付及びパーティー収入の記載が真実と異なっていたという問題につき、鳩山総理が、偽装献金に対する寄附金控除証明書を取得したことが判明している。しかしこれは真実の寄附ではないから、寄附金控除がされたとすれば脱税と考えるが、見解を示されたい。(後略)
答弁書 お尋ねについては、鳩山由紀夫衆議院議員の政治家個人としての活動に関するものであり、政府としてお答えする立場にない。
森氏 鳩山総理の資金管理団体「友愛政経懇話会」の収支報告書において、寄附及びパーティー収入の記載が真実と異なっていたという問題及び総理が実の母親から過去5年間に約9億円もの資金提供を受け、政治資金にあてていたとされている問題で、鳩山総理は「すべて司法に任せている」と繰り返すのみで、自身の口からの説明を一切拒否しているが、日本国憲法第75条によれば、国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、追訴されない。鳩山総理は、司法の場では原則として逮捕も起訴もされないのである。国務大臣は、疑惑について国民に納得のいく説明をする政治的義務を負っているからこそ、このような特権が許容されると考えるが、見解を示されたい。
答弁書 お尋ねの「政治的義務を負っているからこそ、このような特権が許容される」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、鳩山由紀夫衆議院議員の政治家個人としての活動について、政府としてお答えする立場にない。
森氏 鳩山総理は、(中略)すべて秘書の独断によるものとし、自らは関知していなかったことを主張しているが、鳩山総理はかつて野党時代、該当演説や国会質問のなかで「秘書が法を犯した場合にはすぐに国民に謝罪して国会議員のバッジを外す」と発言していた。この姿勢は今も変わりがないと明言できるか、見解を示されたい。
答弁書 お尋ねについては、鳩山由紀夫衆議院議員の政治家個人としての発言に関するものであり、政府としてお答えする立場にない。
森氏 ユートピア政治研究会を作り、また、新党さきがけを作った際、鳩山総理は、「お金のかからない政治」、「クリーンな政治」を目指すと言っていたが、実際は死者の名を騙るなどして5年間に3億円以上の政治資金を偽装し、かつ使っていた。普通の人には手に入れることのできない金額であり、鳩山総理自身が率先して「お金のかかる政治」、国民に説明のできない「汚れた政治」を行っていたと考えられるが、この点について、鳩山総理が標榜していたはずの「お金のかからない政治」、「クリーンな政治」との整合性について見解を示されたい。
鳩山氏 お尋ねについては、鳩山由紀夫衆議院議員の政治家個人としての発言等に関するものであり、お答えする立場にない。
森氏 鳩山総理は自身の資金管理団体「友愛政経懇話会」の収支報告書において、寄附及びパーティー収入の記載が真実と異なっていたという問題に関する答弁の中で、「弁護士とともに、収支報告書を見たところ、支出に不正が無かったので、収入についての不正が見つけられなかった」、「弁護士からの報告書にあるとおりである」旨発言し、疑惑が発覚するまでは自身を中心とする金の流れを十分に把握していなかったかのような態度をとっている。(中略)鳩山総理は自身の政治資金収支報告書を政治生活の中で一度も見たことがなかったのか。だれが寄附してくれているのか秘書に一度も聞いていないのか。「クリーンな政治」、「お金のかからない政治」は、自身の政治資金報告書を一度も見ないで達成できるのか否か、国民に納得のいくような見解を示されたい。
答弁書 お尋ねについては、鳩山由紀夫衆議院議員の政治家個人としての活動等に関するものであり、政府としてお答えする立場にない。
森氏 鳩山総理は、自身の資金管理団体「友愛政経懇話会」の収支報告書において、寄附及びパーティー収入の記載が事実と異なっていたという問題について現在なお真相の解明ができていないと述べているが、法律上匿名献金に関する部分の会計帳簿を備え付ける義務がある。会計帳簿を見れば匿名献金の偽装はすぐに解明できたはずである。鳩山総理はこの帳簿を見たのか。また、鳩山総理の弁護士はこの帳簿を確認したのか、見解を示されたい。(後略)
答弁書 お尋ねについては、鳩山由紀夫衆議院議員の政治家個人としての活動に関するものであり、政府としてお答えする立場にない。
…政府答弁書は閣議決定されたものですが、こんな内容をいちいち花押を書いて承認している各大臣にもご苦労さまですと言いたいですね。ないものねだりなのは分かっていますが、「透明な政治」を掲げるのであれば、もう少し誠意ある答弁書をつくってもよさそうなものです。二階俊博氏の役職辞任ですらもたつき、これを攻めきれない野党・自民党もだらしない限りですが。
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4638 鳩山首相偽装献金問題・木で鼻をくくったような政府答弁書 阿比留瑠比

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