鳩山内閣の支持率はついに20%台に落ち込んだ。このままいくと、今度は20%割れが近いという観測が流れ、政権末期の様相が一段と濃くなるだろう。
支持率続落の要因はいうまでもないが、鳩山首相、小沢幹事長の「政治とカネ」をめぐる問題で国民は依然として釈然としない思いを抱いていることが大きい。そこへ、米軍普天間基地の移設問題をめぐる迷走が重なった。
普天間問題については、鳩山首相の公約である「5月末決着」が実現すると見る向きは、与党内部にもほとんどない。万にひとつ、鳩山首相が持論である「常時駐留なき安保」を軸とした安保政策の大転換を打ち出して勝負に出るといった展開にでもなれば、また違った光景も見えてくるだろうが、その可能性も薄い。
それにしても、「宇宙人」と揶揄されてきたこの首相が、いまだに5月末決着に楽観的な見通しを持っていると見られているのは、なんとも不思議な現象だ。最近はメディアの報じ方が悪いと報道側の責任にしている。
「腹案がある」としながら、沖縄の現地に乗り込もうともせず、それでいて5月末決着に妙な自信を示し続けているというのは、よほどの「場当たり主義者」とでも解釈しないと、こちら側も戸惑ってしまう。
「5月政変」の可能性もささやかれはじめた。このままではとてもではないが7月参院選には臨めないとして、鳩山首相の退陣、あるいは小沢幹事長の辞任といった「表紙を変える」作戦で態勢を一新させようというものだ。
ポスト鳩山・小沢として、菅直人、仙谷由人両氏らの名前が浮上している。菅氏の場合は副総理として「次」への順当な位置にいるという見方が作用し、仙谷氏には「反小沢勢力の兄貴格の立場だから、党内をまとめるにはうってつけ」といった評価がされている。
いずれにしろ、9月に民主党は代表選挙を行うことになっている。「鳩山再選はまず考えられないのだから、それなら参院選前に代えてしまうのが得策」といった声もある。
昨年の衆院総選挙での歴史的圧勝から半年余りで、民主党のイメージは様変わりしてしまった。地方選挙を見ても、民主党の看板さえあればだれでも勝てるといわれた状況とは大違いだ。
それでも民主党側が強気の姿勢を崩さないのは、内閣や民主党の支持率が下がっても、自民党の支持率が急上昇するという構図になっていないことが大きい。自民党は願ってもない「敵失」が降ってわいたにもかかわらず、離党者続出、新党ラッシュの波にもまれ、谷垣執行部の求心力はガタ落ちだ。
渡辺喜美氏の「みんなの党」が衆院選で躍進したこともあって、これにならえとばかりに「第3極新党」が次々に誕生している。
平沼赳夫、与謝野馨両氏を中心とした「たちあがれ日本」、首長連合による「日本創新党」、さらには舛添要一氏の「新党改革」。
舛添氏の場合、「次の首相にふさわしい人は」という世論調査の回答で群を抜いていることが、その刺激的な動きの背景となっている。参院選後の総裁狙いでチキンレースを演じているのではないかと見る向きもあったのだが、自民党と統一会派を組んでいる改革クラブ(渡辺秀央代表)などと連携した。
「たちあがれ日本」の応援団長格は石原慎太郎都知事だが、石原氏が仮に今回の参院選への出馬を決断したら、政治状況に新たな要素が加わる。都知事選の前倒しという事態に直面するわけだ。
内閣支持率の急落や新党ラッシュといった動きに翻弄されている政治展開だが、それではいったい参院選はどういう構図で戦われるのか。そこを整理しておきたい。
参院選は3年ごとに総定数の半分121人を選出するものだが、選挙区73、全国比例代表48の議席を争う。選挙区は1人区29、2人区12(北海道など)、3人区5(大阪など)、5人区1(東京)となっている。
改選数は民主54、自民40。非改選が民主62、自民35で、民主党がゲタをはいている分、有利な構図といえる。
前回の参院選では1人区29のうち、民主党が23勝し、これが民主大勝の原動力となった。いわば小選挙区だから、衆院選の場合と同様にわずかな票の移動が勝敗を決することになる。
民主党の選挙対策を一手に仕切る小沢幹事長は、さすがに1人区圧勝は無理と見て、29のうち15勝を目標としているとされる。1人区のほぼ半分だ。そのため、2人区にも強引に2人擁立を決めるなど、議席確保に躍起だ。
