5295 がんセンター理事長が職員に喝! 石岡荘十

今日4月1日をもって「国立」から独立行政法人に移行したがんセンターの初代理事長嘉山孝正理事長は、午後、理事をはじめとする幹部職員に対する辞令を交付、職員に対しその抱負を語った。
会場はがんセンターの階段教室形式の国際会議場。300ほどの席は白衣の医師や看護婦らで満席、“立ち見”も出る盛況で、新人事とこれからのがんセンターが担う使命を語る嘉山理事長理事長に熱い眼差しが注がれた。
厚労省出身の医系技官が管理局長として総長や病院長を超える人事・管理権を持ちカネとヒトを思うがまま牛耳ってきた昨日までの体制がどう変わったのか。
理事長を補佐する理事2名はいずれも医師、研究者であり、厚労省天下り医系技官の名前はなかった。1962年、病院が出来て半世紀でがんセンターはやっと厚労省の頚木から解き放たれたということだろう。天下りの象徴的存在だった管理局長の業務は経営のプロが入って、旧体制の経営手法にメスを入れる人事体制が明らかとなった。
新生がんセンターの使命は、調査、研究、技術開拓、教育、政策立案など7つ。嘉山理事長の抱負はこうだ。
「これまでは国にいわれたことだけをやっていればいいという体制で、責任の所在がはっきりしなかった。これから違う。例えば、ドラッグラグ(医薬格差)の解消」
海外では広く使われている薬も日本で使われるまでには何年もかかって、患者がその恩恵を受けることが出来ないという格差の解消が問題となっているからだ。嘉山理事長はそれだけでなく、「創薬」、新しい抗がん剤の開発に取り組む決意を語っている。
「医療機器の開発、放射線治療のトップリーダーを育てる。臨床現場から問題を発掘して国に提言していく。そのためには医師や看護師を増やさなければならない。幹部職員など専門的な技術をもつ人は公募を基本とし優秀な人材を集める」
日本には今現在、がん患者は何人いるのか。これを「がん登録」というが、わが国ではこの調査さえ行われていない。患者が死亡したときはじめて、年間死亡数30数万人という統計数字となって出てくるだけで、治療を受けている患者の実態は不明だ。これではまともながん対策は出来ない。嘉山理事長は情報を収集し、開示する考えだ。
理事長はこう喝を入れる。「がんセンターは真に国民のための組織に変わらなければならない。自分の家だと思ってほしい。だれが設計したのか知らないが、あの玄関ロビー。完全暖冷房。こんな家はよほどの金持ちしか建てられない。その借金をこれまで税金で払っているのですよ。ほっておけば事業仕分けの対象になるところだ」
東京・築地に威容を誇るがんセンター玄関を入ると3階までの吹き抜け。観葉樹が繁茂したロビー、一流ホテル並みの豪華さだ。1997年当時、総工費600億円だった。業界の常識では400億円でできたはずだという。当時の相場では1床当り3千万円くらいだといわれるが、がんセンターでは7~8千万円もかかっている。豪華なはずだ。設計管理者はいうまでもなく厚労省医系技官である。
その反面、職員に対する待遇は—。駆け出しの医者は病院の中に6畳ほどの部屋をあてがわれて住み込みで働き、手取りは月20万円程度、ボーナスなし。
嘉山理事長は、就任挨拶の中で最後にこう約束した。「職員にとって魅力的で働きやすい職場環境の整備に努める。医療事故などで問題が生きてもblame free、つまりだれの責任かを追及するのかではなく、なぜこの事故がおきたのか、原因を追求する姿勢で臨む」
嘉山理事長はこのように呼びかけ、拍手の中、会場を後にした。
なお、中央病院長を4月1日退任し癌研究所顧問に就任した土屋了介氏は、外部評価委員を務め間接的にではあるが引き続きガン研究センターの改革に関わる。院長の後任には嘉山理事長が当る。
新体制の組織図を見ると、理事長が名実共にトップで責任の明確化を図った。嘉山理事長は引き続き中医協の委員も務めることから、政治的なパイプの役割も担うこととなる。
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http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_65179_51468_6 「再生なるか、がんセンター」 
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