本音を言えば、民主党の小沢一郎幹事長について書くのはうんざりである。批判しようが褒めようが、書きがいがあればライターとしては満足なのだが、小沢さんの場合はとてもそんな気分になれない。滅入ってしまう。
理由は割合はっきりしていると思われる。お互いの切っ先が触れ合うことなくすれ違い、共通の土俵がないからだ。しかし、筆を止めれば、そこで終わる。こんなうっとうしい経験は、四十数年の政治記者生活ではじめてのことだが、耐えるしかない。
いまの政界は相当危なっかしいところにきているのだろう。先日、衆院本会議の代表質問に立った自民党の谷垣禎一総裁が、日ごろの温厚さに似合わず、
「小沢独裁……」と四度も叫んだのが、端的に物語っている。
「一人で、密室ですべて決め、小沢幹事長がいなければ司令塔も羅針盤もないというのが、鳩山政権の実態だ」と谷垣さんは語気を強めていた。だれもが民主党内の異常を感じとっている。
それに加えて、〈政治とカネ〉の話が延々と続くのだから、やりきれない。
小沢さんの不起訴処分が決まった(二月四日)直後の各紙の全国世論調査は、そろって幹事長の辞任を求めていた。『朝日』六八%、『読売』七四%、『毎日』六九%と高率である。不起訴になっても、〈疑惑の人物〉は退場すべし、とみているからだ。
さらに、疑惑に対して、記者会見などで小沢さんが説明したことに、〈納得できない〉と答えたのが『朝日』『読売』ともに八六%、〈納得できる〉はわずかに『朝日』六%、『読売』九%だった。八六%という数字は、ほぼ全国民が疑惑の目を注いでいることを示している。
国民の代表であるなら、この納得できないという圧倒的な声に対して、納得してもらえるように懸命の努力を払うのが当然だ。ところが、小沢さんの反応は違っていた。二月八日の記者会見で、小沢さんはこう反論したのだ。
「検察の強制捜査を受け、あらゆることが捜査対象となって、私も二度事情聴取で説明した。その結果が不起訴だから、これ以上の説明はない。
『小沢一郎は水谷(建設)はじめその他からも不正なおカネを受け取り、けしからん人物だ』という報道が続いた。その直後の世論調査でお前どうだと言われても困る。『不正はなかったことが明らかになったので、小沢は不正な献金を受け取っていなかった。潔白だった』という報道を同じように続けていただき、その後に世論調査をしていただければ、その時にコメントします」
驚き入る。報道が間違っていたから、世論調査も変な結果が出たが、〈潔白〉報道をしてくれれば、当然違った数字になるはずだ、と言いたいらしい。政界の最高実力者といわれる人物が、なぜこんな見え透いたすり替えの理屈を口にするのだろうか。
◇脱税首相と灰色幹事長 〈小鳩〉政権ダブル不信
世論調査は不起訴決定のあとに行われている。不起訴について、検察側は〈嫌疑不十分〉とした。嫌疑はあるが、公判を維持するのに十分でない、ということである。潔白とは明らかに違う。野党側が、
「限りなく黒に近い灰色だ」と決めつけるのはそのためで、世論調査に応じた人たちも同じような見方をした結果が、先の数字になったのだ。
ところが、世論に逆らうかのように、鳩山由紀夫首相も、「小沢氏は検察の聴取でさまざまな話をし、必要に応じて記者会見にも応じた。逃げている状況ではない」
と小沢さんの応援に回った。〈さまざまな話〉というが、小沢さんは、把握していない、関与していない、事実無根、と全面否定したにすぎない。小沢さんの周辺からまるで湧きでるように次々に出てくる数々の政治資金疑惑に、何ひとつ答えていないのだ。
鳩山さんの偽装献金、母親からの資金提供、脱税疑惑の説明についても、〈納得していない〉が『朝日』七六%、『読売』七九%である。小沢さんよりわずかに少ないだけで、世間はほとんど信用していない。〈小鳩〉に対するダブル不信である。この二人にリードされる民主党と政権はどこに行くのだろう。
先の独裁云々に戻ると、『朝日』調査では、小沢さんが鳩山内閣に対して影響力を発揮することは、好ましいと思いますか、という設問に、〈好ましくない〉が七四%を占めた。幹事長が内閣に影響力を持つのは当たり前、本来の政党政治の自然な姿のはずだが、それが国民の目には逆に不安材料になっている。
言い換えれば、小沢さんの発揮の仕方が正常でなく、独裁的に映っていて、昨年の衆院選で民主党を支持した人たちも、そんなはずじゃなかった、と失望やら幻滅感を味わっているとみるほかない。
こんな不信だらけの民主党政権がうまくいくはずがない。脱税首相と灰色幹事長の二頭立て馬車で走ろうとしても、国民はついていけないからである。
「小沢さんが幹事長を辞めれば、民主党はオモシがなくなってバラバラになる。参院選も勝ち目がない」という不安の声が党内から聞こえてくる。そうかもしれない。しかし、小沢さんに頼りきりの民主党はもっとみじめなことになりつつある。
鳩山さんが昨年、初の所信表明演説で、「無血の平成維新だ」と訴えたのが、いまではうつろにしか響かない。民主党の志ある人たちは直ちに党刷新の行動を起こし、早急に国民の信頼を取り戻すべきである。行動なくしては維新も何もない。
八六%という不信の数字を軽く見てはいけない。デフレが深刻化するなか、〈小鳩〉ともに十億単位のカネにかかわり、平然としていたことに、国民はあきれ、もはやだれも味方とは思っていないと知るべきだ。(サンデー毎日)
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5029 もはやだれも「味方」と思ってない 岩見隆夫

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