複数区の場合、小沢幹事長の作戦が当たるか、共倒れとなるか、そこはなんともいえない。そうしたことを前提に、選挙区での民主党獲得予想議席をカウントしてみよう。
きわめて雑駁なくくり方になるが、1人区で15、2人区と3人区で1人ずつ勝ったとして17、5人区で2人。これで合計34議席となる。
比例代表はどうなるか。比例代表の仕組みはいまだに浸透しきっていないようだが、2001年から非拘束名簿式が導入された。政党などは順番のついていない候補者リストを提示する。
投票は個人名でも政党名でもいい。双方を合計してその政党の得票とし、ドント式の計算方法によって政党の獲得議席が配分される。個人名得票の多い順にその獲得議席まで当選者が決まる。
これをざっくり説明すると、こういうことになる。全国の有権者は1億人。投票率60%(前回は58・6%だった)として投票総数が6000万票。これを48議席が奪い合うわけだから100万票余りで1議席ということになる。
前回選挙では、比例代表で民主党2300万票(当選20人)、自民党1650万票(当選14人)だった。100万票余りで1議席ということが分かる。個人名得票は、1人で100万票を超えるような候補が出れば、当選ラインが下がることになるが、ほぼ20万票が当確と見ればいい。
民主党が、前述したように選挙区で34議席獲得したとしよう。非改選が62議席あるから、単独過半数を狙うには60議席必要になるわけで、比例代表で26議席を取らなくてはならない。
連立の組み合わせに変化がなかった場合、国民新党、社民党など与党陣営の現有議席は計12ある。これを維持したとして、与党の過半数ラインに達するには民主党は48議席でいいことになる。これだと、選挙区34を前提とすれば比例代表では14議席でいい。これは前回の敗北した自民党の比例獲得議席と同じだ。
そう見ていくと、民主党にとっては、1人区惨敗といったよほどの逆風が吹かないかぎり、優位に立っているといっていい。そういう構図でありながら、悲観的な見方が大勢となっているのは、民主党自身がいかに危機的な心理状態に追い込まれているかを示すものといえる。
結党ラッシュの続く新党はどういうことになるか。3人区以上の複数区でどの程度獲得できるかが焦点ともなるが、比例代表では100万票余りでやっと1議席だから、そう甘いものではない。
かつての全国区時代に300万票を獲得した石原氏が出馬して、ほぼ同じ票を獲得したとしても、あと2人の当選者を出せるかどうか、ということになる。舛添氏が新党結成に踏み切った場合は、その人気度から台風の目になる可能性はある。
新党すべてで合計10議席でも獲得できれば、与党の過半数割れを実現させる要因にはなる。その後の政界再編の動きに重大な影響を与えるだろう。「嫌自民」「嫌民主」票をどの程度まで吸収できるか。知名度の高い候補を立てられるかどうかが結果を左右する。
現在の民主党結党以後の過去2回の参院選を振り返ると、民主党と自民党の比例代表の結果はこうなっている。
2007年(安倍政権) 民主2300万(20議席) 自民1650万(14議席)
2004年(小泉政権) 民主2100万(19議席) 自民1680万(15議席)
選挙区を含めた獲得議席はこうだ。
2007年 民主60議席 自民37議席
2004年 民主50議席 自民49議席
これを見れば、自民党は参院選ではいい成績をあげられなくなっていることが明白になる。自民圧勝の参院選はもう1回前の2001年(小泉政権)にさかのぼらないとならない。
このときは、自民64(うち比例20)である。民主党(旧)は26(うち比例8)だ。そのほか、自由党8(うち比例6)、保守党5(うち比例1)となっていた。
現在の政治状況だけ見ていると、7月参院選で民主党大敗は必至という見方が大勢だが、これまでの参院選の経緯を踏まえると、即断はできないのではないかとも思わせるのである。参院選までまだ2カ月以上あるのだ。
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