5267 いまこそ非核2・5原則を! 古森義久

鳩山政権の「日米密約」暴露の意図を拓殖大学学長の渡辺利夫氏が問いただしています。確かになぜ、この時期に、という疑問が起きます。その背後にある政治意図をも感じさせられます。
しかしこれからの将来を眺めると、非核三原則も密室部分が明らかになったのだから、こんごは2・5原則でいこうというのが最に現実的な選択肢だと思います。
この際、もう一度、非核三原則の「持ち込ませない」という部分は陸上にのみに限り、日本の港や領海に核兵器を搭載した米軍艦艇が入ってきても、それは「持ち込み」にはならないのだ、という立場をとるべきです。
反感を広げた「密約」検証(渡辺利夫)
「密約」に関する有識者委員会報告が3月9日付の外務省ウェブサイトに掲載された。一読、よく練られた文書だとは感じた。
しかし本報告書が、普天間基地移設問題をめぐって日米同盟が危殆(きたい)に瀕(ひん)しているこの時期になぜ作成されねばならなかったのか、まことにもって不可解である。
北岡伸一座長を初めとする優れた研究者を糾合し、密約に関する分析と検証に3カ月を費やして報告書が作成されねばならなかったのはなぜなのか。
もちろん、岡田克也外務大臣による報告書作成の委嘱があったからである。
 
≪米国の核を遠のける思惑≫
岡田氏は、かねてより非核三原則を制度化し、核先制不使用政策を米国に迫って、米国の核の傘から日本を少しでも遠のかせたいと考える政治家である。
昨年以来、村田良平氏ら外務省次官経験者などから、1960年の日米安保改定に際して米軍の核搭載艦船の寄港、領海通過は日米の事前協議の対象外である旨の密約が存在するという発言が相次いだ。
これを好機として岡田氏は検証を決意したのであろう。岡田氏とて検証を行えばこういった類の報告書が出てくることは予想したはずである。
1981年、当時の毎日新聞記者、古森義久氏が元駐日大使ライシャワー氏から日米密約が存在するとの確証を得たいわゆるライシャワー発言のことを、岡田氏はもちろん知っていよう。
安保改定の時点、日本の国内では東側に親和的な左派勢力が跋扈して政治は左右に分裂していた。
かかる状況にあってみれば、非核三原則を表で標榜しながらも、裏では密約によって米軍の核抑止力に依存するより他なしと考えたのは、愛国的指導者であれば当然のことであろう。
≪不正直とは幼児的な判断≫
国民の多く、少なくとも外交と安保に関心をもつ日本人であれば、米国の核の傘の下で自国の安全が確保されているのであるから、非核二・五原則も致し方ないとしてこれに暗黙の了承を与えていたのであろう。
それゆえ政権と政府は核密約の存在を、これが俎上に載せられるたびに否定しつづけてきたのであろう。
これを曖昧だとか不正直だというのは少々幼児的に過ぎまいか。
曖昧といったが、米国の核戦略自体が曖昧戦略、すなわち核抑止力を効果あらしめるには核の存在を肯定もせず否定もしないというものであり、この核戦略と折り合いをつけなければ、有効な日米同盟の維持は不可能だったのである。
米国による核抑止力維持と日本の非核三原則の2つをバランスさせるには、密約は不可避の外交的「狡知」であった。
密約といい狡知といい響きはあまりよくないであろうが、少なくとも政治家と呼ばれる者には、外交とは元来がそういうものだという構えがなければならない。
1961年には朝鮮半島で南北対立が激化しこれに呼応して韓国で軍事クーデターが発生、1962年には旧ソ連がキューバに核配備を目論(もくろ)んで米ソが一触即発の事態となり、中国が1964年に原爆実験、1967年に水爆実験を敢行した。
このような不穏な情勢を前にして非核三原則はあまりにリアリティーを欠く理想論であった。
昨年12月に故佐藤栄作元首相の家で朝鮮半島有事の際の沖縄への核配備に関する佐藤=ニクソン合意のメモが発見された。
有識者委員会は、この合意は密約には当たらないとしたものの、この種の合意なくして沖縄の返還がありえたとは考えにくい。
≪ただの「気迷い」に終わる≫
検証すれば当然出てくるはずの密約の数々を、いまの時点で洗い出そうとする現政権の真意は一体何か。
委員会の報告書を受けて岡田氏は“これが日米安保体制の運用に影響を与えることはない。非核三原則を見直すこともない”旨を表明した。
それでは再び何のための検証だったのか。
米国の核戦略に対する日本人の不信感を強め、有事の際の核持ち込みを否定する論拠としてこの報告書が用いられはしまいかという米国の対日不信を増幅させただけである。
日米双方にアンチフィーリング(反感情)を拡大するだけの効果しか残さなかったではないか。
外交と安保については、検証、透明性、説明責任というお定まりの概念を自己目的化してはならないと私は考えるのだが、どうやら今回の報告書は現政権の幼い意図を反映してその自己目的化に「貢献」してしまったのではないかと恐れる。
そういえば、報告書を受けて岡田氏から具体的に出されたのは、みずからを本部長とする外交記録公開・文書管理対策本部設置の提案のみであった。
北朝鮮が核ミサイル保有を宣言する時期がほどなくやってこよう。アジアの核大国中国が東シナ海の制海権を掌握する日もそう遠くはあるまい。
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