普天間移設検討委は核心である在沖縄海兵隊の「抑止力」をどう評価するかの議論を避けて、候補地探しに終始した観がある。日米安保条約の基本命題である「抑止力」の観点をあいまいにしたままグアムだサイパンという夢想的ダッチロール遊びをしてきたのが鳩山首相である。
北沢防衛相は「沖縄に駐留する海兵隊の抑止力は、アジア太平洋地域で事態が発生したときに、迅速に効果を上げる利点を持っている」と国会で述べたが、これは自民党政権下から一貫してきた「抑止力」の見解であって、政権交代があっても変わるものではない。
鳩山首相は口では「抑止力」を言いながら、普天間の移設で沖縄県外や国外だと言ってきた。沖縄県民が重すぎる基地の負担を取り去ってほしいと要求するのは、県民感情として当然のことである。だが少なくともしばらくは基地を沖縄から撤去することは、わが国の安全保障上、出来ないということを沖縄県民に訴え、負担軽減の措置を政府をあげて誠意をもって実行することが現実的な施策である。
社民党は沖縄県民の意向をナマの形でぶつけてきている。現状では県民感情に一番忠実なのは社民党である。だから普天間移設検討委では県内移設がやむなしとする政府や国民新党とガラス張りの中で「抑止力」論議を尽くす必要があった。
連立維持のために肝心の議論を避けたまま候補地探しをして政府方針を決めても肝心の問題が先送りされる。しかも米側との合意形成が図れない可能性が濃い。外交・安全保障政策という国の基本政策をあいまいにしてきた民主党政権の弱点がモロに出ている。
<◇抑止力評価で溝 政府・社民、深入りせず
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先を巡る政府・与党の沖縄基地問題検討委員会(委員長・平野博文官房長官)は8日、社民、国民新両党が移設候補先案を提示したことを受け、米側との交渉を念頭に置いた政府案の絞り込みに入る。しかし、09年12月末の初会合以降、安全保障論議は深まらず、中でも核心である在沖縄海兵隊の「抑止力」をどう評価するかは連立与党内の事情に配慮し、あえて深入りを避けたとの印象を与えた。
「抑止力論議は不十分だったと認めざるを得ない」。社民党から参加した阿部知子政審会長は8日、委員会終了後の記者会見でこう語った。「(5月末までという)時間があまりにも少ない。(決着期限を)先送りできない」と時間的な制約を理由に挙げたが、社民党と政府の隔たりは当初から大きかった。
米軍再編の過程では「抑止力の維持」と「沖縄の負担軽減」の両立が重視されたが、社民党は負担軽減に軸足を置く。一方、鳩山由紀夫首相は沖縄問題と同時に抑止力にも言及し、社民党の姿勢とは一線を画してきた。
2月15日の衆院予算委員会では北沢俊美防衛相が「沖縄に駐留する海兵隊の抑止力は、アジア太平洋地域で事態が発生したときに、迅速に効果を上げる利点を持っている」と強調した。沖縄の重要性を認識する政府見解は政権交代後も大きく変わってはいない。
これに対し、阿部氏は3月8日に検討委に提出した資料で「在沖縄海兵隊部隊の体制や機能から考え、必要不可欠な『抑止力』とはいえない」と明記して対立。2月2日の会合では、防衛省が日本周辺の安全保障環境と沖縄海兵隊の意義・役割を説明したが、政府と社民党はそれ以上の議論の深入りは避けた。
「抑止力」とは特定の地域に高い能力の部隊や兵器を置くことで、その地域への侵攻を断念させる機能のことを指す。日米両国は北朝鮮の弾道ミサイル発射や核開発を脅威と位置付け、弾道ミサイル防衛に取り組み、在沖縄海兵隊も朝鮮半島有事が発生すれば派遣されると想定される。
ただ、米国は台湾有事も視野に入れている点で日本と微妙に立場が異なる。台湾海峡と北朝鮮の双方とほぼ等距離にある沖縄に部隊が存在することが重要で、社民党のグアム・テニアン案や日本本土案を米国が受け入れることは考えにくい。米軍嘉手納基地やキャンプ・シュワブ陸上部に移設する国民新党案も、有事の際に空軍と海兵隊が混在したり、近隣住民との摩擦が深まる点などから歓迎できない案となっている。
「沖縄の海兵隊は抑止力として必要か」を正面から問えば、日米安保体制の根本的な見直しに直結しかねない面もある。普天間移設は、96年の普天間返還合意では沖縄の基地負担軽減と同時に日米安保再定義も行い、「在沖米軍の抑止力維持」がセットとなった。
防衛省の長島昭久政務官は「海兵隊グアム移転後も、沖縄に定数で1万人残ることが抑止力だ。陸自を整備し、日本の責任でできるようにするまではこの状況を続けざるを得ない」と強調した。平野氏は3月8日の記者会見で「(社民、国民新両党には)願わくは結論的に了承していただきたい」と強調。今後も抑止力論議を封印したまま最終決着を目指す考えをにじませた。(毎日)>
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5148 核心の抑止力議論を欠いた普天間移設検討委 古沢襄

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