パキスタンの対米協力は疑心暗鬼から暫定的共闘態勢へ。タリバンの猖獗をパキスタンの国家安全保障への脅威とみなすようになった。
パキスタン軍の対米姿勢が変貌している。従来はパシュトン主体のタリバンを物心両面で援助し、軍情報部はひそかにタリバンと連携してきた。パキスタンにとっては、むしろタジク人、ウズベク人主流の「北部同盟」が脅威であり、潜在的敵でもあったからだ。
パシュトン族名家の出身なのにカルザイ(アフガニスタン大統領)政権は北部同盟が軍部、情報部をおさえていることもパキスタンは歓迎していなかったし、いまもしていない。アフガニスタンは終局的にパシュトン族がおさえるべきだとするのがパキスタンの目標である。
しかし援助してきたタリバンがパキスタンのなかで跳梁し、過激派が地域的に浸透して夜の政治を統治しはじめ、「国内国」をかたち作り始めてから、徐々にパキスタン軍の態度に変化が現れた。
タリバン軍事組織のトップを捕獲し、影の知事といわれたタリバン系の政治家を拘束した。タリバンの命令系統を損壊させ、その軍事力を低減させるのが当面の軍事目標となった。
パキスタン軍はスワット渓谷を根城としたタリバン一斉作戦を展開し、つぎにワリジスタン制圧作戦を敢行した。とくにアフガニスタン国境付近では米軍のドローン攻撃に連携した。パネッタCIA長官は「パキスタン軍の協力に感謝したい」と述べた(ヘラルドトリビューン、3月25日付け)。
▲パキスタン軍十五万を動員
現在、パキスタン軍の十五万が、これらのタリバンとの戦闘にかり出され、さらに九万のエリート部隊が次の作戦のため待機しているという。
「2009年に展開された部隊規模の軍事作戦は209回、現在パキスタン軍の拠点は821ヶ所。軍人の死者はおよそ800名。これらに必要な軍事費は膨大だが、過去九年間の米国からの援助は170億ドルだ」(ミカエル・オハンロン「ブルッキングス研究所」主任研究員)。
タリバン戦士の多くは難民に紛れ込んで、パキスタンの各地へ潜伏し、爆弾テロをやらかすようになる。3月14日にも、ラホールでおきた自爆テロは四十人の市民を犠牲にした。
とはいえ米軍とは同床異夢、パキスタン軍の目的は米国の戦略とは異なる。パキスタンの地政学では隣国インドが最大の脅威にかわりなく、インド国境に貼り付けている軍をタリバン退治の目的には割けない。
パキスタンに拡がるのはインド謀略説である。インド秘密情報部がタリバンや過激派に武器を流してパキスタン国内を攪乱させているとする謀略説が日増しに強くなって、インドとも戦略的提携を組む米国への不信が払拭できないでいるのだ。
したがって米国やNATOの目的とパキスタン軍の目的は必ずしも一致しない。とはいうものの当面の国内敵がタリバンであることも明瞭な事実である。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
コメント