10~11世紀頃、北西インドのラージャスターン地方(タール砂漠がある)から放浪の旅に出たロマニ系の移動・放浪生活者の人達は、バルカン半島からヨーロッパやエジプト、北アフリカにたどり着き、15世紀に「低地エジプト出身の巡礼者」としてドイツに現れている。
この集団は現在スィンティ、ツィゴイナー(独)、ジプシー(英)、ジタン(仏)ヒターノ(スペイン)など36カ国に散在して住み定住する人も増えているが自国を持たない。
様々な呼び方がありサンスクリット語が起源のインド・イラン・ヨーロッパ語系のロマニ語を話し、ギリシャに長く居た様で中世ギリシャ語も混じり、通過した土地の宗教や言葉を取り入れ、肌と髪が黒く独特な服装をし、血液型はインド人のようにB型が多いと言われる。
最初は、「神聖ローマ皇帝ジギスムントから巡礼者として帝国全土の自由な通行許可書を与えられ持つ」として各地を放浪したが、帰る様子も無くユダヤ人と共に市民にはなれず、徐々に軽蔑視や迫害が始まってゆく。
15世紀からルーマニアではロマの奴隷制度があり、19世紀半ばに廃止された。
1500年、神聖ローマ帝国マキシミリアン1世は「皇帝ジギスムントの特許状」は無効とし、犯罪者の温床で放浪癖生活者達として社会から排除しようとした。
1761年ハプスブルグ家のマリア・テレージアは近代化啓蒙思想に従い、差別を無くそうと定住文化を薦め文化的な家を建て与えるが、しばらくは住んでいたものの、ある日忽然と全員旅立ちどこかへ消えてしまう。
1773年プロイセンのフリードリッヒ大王は、ゲットー的な定住文化を彼らの為に計画するも、これも失敗した。
17~18世紀スペインでは定住政策が一部で比較的上手く行き、フラメンコの踊りと音楽が地域文化と融合したケースも出てきた。
1933年ナチスが台頭し50万人位がホロコーストの犠牲になっている。
それまでは、鋏やナイフ研ぎ、金属加工、踊りや音楽、人形芝居、馬の販売、熊や家畜の芸とサーカス団、異国の珍しい品の販売、薬草販売、籠など手工芸品製作、くず鉄商、季節労働等を好み、また占い師をしながら、地域社会にそれなりに溶け込みながら定住しない移動放浪生活がなされていた。
バイエルン王国の王子ルードビッヒ2世、従姉妹のエリーザベス、ゾフィーの幼少時、ジプシーの占い師が遊んでいる3人の手相を庭で見て、何時か死因に水、鉄,火がそれぞれ関係すると予言し、湖での溺死、鉄で胸を刺されて亡くなる、火災で死亡と全部予言が当たったと、ドイツの老人から聞いた事がある。
現在800万人以上の人口と推定されるが、移動生活のため正確な調査は困難で、半数以上はEUの各国に住むにも拘らず、EUの文化に同化しなく、また文字を持たないが、厳しい生活の規律があるようだ。伝統的な仕事は少なくなり、生活は困難を極め、それでも定住文化を避ける人達が多い。
ミュンヘンでも、時にはみすぼらしい身なりの女性が赤ちゃんを抱いて、哀れみを誘う出で立ちでの物乞いのグループが現れたりする。
アイスクリームや汚物を旅行者の洋服につけて、取り除く手伝いをしながら、財布を取り去るのは各地で知られた最近の生業でもある。
ドイツのジャーナリストが、最近初めてルーマニアの数千人のスラム街を取材し、新聞に記事が出た。そこではただ1人ドイツ人の修道女が学校にも行かない、ゴミ捨て場で毎日その日の食糧を探さなくていけない子供達に援助の手を差し伸べていた。
「この子を200ユーロで買ってくださいませんか」という母親もいた。恐ろしい貧困、麻薬,アルコールと驚く記事と写真に心が痛んだ。
数日前には、オーストラリアのテレビ局が初めてスロバキアのスラム街を紹介し、カリタス(カトリックの福祉団体)がようやく援助の手を差し延べ始めた。
EUからも新しい法律で補助金が出はじめ、小さな家が少し建てられていた。
人間が住む家・所とはとても思えない羽目板の小屋や石の古い囲いの中で、上下水道・電気もなし、粗末な石のカマドで木を燃やし、雪が小屋の中に舞い込む中、何か煮込み料理が作られ、そこが全家族の唯一の暖房と部屋でもあった。
赤貧洗うが如しと言うが、とにかく見た目には凄まじいまでの貧しさである。
難しい顔をした骨と皮の酷く毛並みの悪い猫が1匹いた。きっと唯一の子供のおもちゃで、夜は一緒に暖めあって眠るのだろう。
「たかが衣、食,住、、、」昔日本の高僧の言葉が思い出され、方や衣食住足りすぎて礼節を知らず法を犯す人間のいる国が思い浮かび、年の瀬か、受けたショックからか、何故か心が落ち着かない。あの人達に笑顔が浮ぶ出来事を願う。
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4717 EUの少数民族 ロマ人 永冶ベックマン啓子

コメント
最近、ロマに関するニュースがよく出ていますが、私たちは、オーストリアでスィンティについて研究記録している著述家ルードウィク・ラーハさんをお迎えして歴史と現状についてお聞きする講演会をを企画しました。10月30日(土)午後2時より大阪・弁天町市民学習センター(資料代千円)で「ヨーロッパの少数民族差別を考える講演会」を開きます。関西の方はWebページを見てぜひおいでください。