5264 イラク総選挙で前首相派が第一党の「想定外」 宮崎正弘

イラク総選挙は「想定外」。アラウィ(前首相)派が第一党へ。マリキ現首相の「法治国家連合」は僅差で二位の模様。
イラクの総選挙は3月7日に行われ、まだ開票が続いている。26日時点で前首相のアラウィ率いる「イラキア」が91席を獲得し、第一党になる模様。以下、マリキ現首相率いる「法治国家連合」が89席、三位はシーア派の「国家連合」で70席、つぎにクルド族の連合体「クルディスタ」が43議席。
イラク国会は定員325席で、過半数は163.これから連立作業が始まり、組閣するまでに相当の時間がかかりそう。
 
在イラク米軍司令官のオディエルノ将軍は「撤退は予定どおりであり、選挙結果はどうであれ、戦争は終わった」と総括し、「98000人の現有兵力を夏までに五万に削減する。最終的に2011年十二月までに全米軍は撤退する方針にも変わりはない」と記者会見している(ヘラルドトリビューン、3月26日)
サダム・フセイン打倒を遂げて米軍の介入に感謝した筈の多くのイラク国民が、いまでは米軍を疎ましく思い、また反感を抱くようになった。
こうした激甚なる状況の変化に平行して、米軍が育成したイラク軍と警察も徐々に機能するようになり、石油生産も再開されて経済の復興が見えてきた。
だから「もう出て行ってくれ」と言うのはアメリカ人から見れば恩知らず。しかしシュメール文明から一万年、古代バビロニア帝国から五千年の長い歴史を誇る国が、外国軍の駐屯を何時までも潔しとする筈はなく、米国のつぎの狙いは隣国イランの膨脹を防ぐ軍事拠点としてのイラクの政治活用と、石油利権の確保であろう。

(読者の声1)貴誌「パキスタン軍の対米姿勢に変化」の記事に続いて、「カンダハル総攻撃が近い」との記事、いま、読んでいる本とドンピシャのタイミング。
「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」。映画「カンダハール」の監督、イランのマフマルバフにより2001年3月に書かれたものです。
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旱魃による飢餓に苦しむアフガニスタンには無関心な国際社会もバーミヤンの石仏が破壊されたというニュースにはタリバン非難の大合唱でした。
『仏陀の清貧と安寧の哲学は、パンを求める国民の前に恥じ入り、力尽き、砕け散った。仏陀は世界に、このすべての貧困、無知、抑圧、大量死を伝えるために崩れ落ちた。しかし怠惰な人類は、仏像が崩れたということしか耳に入らない。こんな中国の諺がある。「あなたが月を指差せば、愚か者はその指を見ている」。誰も、崩れ落ちた仏像が指さしていた、死に瀕している国民を見なかった。』
一国民の飢餓や虐殺に国際社会が無関心というのはポル・ポトのカンボジアも同様でした。
国際政治の力学の前には石油もでないアフガン国民の生命など何の価値もないのですね。著者によると、ソ連崩壊後、西側世界のために軍事的奉仕を提供していたパキスタンは、自国の軍事的価値の低下に対し、アフガンに傀儡政権(タリバン)を作り、世界で自分が雇用される口実を作った。アフガンの内戦にしても雇用問題の側面があるという。
麻薬と天然ガスくらいではすべてのアフガン国民を食べさせることはできない。イランの大国化を恐れるアラブの湾岸諸国の資金をもとにパキスタン国内に多くの神学校が作られ、飢えたパシュトゥン戦士を育てタリバン兵士とする。
『遠くから見れば、ターリバーンは、非合理的で危険な原理主義の潮流に見える。しかし、近くからその一人一人見れば、それは神学生であることを職業とし、空腹を満たすために学校へ行く飢えたパシュトゥン人の孤児であることが分る。』
この本の中では、パシュトゥン地域を分割したデュランドラインについて100年後にアフガンに返還する約束だったとあります(真偽不明)。パキスタンとしてはカシミールでインドと長年争っているほどですからパシュトゥン地域を返還する気などさらさらない。傀儡のタリバン政権を作って領土問題はなし、アフガンに影響力を行使のはずだったのが、現在は飼い犬に手を噛まれた状態でしょうか。
隣国のイラン人から見てもアフガンの部族社会は理解し難いようです。
難民キャンプですら部族対立はあたりまえ、医療団の診察も部族別に別の日程、さらにパシュトゥン族内部でも階級が違う人は同じ日には診察に来ないとか。顔を覆うブルカに女性の抑圧を見、せめて顔を出すチャドルだったらと思うも、アフガン女性のなかには、ブルカの代わりに顔を覆わないチャードルをまとえば、神の怒りにふれて黒い石に変えられてしまうかもれないと考えるものもいるという。
キャンプ内でさえ一夫多妻を維持し、10歳の男児に2歳の女児の結婚などイラン人には理解不能。
ブルカの弊害については、中村哲というパキスタンのペシャワールを中心にアフガン東部で医療活動をしている医師の話にもでてきます。アフガンはライ病がいまだに蔓延しているのに女性はブルカのせいで発見が遅れてしまうと。
雨がふれば洪水でマラリアが蔓延、夏は日照りで旱魃、温暖化の影響なのか氷河も消え川が枯れ、農耕・牧畜すら危うい状況のアフガニスタン。資源はあるとしても、平地の道路ですらイランの山岳路よりひどい状態で開発など望むべくもない。
『アフガニスタンは千人の恋人たちの心をときめかせる美しい娘ではない。哀しいことに、現代のアフガニスタンは老婆のようなものだ。彼女に近づきたいと思うものが出くわすのは瀕死の重病人で、この重病人にかかる出費は、彼女を手に入れた者が支払う羽目になる。』
イランから見るアフガンは、明治の日本が台湾・朝鮮を領有した当時に抱いた思いと似たようなものを感じます。(PB生)
(宮崎正弘のコメント)北欧の女性ジャーナリスト、アスネ・セイエルスタッドがブルカを着用してアフガニスタンへ勇躍潜入し、カブールの人々を活写した『カブールの本屋』。これも傑作でした。
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