4826 米国は台湾を見限る準備に入ったのか? 宮崎正弘

台湾は既に「フィンランド化」したのだから「台湾関係法」は不要。『フォーリン・アフェアーズ』最新号に衝撃の論文が現れた。
アメリカのエスタブリシュメントは台湾を見限るのだろうか?中国専門家として斯界では知られるブルース・ジルが、もっとも権威ある雑誌のひとつ、と見られる『フォーリン・アフェアーズ』の最新号(1月+2月号)に衝撃的な論文を書いた。
予告がでた段階から台湾のマスコミは大きく報じている。
曰く。「台湾と中国は急速な雪解けと馬政権による大陸との一体化過程にあり、台湾はフィンランド化した。もはや米国が両岸関係に対して過去になしてきたような影響力を行使できる機会もなく、米国にとって負担となる『台湾関係法』は無用の長物、米国はまた台湾へ武器供与を中止せよ」。
ブルース・ジルは中国問題で多くの著作をものにしている。邦訳された作品には『中国権力者たちの身上調書』がある。未訳の著作群には『危機に立つ江沢民とエリート』、『国家はいかに正当性を獲得し、失ったか』、『アジアの二大巨人――中国とインド』、『中国の豊饒なる村々の興亡』、『中国民主化の未来』など。
英語読みはブルース・ジリー。
「フィンランド化」(Finlandization)とは一般的に「自由主義国家が社会主義もしくは全体主義国家の影響下に入る」ことを意味する。ソビエトの軍事力に粉砕されて外交と防衛の自由を失ったけれども主権をまもったフィンランドの生き方を指す巧緻とも解釈され、あるいは敗北的屈辱としても使われた。
この語彙には両義性がある。ただし冷戦終結以後「死語」扱いだった。
▲粗雑で誤謬に満ちた暴論が、なぜ米国の「一流紙」に掲載されたのか?
台湾では反論が噴出し、同時にオバマ大統領も先の訪中では『台湾関係法を維持する』と明言している。とはいえ、ブルース・ジルが代弁するのは、北京のカネかロビィ工作に負けて、こうした台湾防衛に投げやりの利益集団が米国に存在する事態の証明にもなっている。
ジルの議論でも、日本の多くの中国報道が典型的に北京の情報操作に引っかかっているように「台湾は中国の不可分の領土」と米国や日本が政府方針としていると意図的に報ずる、ねじれた解釈がなされ、それも批判の的となった。
日中共同宣言にあるのは、「台湾は中国の領土だ」と北京が主張していることを認識し、留意すると日本政府は言っても、けっして「認可」はしてはいないのである。
もっと率直に言えば北京政府が台湾は俺たちの領土だと吠えていることは記憶に留めておく、という意味である。
ジルの1952年サンフランシスコ条約の解釈も、どちらかと言えば北京ならびに台湾の国民党の立場を踏襲している。
台湾は日本が放棄したが、まだその帰属は決まっていない。中国の領土でもあるはずもなく、台湾国民党にとっては蒋介石が簒奪して既成事実化した歴史をごまかせなくなるので、この点で北京と国民党は共同歩調をとるのだ。
歴史解釈があやまった前提の上での議論と言えるのだが、このような北京寄りの粗雑な議論が堂々と『フォーリン・アフェアーズ』に掲載されたことが問題なのである。米国は台湾を見限る準備に入ったのか?
   
●日本のメディアはやがて六つの集団に再編され激動の時代を迎える。新聞もテレビも通信社も、この危機をどうやって生き延びるつもりだろう?
河内孝『次にくるメディアは何か』(ちくま新書)
著者の河内孝氏は毎日新聞ワシントン支局長を経て常務。社をリタイアしてからの人生は気の趣くままに<?>NYはコロンビア大学へ短期遊学されたり、つねにジャーナリズムの現場へ立ち返る。
ジャーナリズムはいったいどうなってしまうのか。果たして新聞社は生き残れるのか、インターネットの急激な発達に依って、日本のみならず言論の自由がある世界列強のマスコミには切実な問題である。
朝日も読売も部数激減、広告激減、赤字。リストラ、給与カット。日本の新聞が未曾有の危機に直面し、テレビもこれに続く。
どうあがいてもマスコミに忍び寄るのは、その業種の死かも知れない。氏が前に出された『新聞社 破綻したビジネスモデル』(新潮新書)はマスコミ業界の必読書と言われ、多くの話題をさらってベストセラーとなった。
本書は厳密にはその続きではないが、世界のマスコミの再編ぶり、現状報告を兼ねる。もっとも衝撃的な本質とは、新聞、テレビ、ネット、出版などのマスコミはいったい、明日はどうなるのか、という「未来透視図」である。
同じ著者の書いた、『You Tube民主主義』(マイコミ新書)は、インターネットで小口献金を呼びかけたオバマが、08年大統領予備選では、あれよあれよという間に本命候補といわれたヒラリーに迫った現場から、ネット民主主義の劇的な変貌を描いた。
本書でも、あれよあれよという間にあえなく倒産したり廃業したりした新聞、再編されていくマスコミのコングロマリット化への迅速なる変化。というより河内氏に依れば書いている尻から実情がかわり、半年に三回も書き直したという苦労のすえの作品。
過去わずか二年の間に米国のジャーナリズムでは二万人が失業した。脱線だが、宮崎正弘の『朝日新聞がなくなる日』(ワック)は、河内氏の現場報告とは論ずる対象が異なり、新聞論調批判とネットにおける世論形成のパワーを論じたものであり、似たテーマを追いながらも、中味はまったく異なる。
さて書物の内容をここで喋ってしまうと面白くないだろうから、本書の帯にある惹句を少々。
「グーテンベルグ以来の革命の時代、メディアの未来は、こうなるーーテレビ・新聞は消滅するのか?」河内氏はアメリカ通でもあり、その豊富な体験を活かして、紙媒体の新聞(ペーパーメディア)が、何故にこうも勢いよくアメリカで廃れてしまったかを論理的に探り、一方でアメリカの激変ぶり栄枯盛衰のマスコミと電光石火におきた連続倒産というカタストロフィを目撃しながらも、対応が鈍く独特な日本のメディアは『化石』ではないかと警告を発する。
そして最後の、核心に満ちた予測部分とは、日本のマスコミ業界は新聞、通信、テレビを含めて「四大メジャー」と二つの独創的グループという六つの集団に再編され、通信キャリアも系列化が進むだろうというものだ。
バブル崩壊により日本の銀行群は四大メジャーに再編されたが、次はマスコミ業界というわけで斯界関係者には、読み飛ばすこと能わず。河内氏が母校・慶応大学での講義録が本書の基盤となっているので、実に中味の濃いメディア論になった。
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