4922 アメリカと中国の協調にはやはり限度がある 古森義久

さてアメリカと中国の間で対立が表面化しました。米中政府関係は食い違いが生じて、摩擦を起こし始めたのです。
アレっ、と思う方々も多いでしょう。
ワシントンでも、東京でも最近、「G2」という言葉がしきりにささやかれていました。この世界全体でも、まずアメリカと中国の二大国家がともに手をたずさえ、国際秩序を仕切っていこうという政策の濃縮でした。つまり「G2」は米中二極の国際指導協調体制の予測や提案を指すのです。米中両国はそいういう二極の協調体制を築くべきだと、アメリカ側の一部識者たちが唱えていたのです。ところがーーー    
■「G2」が死語になるとき
ワシントンで最近、登場した「G2」という外交略語も一気に色あせてしまった。世界で米中両国だけがまず歩調を合わせ、主導権を発揮するという米中二極論が「G2」だが、早くも死語に近くなった。
両国はいまや、正面から対決の姿勢をみせ始めたからだ。
オバマ政権はこの1年、中国を最重要国扱いし、最大の貿易相手国や米国債の最大買いつけ国として経済面でのもたれあいだけを重視する姿勢をあらわにしてきた。
そのための米中両国の協調や対話を強調してきた。一方、国際規範には反する中国の人権弾圧や軍拡には口を閉ざしがちだった。
だが今回、米国の台湾への兵器売却に中国が報復を言明したり、グーグル社のネット機能への中国当局の規制強化に同社が反発したり、両国間の衝突が表面に出てきた。
両国政府間のこれまでの協調も大きく後退しそうである。しかしこの変化も本来、ごく自然な帰結だといえる。オバマ政権は中国との間に厳存する価値観や政策、利害の重大な差異を覆い隠して、共通項だけを喧伝(けんでん)してきたからである。
この不一致隠しには限度があったということだろう。
台湾への防衛的兵器の売却は、オバマ政権も自国の「台湾関係法」で義務づけられている。同法は、非平和的手段で台湾の将来を決めようとする試みは「西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、米国の重大関心事」と定め、対抗のための台湾への防衛的兵器の供与を明記している。
この点で米国の歴代政権が最も気にかけてきたのは台湾を標的とする中国人民解放軍の弾道ミサイルの大配備である。中国軍は福建省地域を中心に、台湾に照準を合わせる中・短距離ミサイルを1990年代から着々と増強してきた。
97年に50基未満だったのを2002年には350基、05年には650基と文字どおりの右肩上がりで急増させてきた。
米側はクリントン政権からブッシュ政権と、常にその抑制や削減を求めた。だが中国側は一切、その要請を無視して、現在では1200基から1400基もの配備になったとされる。
そのうちの多くは日本をも射程におさめる。
台湾への一方的な軍事攻撃能力の増強は「太平洋の平和と安全への脅威」、そして「米国の重大関心事」となる。オバマ政権もこの現実に目を閉じることはできなくなったのだろう。
グーグル社の場合も中国政府への反発は実は全アメリカに背を押されての動きなのである。
06年2月に米国議会の下院国際関係委員会が開いた「中国のインターネット」という主題の公聴会ではグーグル社のエリオット・シュラージ副社長はヤフー、マイクロソフトなどほかの大手インターネット企業代表とともに議員たちから激しい非難を浴び、謝罪を続けた。
グーグルは中国での検索サービスで中国政府の命令に従い、「民主主義」や「天安門事件」という言葉を削除していた。
そのことだけでも「米国の基本的価値観の否定に同調する忌まわしい行動をとって、夜、ふつうに眠れるのか」(民主党トム・ラントス議員)と糾弾された。
だから今回のように中国人の民主活動家に実害が出る中国政府のハッカー攻撃を黙認するような態度は自国内からの反発を考えるだけでもとれないのである。
米中両国間にはまだまだ断層に近いギャップがあり、その断層が米国の協調政策を抑制する。その現実は日本の対中政策にも参照とされるべきだろう。
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