4979 高速道路の完全無料化、賛成です 岩見隆夫

しょっちゅうお世話になっているわけではないが、高速道路はいまではあってあたりまえの生活手段である。通行止めになったりするとたちまち混乱してしまう。
一月中ごろ、鹿児島県日置市にお邪魔した。鹿児島空港から車で一時間ほどと聞いていたが、空港に降り立ってみると、四年ぶりの雪、九州自動車道は閉鎖しているという。
「下を行きますから、二時間半はかかる。なにしろ雪慣れしていないので、下もえらく渋滞してますよ」と出迎えの人が言うのだ。えー、二時間半? しかし、実際にそれだけかかった。
先週は秋田県大館市に出向いた。新幹線盛岡駅から車で二時間かかるという。往路は東北自動車道をすっ飛ばし、二時間弱で着いたが、問題は復路だった。
日が暮れ、吹雪が次第にひどくなる。真っ暗で車の前方がほとんど見えないが、タクシーは時速九〇キロから一〇〇キロで高速道路を走り続ける。運転手が、
「こりゃ最悪だ。お客さん、こわくないですか」と余計なことを口にする。
「スリルあるなあ。慎重運転でやってくれよ」と言いながら、正直こわかった。今年は早々からなぜか高速道路に悩まされる。
ところで、民主党が衆院選マニフェスト(政権公約)に目玉政策の一つとして盛り込んだ〈高速道路の原則無料化〉だが、世論調査で問うと賛否割れる。有料か無料か、で利害が激しく衝突するからだ。
国土交通省は目標を達成する一歩として、六月から無料化の社会実験を始めるという。地方の二車線区間を中心に三十七路線、五十区間が対象で、首都高速と阪神高速を除く全路線の一八%にあたるそうだ。経費が一千億円。
民主党は公約どおり完全実施したいところだろうが、それには一・八兆円かかり、財源がない。だから、今回の部分実施は公約違反と言われないために取り繕った印象が強く、〈無料高速〉の将来は見えてこない。
とにかく、高速道路、新幹線、空港、港湾などの整備を、相互の関連性を考えずにバラバラに進めたために、日本の交通政策は壁にぶつかっている。高速道路の無料化によって壁に穴をあける効果が生まれればいいのだが、現地の反応は複雑だ。先週たまたま会った大分県のある市長さんは、
「私のところも、無料化実験の対象になっている。いまは一般道が混雑して有料高速道路は閑散としているが、無料になれば全部そちらになだれるのは確実で、こんどは高速が渋滞する。高速道路を高速で走れなくなるのだ。だから、いまのままの有料の方がバランスがとれていていい」と無料化に反対した。
 ◇有料化は道路族の温床 車社会の地方こそ恩恵
そうではない、と完全無料化を強く主張する人もいる。その一人、シンクタンク代表の山崎養世さんは無料化の発案者でもある。山崎さんの話を聞く機会があった。
「二〇〇三年に民主党の菅直人さんに会い、無料化の提案をしたところ、二十分で理解を示してくれ、民主党のマニフェストに盛り込まれました」
と言う。山崎さんは東大卒、大和証券、ゴールドマン・サックス投信社長を経て、八年前に政策提言のシンクタンクを設立、道路関係の著書が多い。
山崎さんの主張は極めて示唆に富んでいた。
「東名・名神両高速道路の建設費は四五七三億円、当時日本で用意できる税収は年間二〇〇億円でした。世界銀行から一〇〇〇億円の貸し付けを受け、足りない分は郵便貯金や国民年金、つまり国民から借りた。この借金を返済するため有料化されたのです。
この時も、大論争があった。天下の公道なのになぜ料金を徴収するのか。憲法違反ではないか。このような反対意見を抑えたのが、田中角栄氏でした」
当初、借金を返済するまでは、高速道路の利用料を徴収して構わない、返済が終われば、順次無料開放していく、というのが田中さんの考え方だった。ところが、東名・名神の借金は九〇年に払い終えたのに、いまに至るも有料が続いている。二十年間で得た利用料は八兆円を超えた。このカネは他の路線の借金返済に充てられている。田中さんは、
「高速道路に東名も名神もない。これから造る分の建設費も含めて、すべての借金を返し終えるまで、高速道路は有料だ」と巧みに考えを修正したのだ。さらに田中さんはガソリン税を導入し、道路特定財源とした。山崎さんはこう語る。
「財源を考え出した田中氏は天才だ。しかし、一方で、田舎の高速道路の借金が四十兆円もあるのだろうか。田舎は早く安く造ろうとしたものではなく、できるのにしなかった。平たく言えば、政治家にとって高速道路が永遠に完成しないほうがいいのです。
選挙のたびに何度も高速道路を誘致すると訴え、一方で何回も建設業者からリベートやキックバックを受け取れる。だから、道路族のいる選挙区はいつまでも高速道路が完成しません」
事実とすれば、由々しきことで、話にならない。有料が高速道路の整備を早めるのでなく、むしろ政治腐敗の温床になっているのだ。
大都市以外の日本、つまり北海道と三十四県では、自動車依存率が九割を超えている。自家用車でしか移動できない。ところが、田舎では渋滞している一般道の隣に、誰も走っていない高速道路がある。利用料金が高くて乗れない高速道路が三分の二を占めているからだ。
東京にはあらゆる交通手段があり、バス、鉄道などの公共交通機関に不自由することはない。他方、田舎は自家用車で一般道を走ることしかできない。
「こんな不公平があるだろうか。地方のために完全無料化を急ぐしかない。東京中心でなく、無料化によって地方から経済をつくれる時代を実現しないのであれば、政権交代の意味はない」というのが山崎さんの結論だった。その通り、賛成である。(サンデー毎日)
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