アメリカ各地ではここ1年以上、「ティーパーティー」が開かれてきました。この「茶会」の運動はオバマ政権の「大きな政府」施策に正面から反対する「草の根」の保守派の抗議活動です。その実態はどうなのか。
「人種差別主義者の集まり」「自己中心の白人富裕層」「エリート層の貧者憎悪」-など、いまの米国でオバマ大統領支持勢力から最もどぎつい非難の言葉が浴びせられるのは、草の根の政治運動「ティーパーティー」である。
オバマ大統領自身も「ふざけるのはやめよう」とか「そんな運動があることはまったく知らない」と、こきおろす。 運動自体の内容に関心を引かれる前に、その運動への攻撃の激しさから逆にその内容に注意せざるをえなくなった。
大統領側がこれほど敵意をむきだしにする相手ならば、なにか重要な意味や威力を発揮する存在に違いない。そんな感じの政治潮流がティーパーティーなのである。
米国の独立直前、イギリスの植民地支配の圧政に反抗してボストンの市民たちがイギリス商船の茶箱をボストン港に投げ捨てて、気勢をあげた事件にちなんだ命名の運動なのだ。
だから「茶会運動」とでも呼べるだろう。
今年度の納税期限の4月15日の「税の日」、首都ワシントンで開かれた茶会運動の大集会に集まった数千人の多くは、過激や憎悪というイメージからはほど遠かった。いかにも温和にみえる普通の米国人らしい、わりに年配の白人の男女たちが多かったのだ。
昨年2月、オバマ政権が苦境に陥った民間企業のAIGやクライスラーに巨額の政府資金を投入し始めたころから米国各地ではティーパーティーと呼ばれる抗議集会が開かれるようになった。
政府が民間に大幅に介入する「大きな政府」リベラリズムへの反対だった。だから明らかに保守主義を基盤とする動きだった。
この茶会運動を担う緩やかな組織のひとつ、「ティーパーティー・エクスプレス」が全米各地から首都への長いバス行進を始め、その終着が首都での「税の日」の集会となったのだ。
茶会運動はすでに実際の政治をかなり明確に動かしてきた。
リベラルの牙城マサチューセッツ州の上院議員補選で無名の保守派候補を当選させたのも、フロリダ州で共和党の現職知事が十分に保守でないとの理由で上院への転進にブレーキをかけられたのも、さらにはアリゾナ州の現職上院議員の大物ジョン・マケイン氏が保守に徹していないとの理由で再選に苦労させられるのも、みな背後での茶会運動の動きが大きいからだとされるのだ。
だが肝心の茶会運動の実態がどうも不明のままだった。ところがその茶会運動も4月上旬になって実像をかなりの部分、表に出すようになった。
「全米茶会連盟」という組織の結成が発表されたのだ。まず運動の目的が明示された。「財政上の責任」「憲法で制限された政府」「自由市場」という3目標だというのだ。
つまりは政府が民間をある程度以上には規制も抑制もしない。「小さな政府」を目指す、ということである。そしてあくまで緩やかに連携を保つ連合体をうたいながら、参加や協力の諸団体の名前を多数、列記していた。
全体で千を超えるという団体のタイトルには各州、各都市の名やティーパーティーという語に加えて、「税制改革」「納税者連合」「自由機能」「家族調査」「保守主義リーダーシップ」「愛国者」「草の根連合」「政府の浪費反対」「立憲主権同盟」「アメリカとの契約」「自由市場繁栄」「レーガン保守主義」などという言葉があった。
なるほど茶会運動側が、政府による支出や規制をトラブルの解決策として優先するオバマ政権の施策を「社会主義」だと非難するはずである。
そして米国民一般の間で連邦の政府や議会への反発や不信がいまほど強いこともないという現状が4月中旬、ピュー調査センターの世論調査で判明した。
「ワシントンの連邦政府を信じられる」と答えたのが全体の22%で、この半世紀ほどで最低の数字だというのだった。
連邦議会に対しても同じ調査は支持25%、不支持65%という結果を示した。こうした反ワシントンの潮流こそが茶会運動を生み、広げたといえるだろう。
となると、茶会運動が11月の米国の中間選挙に及ぼす影響はまだ計り知れないほど大きいということになろう。
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5502 「茶会運動」が反オバマの熱気を広げる 古森義久

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