新しい年を迎えて、鳩山政権は発足当時の勢いを失っている。藤井裕久財務相の辞任がなにやら暗示的だ。内閣支持率も50%前後に落ちた。自民党の反転攻勢の具体像が見えないこともあって、政党支持率では民主党は自民党の2倍程度を保っているが、この状態をいつまで維持できるか。
言うまでもなく、7月の参院選が政治決戦の軸だ。民主党の最高実力者、小沢一郎代表は昨年の衆院総選挙に続く参院選圧勝で衆参両院での単独過半数を目指す。政権が直面している基地、景気、献金の「3K」をどう克服できるかがカギだ。
鳩山政権の当面の焦点は、通常国会乗り切りということになるが、最大のヤマ場が5月連休明けぐらいにやってくると思われる。予算本体の年度内成立と関連法案の成立だ。これに米軍普天間基地の移設問題がからむ。
*社民党への配慮の結果が、5月の普天間移設問題決着へ
鳩山首相は普天間移設問題の決着時期を5月に設定している。これは国内政局をにらんでの判断だ。連立を組む社民党は普天間基地の県外、国外移設を求めている。参院選が近づけば近づくほど、社民党にしてみれば主張を変えるわけにはいかなくなる。
*普天間決着を5月に設定したのは、予算成立を最優先させたいためだ。予算本体の成立は4月第1週までなら年度内成立とみなされる。国庫金の支出に支障は出ないからだ。関連法案もできるだけ早いほうが予算執行への影響を食い止められる。4月末か遅くも5月連休明けぐらいには関連法案も処理したいところだ。予算と関連法案を成立させてしまえば、たとえ社民党が連立離脱の決断をしても、なんとかやりくりできる。
参院では自民党から離党者が出ているため、これをうまく取り込むことができれば、国民新党を加えてなんとか過半数に達する。だが、これは確定的な計算ではないから、万全を期すためには予算成立時点までは社民党の連立離脱を食い止めたいところだ。
これが普天間問題を5月まで先送りした事情である。完全に国内政局を優先させた判断であって、米側の意向とは無縁だ。米側の対日不信は頂点に達し、日米同盟は大きく揺らいでいるが、鳩山首相も小沢幹事長も普天間問題の5月決着で乗り切れると踏んでいるようだ。
だが、予算審議が難航して成立がずれ込み、鳩山、小沢両首脳の献金問題がさらに深刻化し、景気回復も進まず、基地問題に決着がつけられなかったとなると、政権は一気におかしくなる。そうした流れが集約するのが5月ということになる。参院選まで2カ月を切った時点だ。小沢氏は強気の参院選戦略を描いているようだが、衆院選圧勝の「揺り戻し効果」も考えると、思惑通りに運ぶのかどうか。
*わが世の春を謳歌する小沢氏
小沢氏はその政治人生において、おそらく最高の権力を手中にしている。元日の小沢邸がまさにこれを象徴していた。160人余の議員が新年会に集まったのである。
筆者が現役の政治記者時代、派閥領袖など実力者の私邸では元日に新年会を行うのが恒例となっていた。それが、いま行っているのは小沢氏だけというのだから、政治の世界もずいぶんと変わった。
東京・世田谷区奥沢の小沢邸は2階に大広間があって、新年会はここで行う。いくら広いといっても、全員は入れないから2-3回の入れ替え制だ。記者たちは1階の応接室あたりで声がかかるのを待つのが慣例だった。
筆者の記憶では、当時、小沢氏側近の小池百合子氏が妖艶な和服姿で小沢氏の脇に座り、大勢の人で埋まっていたため二階俊博氏が室内に入れずに廊下に座っていたのを思い出す。小沢氏は白い濁り酒をぐいぐいと飲みほしながら応対していたものだ。
*私邸での新年会を開催するのは小沢氏だけに
新年のコラムだから、ちょっと脱線するのを承知でかつての政治取材の実態を付言したい。元日には政治記者は休めない。午前中に首相官邸の新年会に出て、そのあと、それぞれ担当している実力者の私邸を訪ねる。
官邸の新年会は公邸から中庭を開放して催され、われわれにとってはどんな政治家が顔を出すか、これを確認するのが最大の役目だった。自民党政治全盛期だが、ときの首相とはスタンスの違う政治家が思いがけず現れたりする。著名なタレントなどもやってくるから、それが楽しみでもあった。
