日本の多くのエコノミストが節穴である理由が分かった。中国の公式統計を信じ込んでいるのはもとより中国の暗部を知らなすぎる。
必要があって、たて続けに「論客」といわれる人たちの中国経済論を読んだ。官庁エコノミスト、シンクタンク、証券系銀行系を問わず、それらのチーフ・エコノミストのもの、外国銀行のエコノミストが予測した中国経済近未来予測など。
中国人の宣伝を鵜呑みにする大学教授らの所論にはあきれかえるばかりだが、さすがリスクをとる貸し金業、リスクにかける証券などの分析には鋭いものが一部ある。余談をさきに書くとアカデミズムに浸る中国学者の経済論は読むも無惨、現実離れしていて、おそらく中国人学者からも相手にされないのではないか。
何かが決定的に欠けている。それは何か?
第一にGDP成長神話への疑問。
中国は過去三十年にわたって「高度成長」を遂げてきた。だからこの巡航速度を保てば次はこうなるというのは単純統計学予測だが、中国共産党自身が「保8」(8%成長死守)に自信を失いかけ、虚像が剥げ落ちるのを、かろうじて宣伝活動で防いでいる。
GDP統計は国家統計局が「智恵を絞って出す想像数字」であり、そもそも個人消費、民間設備投資、政府支出、貿易黒字の数字のうち、前者二つは統計のとりようがない。
闇のマーケット、民間企業はヤミ金融に頼り、国有銀行が全体の八割をしめる貸し出しの対象とは国有企業だけでしかない。このいびつな構造のなかで、GDP統計が絶妙に操作されており、実態とは乖離している。
▲財政出動は銀行の潜在的不良債権を増やしただけ
第二に財政発動の四兆元(57兆円)が効果をあげて、落ち込んだ世界経済の回復を牽引したのは中国だとする過剰宣伝を信じている一群の人たちがいる。
すでに一部エコノミストが指摘しているが、現実に政府が支出したのは四兆元のうちの四割(一兆六千元強)で、しかも殆どが土木プロジェクトに消えた。
のこりは地方政府の負担で、これは地方銀行が強制的貸し出しに踏み切らざるを得ず、つまりは銀行の潜在的不良債権がふえた。
表向き、土木プロジェクトが大量に発注されたから町中はクレーンが乱立し、コンクリート・ミキサー車が張りし回り、発電コンプレッサーがうなりを上げ、ブルドーザがあちこちを掘り起こせば、とてつもない繁栄と誤認するのだ。
筆者はそれゆえに現場をまわり、路地裏の町工場をまわり、シャッター商店街、おびただしい工場閉鎖を目撃し、あまりの現実との乖離を確認した上で、繁栄の永続化はありえないと断言している。
第三は世界一の外貨準備高、世界一の鉄鋼生産、世界一の自動車売り上げ、世界一の携帯電話普及などをあげて、輝ける実績を、まるで中国人のように誇示する分析方法にも問題がある。
外貨準備高は中国当局の異様なドル買いの結果であり、人為的操作が主因だ。輸出純増分の二倍以上の外貨の積み上げは、なにかトリッキーな数字だと思わないか。
鉄鋼生産は産業再編の調整が付かず過剰投資の結果であり、実需の三割ほど多い鉄鋼をつくり、とどのつまりはダンピング輸出(赤字輸出)に補助金をつけているのが実態である。石油バイプロダクツ(塩化ビニール、ポリエステルなど)も同様だろう。
自動車、家電の販売急増は「奨励金」という名のクーポンを発行し(「汽車下郷」「家電下郷」と標語した)、地方政府が景気テコ入れに「買えよ 買えよ」と叫んだからで、ローンが積み上がり、やがては支払いに支障がでるのは明らか。
つまり上からの押し売りに等しく、筆者が目撃したのは湖南省の田舎町、中央のバザールで家電を買うと13%のキャッシュバック。だが、テレビも冷蔵庫も「売れ残り」か、二級品(中国の国産品)。在庫整理の趣き、なきにしもあらず。統計的には、たしかに個人消費の爆発的拡大となるだろう。(つづく)
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4696 チャイナ・エコノミーの闇(その1) 宮崎正弘

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