往年の売れっ子劇作家、花登筐(はなとこばこ)(1928~83)は浪速のど根性ものを書き続けたが、代表作の一つに<細うで繁盛記>があった。
最近の谷垣禎一自民党総裁を見ていると、あのドラマを思い浮かべる。初の党首討論(17日)も、メディアの批評は、消化不良だ、がもっぱらで、そうに違いないが、しかし、谷垣の顔には闘志が読み取れた。
ドラマは、大阪に生まれ、伊豆・熱川の伝統だけの小さな旅館に嫁いだ加代が、周囲の誤解や陰湿ないじめと闘いながら、旅館を再建する根性物語だ。
自民党も<伝統だけの小さな党>になってしまった。その党首を買って出た谷垣は、主人公の加代に似る。再建のメドは立っていないが、谷垣を支えているのは、内に秘めた静かな根性だろう。
総裁就任以来、党内外の多くから、「谷垣ではとても立て直しは無理だ」と力量不足を言われてきた。ピンチの自民党が温厚な谷垣タイプよりも、荒々しい突進型の指導者を求めているのはわかる。
谷垣は見せ場を作るのがうまくない。舛添要一前厚生労働相のようなスター的要素も乏しい。与謝野馨元財務相が、「あなたは<平成の脱税王>なんです」と鳩山由紀夫首相をののしった(12日の衆院予算委)のは効いたが、谷垣にそうした決め球がないのは確かだ。
しかし、相当な球を投げている。1日、衆院本会議の代表質問で、谷垣は、「鳩山総理、あなたは本当にこの国の為政者であり、最高意思決定権者なのでしょうか。実態は<小沢内閣>であり、その影の総理大臣に重大な<政治とカネ>の問題が発生している。
このような<小沢独裁>に堕した鳩山政権には、もはや民意に支持された政権としての正統性が失われている」
と激しく決めつけ、<小沢独裁>を何度か繰り返した。これ以上の政権批判はない。ただ、<小沢独裁>は世間も漠然と感じ取っていることで、<平成の脱税王>のほうに、意外性とパンチがあった。
政治指導者にとって、言葉の厳選とキーワードづくり、そこに魂を込めることが大切なのは言うまでもない。しかし、それがすべてではなく、核心の問題にしぶとく迫る執拗(しつよう)さはもっと大事ではなかろうか。
民主党の小沢一郎幹事長による特異な政治手法に、正面から挑んでいるのは谷垣だ。先日も、
「民主党は自ら平成維新と言い、革命政権かのように表現しているが、典型的なのはボリシェビキ政権(ロシア社会民主労働党の左派。レーニンの指導でプロレタリア独裁を樹立、のちロシア共産党に改称)だ。
そういう政権は法の支配を受けない。民主党のなかにも同じような気分があるのではないか。それ故に思うがままに振る舞う」(12日の定例記者会見)
などと法治主義の危機を訴えた。核心に触れている。
ところで、花登の郷里、滋賀県大津市に建つ記念碑には、<泣くは人生、笑うは修業、勝つは根性>と刻まれているそうだ。涙の話題もあった谷垣、来月は65歳で前期高齢者の仲間入りだ。老練の根性をみせてほしい。最近は、
「野党になることだってあるんだと、ドカッとしていることが一番大事だ」と細腕の意気地を語っている。谷垣が訴える<誇りある保守>を実のあるものにするためにも、ドカッと腰を据えるのがいい。(敬称略)
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5036 谷垣の「細うで繁盛記」 岩見隆夫

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