5085 北京・伊藤正「信用しがたい朝日報道」 古森義久

朝日新聞の最近の中国報道について、産経新聞中国総局長の伊藤正記者がおもしろい記事を書いています。周知のように伊藤記者は共同通信時代と合わせて、日本人の記者、学者、外交官などを通じ、中国とのかかわりが最も深く、最も長い最高水準の「中国通」の一人です。
その伊藤記者が最近の朝日新聞の記事を「信じがたい」と断じています。
朝日新聞は私自身がかかわった「ライシャワー発言」について、虚偽の報道をしたままです。私が正面から「虚偽」と断じても、反論ひとつできないままです。「虚偽」と「信じがたい」とは、ひょっとすると同じ事実を指しているのかもしれません。
このエントリーの見出しに使った「インチキ」という言葉は普通、私の報道や言論の活動での語彙にはありません。粗雑で下品な表現です。そんな言葉をあえて、天下の朝日新聞に対して使うのは、「虚偽報道」と抗議しても、だんまりを決めたままの相手への注意の喚起とでも申しましょうか。
伊藤記者の記事は以下のようです。
1989年4月、北京の民主化要求デモが反共産党へ転じたのは、同月26日付の人民日報社説が、デモを「動乱」と攻撃してからだった。これに学生、市民が強く反発、数十万規模のデモになったが、社説は撤回されないまま、6月の天安門事件へ向かっていく。 社説は、トウ小平氏の講話に基づいていた。
当時、北朝鮮訪問中だった趙紫陽総書記は帰国後、事態収拾のため社説撤回に動くが、トウ氏は拒絶、辞任に追い込まれる。
趙氏が訪朝していなければ、社説は出ず、情勢は違っていたとは後知恵にすぎない。李鵬首相らの延期要請をけっての訪朝だった。趙氏は中朝間での合意の実行としか述べていないが、趙氏に近い筋は後に、訪朝の必要性を説明した。
88年のソウル五輪への中国参加で悪化した中朝関係の修復を急いだというのだ。87年秋、北朝鮮の李根模首相が訪中、総書記就任直後の趙紫陽氏と会談した。
趙氏は五輪参加は対外開放の一環とし、改革・開放の成果と方向を説明した。これを北側は改革・開放を押しつける「内政干渉」と曲解し、反論しなかった李首相は帰国後更迭される。
趙氏の訪朝は、北朝鮮側の誤解を解き、内政不干渉の原則を再確認する目的だった。92年の中韓国交樹立は、五輪問題以上に北側の反発を買ったが、中国側は対外開放という中国の内政との立場をとった。
中国が、北朝鮮も改革・開放にならうよう望んでいるのは疑いない。
中朝首脳会談で、中国側は改革・開放に言及してきたが、「押しつけ」と取られないよう細心の注意が払われる。歴史的背景もあって北側は内政干渉に敏感だからだ。
そんなわけで、中国が昨年5月、北朝鮮に「改革開放の推進、世襲反対、核放棄を要請した」との朝日新聞の大報道(23日付朝刊)には驚いた。
記事は「内政干渉につながる要求は異例」で、「北の核保有や悪化する経済への中国の危機感を示す」としている。もし事実とすれば、中朝関係の常識を覆すニュースだ。
この3点のうち、他国の安全を脅かす核の放棄要求は内政干渉とはいえず、従来の主張でもある。問題は他の2点だ。
どちらも内政干渉そのものではないか。
特に世襲反対は、金正日総書記の後継者に三男の金ジョンウン氏を「指名」したことへの批判だが、やはり権力を世襲した金正日氏を批判するに等しい。中国側に世襲を批判する人は多いが、あくまで内輪の話であって、党の公式ルートで伝えたとは思えない。
早速、中国外務省の秦剛報道官は質問に答え、「報道は全く事実ではない。中国は内政不干渉の原則を順守しており、他国の内政事に干渉することはあり得ない」と述べた。
同じ記事で、昨年6月に同紙が報じたジョンウン氏の秘密訪中を再報道したことについても、改めて否定した。ジョンウン氏訪中説については、英フィナンシャル・タイムズなども報じたが、中国当局だけでなく北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長も昨年9月、共同通信代表団に「事実無根」と否定している。
朝日新聞の一連の報道には、コリア・レポートの辺真一編集長が昨年来、ブログ「ぴょんの秘話」で再三、厳しく批判、今回の報道には「思わず噴き出した」と書いている。
しかし報道を信じている人は少なくない。某大学教授は講演で、朝日報道に基づき中朝関係を論じたと聞く。朝日は今回も中国外務省の否定を報じていない。よほどの自信だ。
それなら昨年と今回の記事に多々ある矛盾点の説明くらいはしてほしいものだ。
「金正日総書記の名代として訪中」が「軍事代表団に同行」に変わり、「胡錦濤国家主席と会見」も「長男金正男氏が会見に同席」も消えてしまった。辺真一氏は、昨年の記事の情報源は「全く信用できないということになる」と述べている。(肩書は当時)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト

コメント

タイトルとURLをコピーしました