4984 小沢幹事長の誤算 石岡荘十

小沢幹事長不起訴にブーイングが起きている。「証拠不十分」というが、限りなくクロに近い灰色だと野党は証人喚問する構えである。対して、幹事長を続投する言い訳に「検察による公平な捜査の結果だから—」と小沢氏は居直っている。
「逮捕はない、逮捕の許諾請求などありえないだろうが、ひょっとしたら在宅起訴くらいはあるかも」と気をもんでいたところへ「不起訴」—で一瞬気が緩んで、思わず「公平な検察」と口走ってしまったのは返すがえすも、軽率であった。「上手の手から水が漏れる」というやつである。検察が不起訴にしたのは、政治資金法違反事件についてであって、小沢氏に抱いているさまざまな疑念すべてについて「嫌疑なし」と結論付けたわけではない。
彼の師匠もそうであった。金丸信は政治資金規正法で略式起訴、罰金20万円の略式命令で一旦は逃れた、と思ったのもつかの間、脱税で逮捕・起訴され、公判中に死亡した経緯についてはすでの述べた。
http://www.melma.com/backnumber_108241_4755213/
(2/6 「似て非なる2人のヒール」)
金丸が略式起訴されたのが1992年9月、脱税容疑で逮捕されたのが半年後の1993年3月だった。検察は世論の風当たりが厳しかったこともあるが、あきらめてはいなかったのである。
今回も通常国会の開会中という検察にとっては、現職議員に手をつけるためには厄介な時期だ。つまり、例えば脱税で小沢氏の身柄に手をかけようとしても、所属議院(この場合は衆議院)に対して逮捕許諾の請求というややこしい手続きをとらなければならない。このとき法務大臣が、指揮権を発動すれば、事件を立件することは困難となる。
1954年の造船疑獄では、佐藤栄作の逮捕許諾請求にあたって、犬養健法相からの指揮権発動により捜査延期となり、事実上、事件が潰れてしまった歴史がある。このとき佐藤は政権与党自由党の幹事長だった。だから、小沢氏は「いざとなれば、指揮権発動の陰で逃げおおせる」と思っているなら、それは誤算、時代錯誤というものだろう。
1954年4月に指揮権発動、7月には佐藤は幹事長辞任に追い込まれている。指揮権発動は政権や時の権力の座を賭けた伝家の宝刀であり、その覚悟がなければ実力者小沢といえども宇宙人に党内で「逮捕不許諾」の圧力をかけることは難しい。
1958年7月、公選法違反の高石幸三郎(自民)を最後に「不許諾」はない。悲惨だったのは証券取引法違反の新井将敬(自民)のケースだ。議院運営委員会が逮捕許諾へと傾いた時点で、自殺をすることで逮捕を免れた。
今国会は会期の延長がなければ、6月16日で閉会する。そのあたりの—こんなシナリオはどうだ。
5月、米軍基地問題で大騒ぎになるだろうが、そのころには新任の枝野行政刷新大臣が独立行政法人をターゲットに、インターネット中継で“本格的な”田舎芝居、事業仕分け興行をぶちまくり、無邪気な世論を味方につけるかもしれない。問題は、ダーティーイメージの小沢氏だ。
通常国会閉会後、検察が動き出したとしてもタイミングとしてはおかしくない。しかし、小沢幹事長は「検察による公平な捜査—」と口走ってしまっている。これは誤算だ。次の強制捜査があっても「検察横暴」とは言いにくいだろう。
「捕まったとき家族や秘書に罪をかぶせようとしなかった」と外交評論家の岡崎久彦氏がどこかで金丸信を評価しているそうだが、小沢氏は、秘書は逮捕され奥さんもことによったら検察の捜査対象となりかねない。
師匠を見習うなら小沢氏は、縛につくしかないかもしれない。幹事長職を辞任すれば、「さすがクリーンな民主党」と無邪気な国民は拍手喝さいする。昨年も、3月に代表を下り、選挙に大勝した。あるいは、追い詰められた幹事長、「健康上の理由」で病院に逃げ込むかもしれないが、私が彼の病歴や健康状態に関わる報道などを検証した限りでは、灰色疑惑を全てチャラにするほど重症だとはとても思えない。起訴とでもなれば、党内でうごめいている反小沢グループが勢いづき、彼の神通力は地に落ちる。
かくして7月、参院選で目出度く単独過半数を達成。鳩は目出度くひとり立ちし、オリーブの小枝をくちばしに、生まれ故郷の宇宙へと国民を誘ってくれることになるだろう。
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