ほとんどの新聞社がそうだったと思うが、元日だけは自宅に社旗つきの黒い車を呼べた。契約ハイヤーである。元日は新聞製作を休む(2日付はない)ので、社に行っても編集局は少数の当番しかいない。したがって出勤しても仕方がないので、自宅から年始先へ直行し、年始回りを終えて、夜、自宅に帰るまで車が使えたのだ。
運転手さんたちは、目白の田中角栄邸に行くのを最も喜んだ。通りに各社の車がずらりと並ぶが、田中邸では1台1台に「お年玉」の祝儀袋を配ってくれるのだ。これが「角さんの気配り」であった。
筆者は政治記者の駆け出しのころ、三木派を担当していたが、渋谷・南平台の三木武夫邸でも新年会が行われていた。田中邸に比べれば規模は小さいが、不思議に三木派担当記者は議論好きがそろっていて、結構、三木氏との間で濃密な政治論議が交わされた。故人となった筑紫哲也氏が隅のほうで穏やかに談笑していた姿を覚えている。余談だが、三木邸では田中邸のような「お年玉」は出ないから、筆者の場合、自分で用意して運転手さんに渡していた。
そういった時代を懐かしく思い出すのだが、いま、こうした新年会を私邸で行うのが小沢氏だけというのは、実力者不在の政治状況を如実に示しているようにも思う。小沢氏としてみれば、まさに権力誇示の格好の場ということになる。
*小沢氏に権力が集中し過ぎ、党内論議が見えてこない
それにしても、あの大訪中団とほぼ同数の議員が小沢邸に集結したというのは、異様ではある。そういってはなんだが、初当選組などは元日こそ選挙区での年始回りに精を出したいところだろう。小沢邸に顔を出して「出席した」ことを認めてもらい、新年会が終わるやいなや、地元に飛んで帰ったであろう議員たちの心境を考えれば、哀れにも思えてくる。
民主党本部の幹事長室にはノートが置いてあって、議員たちが自由に提言などを書き込めるようになっている。これがいわば「出勤簿」として、扱われているのだという。国会開会中、初当選組は午前8時に国会の控え室に集合する。その日の国会日程の説明や、朝の挨拶の仕方から始まる立ち居振る舞いのすべてについて、先輩議員から指導を受けるのだという。
政治主導の掛け声は結構だが、甲論乙駁の党内論議が見えてこない。すべて、小沢氏の顔色をうかがい、その号令を受けて動くという雰囲気だ。元日の小沢邸は、そうした民主党の体質をも象徴していたように思える。
*「第3極」浮上の可能性を占う
そこで、今年の政局はどう動くか。参院選の結果がすべてを左右することはいうまでもないが、「第3極」の行方を慎重に見極めたいと思う。
参院選は都道府県の選挙区と全国の比例代表の組み合わせだが、比例代表は党名でも候補名でもどちらを書いてもいいことになっている。その合計票で各党別の議席数が決まり、候補名投票の多かった順に当選となる。したがって、衆院選に比べて、少数党でも議席獲得が容易になる。
「第3極」が浮上する可能性はそこから出ている。具体的には渡辺喜美氏が率いる「みんなの党」が台風の目になりそうだ。これに平沼赳夫氏のグループ、自民党離党組、さらには国民新党がどうからむか。
展開によっては、参院選前にこうした勢力の大同団結が実現するかもしれない。もっとも、連立政権に加わっている国民新党を含めた連携は困難という見方もある。
*国民新党の亀井静香氏が首相となる可能性も
一方で、普天間問題の決着は名護市のキャンプ・シュワブしかあり得ないというのが外交・安保当局の常識だ。米軍基地は滑走路と兵舎をつくればすむわけではない。あまり大きな声では言えないが、周辺に米兵向けの歓楽街がなければ機能しない。関西空港案に実現可能性が見えたのは大阪の歓楽街を利用できるという事情もあった。
名護市移設となれば社民党の連立離脱が現実味を帯びてくる。政局の側面からいえば、その場合、国民新党のウエートが大きくなる。したがって、国民新党が参院選前にほかのミニ勢力と一緒になり連立を離脱する可能性は少ないということになる。参院で過半数を占めるうえで微妙な勢力比となった場合、国民新党の亀井静香氏が首相となる可能性がまったくないとは言い切れないのだ。
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4759 我々の国家はどこに向かっているのか 花岡信昭

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