5月6日にイギリスの総選挙がある。ブラウン首相の失言で英労働党は敗北するかもしれない。しかし、そのことの話題よりも、イギリスの単純小選挙区制の是非をめぐってイギリスでは論議が巻き起こっている。もしかすると「イギリス政治のルールが書き換えられる」ことが起こるかもしれない。
単純小選挙区制は近代民主制が確立するのと同時に、その発祥地であるイギリスで議会議員を選出する手続きとして採用されてきた。しかしこの制度は、政権交代を起こしやすい利点があるものの、”死に票”を生みやすい欠陥がある。
また選挙区の区割りについても、特定政党に有利な区割りになる傾向がある。現在のイギリスの区割りは労働党に有利になっているという指摘がかねてからあった。行き過ぎた例としてはアメリカのマサチューセッツ州知事だったエルブリッジ・ゲリーが1812年に自党が有利になるように選挙区を改定して「ゲリマンダー区割り」と批判された。
日本でも民意を正しく反映するためには、定員三人の中選挙区の方が望ましいという論がある。小選挙区制と比例代表を加味した日本の小選挙区制度下でも小泉政権下で自民党が大勝したが、次の参院選挙で大敗したために”衆参ねじれ現象”を生んだ。民主党は昨年の総選挙で大勝して政権交代を実現したが、7月の参院選で与党が過半数を失えば、再び”衆参ねじれ現象”を生む。
あまり知られていないが、イギリスでは今度、初めて総選挙で党首によるテレビ討論が行われた。自民党のクレッグ党首が、ブラウン首相と保守党のキャメロン党首を上回る支持を集めて、英紙世論調査では第三党の自民党がトップに立ち、保守党が二位、政権党の労働党は三位に甘んじる結果となった。
ロンドンから毎日新聞が著名なジェフリー・アーチャー氏が今度の総選挙は「過去100年で最も重要な選挙」だとし、自民党が今後10年で政権を取る可能性や、選挙制度の変更次第で「保守党は終わる」などと大胆に予測したと伝えている。
コラムニストの中には「2大政党制はすでに終わり、3大政党制になった」と予測する向きもある。その一方で「テレビ討論がなければ、保守党が過半数を取っていた」と分析する声もあるので、どの政党も過半数を得ない選挙結果を生む可能性が高い。
いずれにしてもイギリスが3大政党制になれば、民主、自民両党が低迷している日本政界にも第三極が台頭して同じ様な「チェンジ」が現れるかもしれない。政局を左右する第三極が生まれるのか、参院選はイギリスの政局とあいまって、無党派層の動向も加わって、新しい視点で見守る必要がある。
<【ロンドン笠原敏彦】混迷模様の英総選挙について、元下院議員の経験をもとにした政治小説「めざせダウニング街10番地」の著書があるベストセラー作家、ジェフリー・アーチャー氏に聞いた。同氏は今選挙を「過去100年で最も重要な選挙」だとし、初めて導入されたテレビ党首討論会が「英国を変えた」と指摘。第3党・自由民主党が今後10年で政権を取る可能性や、選挙制度の変更次第で「保守党は終わる」などと大胆に予測した。
保守党員のアーチャー氏は、テレビ討論で自由民主党のクレッグ党首が一夜にして選挙の「主役」になったことについて「彼は英国のアイドルだ」と皮肉った。スター発掘のオーディション番組が花盛りの英国の社会事情を反映した結果だとし、「2大政党制はすでに終わり、3大政党制になった」と述べた。
「3党首」によるテレビ討論は、保守党のキャメロン党首がブラウン首相(労働党党首)より先に合意して実現に道を開いた。「テレビ討論がなければ、保守党が過半数を取っていた。合意はキャメロン党首の戦略的なミスだ」と話した。
テレビ討論による自由民主党の急浮上で、選挙戦は1920年代以来の三つどもえ。どの政党も過半数に達しない「ハングパーラメント(宙づり議会)」の結果が予想されているが、議員3人の首相レースが題材の「めざせダウニング街10番地」(ダウニング街10番地は首相官邸)も最後の設定は2大政党の議席が同数のハングパーラメント。周囲の助言を受けた国王が首相を選ぶ筋書きだ。
アーチャー氏は、ハングパーラメントの場合、新政権発足のプロセスは「ちょっとしたミステリーだ」と述べながらも、キャスチングボートを握る自由民主党が連立や閣外協力する場合、その党是である選挙制度の比例代表制への変更が避けられなくなると予測し、政治状況が一変するシナリオを示した。
比例代表制になれば、自由民主党が制度改革の恩恵を最も受けて「10年で政権を取る」と予想。一方、今総選挙で保守党が政権を取れなければ、「保守党は次の100年間を野党として過ごすだろう」と語った。
なぜなら、労働党が政党選択の優先順位を記す選挙制度への移行を提案しているためだ。この制度では、中道左派の労働党と自由民主党の支持者が相互に1、2位を付け合い、保守党は常に3位にとどまる可能性が予想されるという。
アーチャー氏が「100年」に言及するのは、労働党が自由民主党の前身である自由党(ホイッグ)に代わって2大政党の一角を占めたのが1920年代で、現在の自由民主党の復活までおよそ100年がかかっていることを念頭に置いたものだ。
このため保守党は選挙制度改革に強く反対。しかし、アーチャー氏は「勝者総取り」の現制度では自由民主党が3分の1を得票しても約100議席しか取れない点に触れ、「有権者はそんな制度を支持しない。公平ではない」と述べた。
支持率で自由民主党に抜かれた労働党については、「ブラウン首相ではなく、ミリバンド(外相)やブレア(前首相)が党首だったら選挙情勢は違っていた。(人気の出ない)ブラウンを党首に選んだことが労働党の失敗だ」と言い切った。
【ジェフリー・アーチャー氏略歴】1940年4月、ロンドン生まれ。オックスフォード大卒。29歳で下院議員に初当選。投資に失敗して破産寸前となり議員を辞職するが、この体験に基づく76年の小説「百万ドルをとり返せ!」で作家デビュー。以後、代表作「ケインとアベル」など次々にべストセラーを生み、世界で延べ1億2500万部を販売。過去に保守党副幹事長も務め、92年に一代貴族に任命される。(毎日)>
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5504 イギリス総選挙が日本政界に及ぼす影響 古沢襄

コメント
私は、イギリス総選挙が日本の選挙制度改革に影響を与えることを期待しています。
特に、単記移譲式投票(優先順位付連記投票)が日本に広く紹介され、採用されることを期待しています。