5176 戦死は覚悟、人生の誇り 古森義久

ワシントン支局の同僚の佐々木類記者がアメリカの海兵隊の訓練をみて、その模様を記事と写真で伝えました。そのなかで印象に残ったのは、23歳の若い女性士官の言葉です。アフガニスタンへの危険な任務での戦死は覚悟のうえだというのです。そしてそんな戦死も、むしろ誇りだというのです。
<<アフガン派遣へ 米海兵隊訓練ルポ 女性士官「戦死、人生の誇り」>>
立ち込める硝煙、耳をつんざく爆弾の炸裂(さくれつ)音、マシンガンの火炎…。ここは米海兵隊戦闘開発司令部「Quantico(クワンティコ)」。首都ワシントンから車で約1時間ほどのバージニア州にある海兵隊最大基地の一つだ。
山の中に基地があるのではない。基地の中に山がある、といった方が正しい。それだけ広大な敷地で、海兵隊エリート士官がアフガニスタン派遣に向け、日夜戦闘訓練を行っている。
今月初め、国務省と海兵隊の協力で、基地内にある若い士官のための基礎訓練校(TBS)を密着取材した。(ワシントン 佐々木類)
■市街戦訓練
3日午前7時50分。基地近くの一般駐車場で軍用バスに乗り込み、基地入り口のゲートをくぐった。ワシントンDCから意外と近いと思っていたら、そこからさらに40分ほど雑木林の中をバスに揺られ、基地内の訓練施設にたどりついた。
模擬弾とはいえ手榴(しゅりゅう)弾や発煙筒に直撃されると、かすり傷では済まない。ヘルメットに防弾チョッキ姿で「一切の責任は自分が負う」という1枚紙にサイン。
カメラと取材メモを片手にアフガン市街地を再現したコンクリート向き出しのコンバット・シティー(戦闘所)に恐る恐る潜入した。
「おかしいな。誰もいないではないか」と思った次の瞬間、「ヒュ~」という嫌な音が頭上をかすめ、近くで大音響をたてた。金属音が耳につき刺さり、振動で五臓六腑(ごぞうろっぷ)がひっくり返るようだった。
立ち込めていた硝煙が消えて視界が広がると、右手にビデオ、左手にカメラを持った中国・新華社の若手記者が、まだ雪が残るぬかるみに足をとられて転んでいた。
「ゴー!ゴー!ゴー!」
雑木林に潜んでいた小隊が市街地に突撃、建物内部に隠れていた防御側と激しい銃撃戦を展開した。銃口から飛び出る火炎。
迷彩服にはそれぞれセンサーがついており、被弾したかどうか命中したかどうかが分かる仕組みになっている。撃たれた兵はその場であおむけに倒れるのがルールだ。
何人もの大男がここかしこに転がっている。訓練は、攻撃側3個小隊約120人が雑木林から市街地に侵入し、街を攻略するのに対し、防御側十数人が迎え撃つというシナリオだ。
勝敗は圧倒的に数の多い攻撃側に大打撃を与えた防御側の勝ち。訓練終了後、攻撃側は小隊ごとに円陣をつくり反省会だ。  
「お前のせいで小隊は全滅だ。何が悪かったか言ってみろ」。ミスを犯した若い士官に対し、上官がチームワークの大切さをたたき込んでいた。
■平和求めて
「今はこれが私の本職だよ。故郷が平和を取り戻せるなら、いくらでも協力するさ」。2001年にアフガンを脱出したフギザル=仮名=(63)氏は、米製の車に乗った不審者という設定で、爆弾を腹に巻き付けて海兵隊員からボディーチェックを受ける役柄を演じていた。
時おり米兵に抵抗するそぶりを見せるなど、なかなかの役者ぶりだ。
記者(佐々木)のパソコンには、国防総省から毎日のように戦死者情報が電子メールで届く。みな10代後半から20代半ばの若い兵ばかりだ。
「『○○州○○町出身、○歳』。『不朽の自由作戦(OEF)』遂行中に路肩爆弾で死亡。詳細情報はこちらをクリック」というものだ。
米国の民間の調査機関によると、アフガンでの米兵の死者は1000人を超える。現在の海兵隊員にとって「死」は常に身近な存在だ。
国際社会が一体となった対テロ作戦が重要であることは言うまでもない。だが、私も彼らも戦場とは何かを肌身では知らない。
武器が女子高生を背負っている感じの小柄な女性士官を見つけた。ジョージア州ロズウェル出身のエラード少尉(23)だ。
「祖父と叔父が海兵隊出身で小さいころからあこがれていた」と屈託のない笑顔で話し、「戦死したり重傷を負ったりする危険性があることは分かっている。そうなったとしても、私の人生にとって『不朽の自由作戦』に参加できることは大きな誇りです」と言い切った。
指揮官で、ペンシルベニア州サンバリー出身のランディス少佐(42)は、「陸軍でも海軍でもない。海兵隊こそ自己鍛錬の最高の場所だ。ここにいる海兵隊員は何も恐れてはいない。自由のために戦うことを誇りに思っている」と話す。ソマリア、アフガンを経験した古参兵らしく、野太く大きな声でこう語った。
隊員らにインタビューして共通するのは、海兵隊員としての「誇り」を口にすることだ。
TBS校長のスミス大佐は、「士官養成で最も大事なのは、どんな過酷な環境でも、任務遂行のために冷静で自分を見失わない強い精神力と頑強な身体能力を身につけさせることだ」と語る。
折から、日米間では米海兵隊の前進拠点である沖縄県の普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題が外交問題化しているが、移設先がどこであれ、若い士官は訓練校を卒業後、早ければ半年から1年でアフガンに派兵される。
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【用語解説】海兵隊
上陸作戦や敵地での地上戦を主任務とする部隊。米国では陸海空軍に並ぶ独立した軍で、航空部隊も保有する。海外派兵の際には最前線に送られることが多い。TBSでは、幹部候補生学校を卒業した士官(少尉)約1400人が作戦の立案や武器取り扱い、敵陣地の攻略の仕方など実戦に近い形で訓練を行う。
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【用語解説】不朽の自由作戦(OEF)
2001年9月11日の米中枢同時テロ事件後、米国主導で始まった一連の対テロ軍事作戦の総称。タリバン政権を崩壊させた後、アフガン・パキスタン国境周辺に潜伏しているとみられるアルカーイダ幹部の掃討作戦を進めている。
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