4752 鳩山内閣成立の意義 加瀬英明

「反自民」に「反米」を加えた
民主党は「政権交代」の四字を叫ぶことによって、自民党政治に倦んでいた選挙民心理をとらえて、政権の座を獲得した。そのために、鳩山政権が発足すると、政策がすべて「反自民」に基づくものとなっている。
政権発足とともに日米関係を見直そうとしたのも、「反自民」の一環だった。
民主党はマニフェストのなかで、「過剰な対米依存」を正し、「対等な日米関係」を築くとうたったが、今日にいたるまで「過剰な対米依存」が何を意味するのか、これまで日米関係のどこが対等でなかったのか、まったく説明していない。
日米同盟関係が日本の礎(いしずえ)になってきたというのに、奇怪なことだ。
アメリカという後盾を失なったら、中国、韓国、北朝鮮、ロシアが、どのような無理難題を吹きかけてくるか、分からない。
日米関係が普天間基地の移設問題をめぐって、きしんでいる。鳩山首相が就任早々、中国の胡錦涛主席に対して「東アジア共同体」をつくりたいと打ちあげたが、アメリカを除外していたので、ワシントンからアメリカ離れをはかっているとして、反撥を招いた。
「反自民」に「反米」を加えたようにみえた。だが、「反自民」の衝動に駆られるあまり、外交まで捲き添えにしてはなるまい。幼稚といって、笑ってすまされることではない。
自民党政権が長年にわたって日米同盟関係を重んじてきたことによって、日本の安全が守られてきたという重い現実があるのを、忘れてはなるまい。
中国は日米同盟に亀裂が走っているのを見て、目を細めて微笑んでいよう。国を護る基は国防にある
安全保障環境が急速に劣化
鳩山政権は発足してから、内外の施策をすべて見直そうとしている。外交とともに、防衛も弄ばれている。なかでも新政権が中期防衛力整備計画の制定を、来年末まで一年延期したが、国防を軽んじるのは寒心に耐えない。このために、自衛隊の新しい整備の調達が一年遅れることになった。
日本の周辺では、中国の発表によっても、この二十一年にわたって二桁で国防支出を増して、異常な軍拡を進めている。航空母艦を建造することをはじめ、海軍力の増強に狂奔している。そのかたわら、北朝鮮が核戦力の開発に血道をあげている。
世界を見渡すと、主要国のなかで新規の防衛装備の調達を、一年間も一律に延ばす国は他に存在しない。日本はこれまで自民党政権のもとで、過去七年にわたって防衛予算を削り、自衛隊の人員を減らしてきた。
日本を取り巻く安全保障環境が、急速に劣化している。日本が自衛隊の新規装備の調達に、一年の空白をつくる余裕はない。
日本の防衛体制に大きな空洞が生じるのを、中国、韓国、北朝鮮が喜んでいよう。
それにもかかわらず、アメリカが日本を守ってくれるという、安易な依存感があるからなのだろう。歴代の自民党政権もひたすらアメリカをあてにして防衛に手を抜いてきたが、民主党政権では他力本願がいっそうひどくなっている。
理念の不在が価値判断をゆるがす
母親とアメリカに対する甘え
鳩山内閣は「過剰な対米依存を正す」ことをうたってきたが、整合性がまったくみられない。鳩山首相はきっと母親とアメリカに対する甘えが、強すぎるのだ。
鳩山首相は徳をまったく欠いている。母親から九億円を貰ったのを、憶えていないというが、年末の三億円のジャンボ宝籤に百円玉を投じて願いをかけている庶民を、愚弄している。戦後の学校教育が、徳育を怠った報いであろう。
不正資金を処理した資金団体に、「友愛」の二字が冠せられているのは、おぞましい。
自衛隊の新装備の調達に一年間の空白をつくることは、日本の防衛体制に取り返しがつかない深い傷を負わせることになる。とくに航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)の選定の年に当たっていたが、現用のF15の後継機の選定が一年遅れることになると、航空戦力を支えてきた航空機産業を維持することができなくなるから、日本の安全にとって由々しいことだ。
人民裁判もどきのショー
鳩山政権は政府の冗費を削るといって、行政刷新会議が「事業仕分け」の看板を掲げて、人民裁判もどきのショーを催した。防衛予算にも、大鉈が振われた。そのなかで、即応性の向上が必要な第一線部隊について充足をはかるために、三千五百人の自衛官の実員の増員要求が拒まれて、見送られた。
陸海空三自衛隊を合わせると、五千三百人の実員を充足することが、かなわなかった。装備の調達についても、同様に扱われた。ところが、「仕分け人」のなかに、一人として防衛問題の専門家がいなかったのだから、乱暴きわまりなかった。
現在、陸上自衛隊は十四万人まで減っている。陸上自衛隊をとれば、これまでもイスラエルとシリアの境のゴラン高原、イラク、カンボジアなどへ平和維持活動のために、足りない兵力を割いて、特別に派遣部隊を編成して派遣してきたが、遣り繰りが苦しかった。僅かな人員から、年齢、階級、特技を勘案して抽出するために、苦しんできた。
台湾は九州の面積と均しいが、陸軍兵力は十五万人だ。これに加えて一万人の憲兵と、二万人の海軍陸戦隊がいる。そのうえ、二十万人以上の予備役が控えている。
イギリスは陸軍兵力が十五万人だが、日本はイギリスの面積の一・六倍近い。やはり、その何倍もの予備役兵力が控えている。
離島の与那国島、尖閣諸島、対馬、壱岐、五島列島などの防衛もままならない。目下のところは、空き家同然だ。隣国がわが離島を、虎視眈々と狙っている。離島を防衛するためには、陸上戦力がどうしても必要である。これらの離島の周辺に、海上自衛隊の艦艇を常時貼りつけておけないし、航空機もつねに飛んでいられない。漁船などに兵員を乗せた不正規侵攻も、想定しなければならない。現在の十四万人では、離島まで守ることができない。
日本人教育こそ原点
小学から高校教育まで国防が大切であることが、まったく教えられてこなかったから、戦後教育の欠陥のつけがまわっているのだ。大学で軍事学が講ぜられることもない。鳩山首相と麻生前首相だけとっても、軍事に疎(うと)かった。同じことが、戦後教育を受けた国会議員についていえよう。
防衛省は質の高い自衛隊員を、確保できないために悩んでいる。防衛省が平成十九年に発表した報告書『防衛力の人的側面についての抜本的改革』では、「握力不足のために射撃ができない者、ソフトボール投げができない者が入隊していた」事例があげられている。隊員のなかに引金が引けない者や、ボールを投げられない者がいるというのには、暗然とさせられる。
自衛隊が質の高い隊員を確保することができない、もっとも大きな理由は学校教育の場で、国防の重要性を教えないからだ。先の防衛省の報告書では、学校教育を正すべきことに、まったく触れていなかった。青少年が国を護ることに誇りを感じなければ、隊員募集に当たって、つねに困難な状況が続いてゆこう。
国民の圧倒的多数が、豊かな暮らしを続けてゆくことだけを願って、日本が国家を形成していることを忘れている。そのために、国防の重要性を思い遣ることがない。
昨年十月に、皇太子殿下が中国の人民解放軍歌劇団の公演に御臨席された。私は唖然として、これまで祖国を護るために散華した御英霊を思って、涙した。これは、東宮殿下の側近の重大な過失である。外国軍の歌舞団の公演にお成りになるのであれば、どうして、一度として例年の自衛隊音楽祭に御臨席下さらないのだろうか。
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